「シャブ山シャブ子」騒動 テレ朝と協議
田中紀子(ギャンブル依存症問題を考える会代表)
【まとめ】
・テレ朝社長会見で表明のあった番組スタッフとの話し合い実現。
・薬物依存症めぐる問題点を説明し、テレ朝「重く受け止める」。
・TV制作スタッフとの勉強会実現要望。テレ朝からの提案見守る。
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先日、テレビ朝日系人気ドラマ『相棒 Season17』の「シャブ山シャブ子騒動」について書いたが、実は12月19日に番組スタッフとお目にかかり話し合いの機会を頂くことができた。
テレビ朝日側は、11月27日の定例社長会見で、編成担当の亀山慶二専務(59)は、我々「依存症の正しい報道を求めるネットワーク」が提出した要望書に対し、「話し合いをする用意がある」と答えて下さっており、それが実現する形となった。
番組側からはドラマ制作部のプロデューサーが2人と、社内弁護士の計3名が出席し、我々「依存症の正しい報道を求めるネットワーク」からは、
・国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 薬物依存研究部精神科医 松本俊彦
・特定非営利活動法人 アスク 代表 今成知美
・特定非営利活動法人 ダルク女性ハウス 代表 上岡陽江
・公益社団法人 ギャンブル依存症問題を考える会 田中紀子
及びネットワーク以外では、この問題で署名活動をした薬物依存からの回復者でもある
・木津川ダルク 加藤武士が参加した。
まず、今回の要望書に関し我々から一言ずつテレビ朝日側に補足説明をさせて頂いた。
写真)テレビ朝日本社
出典)Wiiii(Wikipedia)
最初に、わが国の薬物依存問題の最先端を走る精神科医松本俊彦から、「薬物を憎むことは構わないが、薬物依存に悩んでいる人と問題を混同してしまうことが悩ましい。恥ずかしながら医者ですら、薬物依存の人達は『危ない』『怖い』『何かきっと問題を起こすに違いない』と医療自体をネグレクトしてしまっている状況も多々起きている。そしてダルクのようなリハビリ施設が排斥運動にさらされてしまっている。
何故、こういうことが起きているのかと考えると、不適切な乱用防止の啓発や表現が根本原因にあるのかと思う。シャブ山シャブ子さんのように大げさに描くことで、若者たちが最初の1回を回避できているのであれば、もしかしたらこういった手法もありなのかもしれないが、実際には若者たちにはシャブ山シャブ子さんとは全然違う、優しくてかっこいい人が声をかけてくるので、そのギャップが逆効果になっている。
そして薬物依存症という問題を抱えている人達の、地域における矯正社会も阻んでしまっている。今回、我々は文句を言っているような形になっているけれども、本当はメディアの力をお借りして、正しい情報を伝えていきたい。その援護射撃をお願いしたい。」と説明させて頂いた。
写真)イメージ
出典)pixabay CC0 Creative Commons
次に、ダルク女性ハウスで、女性の薬物依存症者の支援を28年間にわたって続けてきた上岡陽江氏から「今まで女性の回復施設であのような状況になった女性は見たことがない。女性の依存症者は回復しても、アパートを借りるのも、仕事に就くのも、子供の学校の関係でも苦労している。また依存症の女性の85%は暴力の被害者でもある。虐待を受けた人達の何割かが依存症を発症している。これらの現状をよく理解して頂きたい。
また、過去にはドラマの中で薬物の問題を取り上げたものがあったが、その場合事前に取材などに来られ、施設にいる人達にインタビューなどもしていった。丁寧にドラマが作られていた時代を知っていたので、この件は残念で驚いている。ただ、今まではこういったことがあっても発信せずにきたが、今回はネットワークで伝えることになり、こうして話し合いの機会を頂けたのはよかった。」と話した。
実は、今回ネットワーク以外でこの問題に関し署名活動やHPを作成するという当事者の動きがあり、その代表を木津川ダルクの加藤武士がつとめていたので、この度の話しあいの席にも出席して貰うこととなった。加藤はおよそ1300名の署名を持参し「覚せい剤を使っている人達が殺人を犯すことが、ネット上でリアルな名演技と評価され、間違ったイメージが増長している。むしろメディアの役割としては、市民の間違ったイメージを是正するものであって欲しい。シャブ山シャブ子というネーミングも薬物依存症という障害をバカにしているようで気になる。また、ドラマでシャブ山シャブ子は罪を犯しても責任能力を問えない可能性があるという場面があり、それもまた誤解を招く。確かに触法精神障害者(編集部注:精神障害者で犯罪を起こした者)の処遇は議論されてきているが、覚せい剤事犯は殆どが責任能力を問われてきている。
また海外の映画やドラマでも薬物依存症者の描写はあるが、ドラッグを使って苦しんでいるシーンや、回復について描かれている。日本でも、そういった回復の側面を描いて欲しいと思う。」と述べた。
ここで私から、「ここまで薬物依存に関わってきた者たちの意見を聞いて頂いたので、テレビ朝日の皆さんの側からの意見を伺いたい。」とお伝えさせて頂くことにした。
すると社内弁護士の方から「私も国選弁護業務で覚せい剤の方々の弁護に関わり、ダルクや医療の方に協力して頂いているので、実際の皆さんの活動はよく知っている。またそういった関わりの中で、今回のドラマのような極端に走るケースは非常にレアであることもわかっている。その上で、今回の件は誤解を招きかねない表現であったという点、また皆さんの言葉を重く受け止めやっていかねばならないということを感じている。今回ダルクの排斥運動などが起きていることを初めて知り驚いている。」という言葉を頂いた。
これを受けて「我々としてはこうして回復し、支援の側にまわっている生身の人間がいることを見て頂きたい。また、ダルクの排斥運動が全国で広まっていったら、日本の薬物問題は大変なことになる。間違った描写で火に油を注いで欲しくない。今回の件を受けてむしろ回復した薬物依存症者がHEROとなるような設定の回を作って頂けないか?」と補足させて頂いた。
更に「具体的にテレビ朝日の皆さんに何をやって頂けるのか知りたい。」と重ねて尋ねると「今この場で何ができるかと答えるのは難しい。大きな宿題を頂いたと思っている。今言われた、ドラマの中で話を作るのか、はたまた別の機会になるのか、検討させて頂きたい。」とおっしゃって頂いた。「またダルクの活動がなければ、刑の一部執行猶予制度なども機能しない訳で、そういったことも踏まえ、今日お話しを伺って持ち帰りたい。今日で、全く連絡が取れなくなるという訳ではなく、検討してご連絡させて頂きたい。」と述べられた。
ここでアルコール問題の啓発活動に30年間関わってきたアスクの今成知美氏より、「これまでアルコールでもこういったメディアとの話し合いはあった。例えばドラマの中で『イッキ飲み』をガンガンやらせたり、『ミネラルがとれる』という触れ込みで、妊婦さんにビールを飲ませることを推奨したりということが時代時代で起きていた。そしてそういうことがある度に話し合いがもたれ、情報の訂正という形で次の回にテロップで入れて頂いたり、ホームページに載せて頂く、次の週にキャスターが訂正を読みあげるなど、いろいろな形で修正があった。今回どのような形がよいのか?と思っている。」と伝えられた。
また、「今回なぜシャブ山シャブ子を入れることになったのか?」という問いが重ねてあり、これについては番組プロデューサーの方から「今回は、組織犯罪、つまり暴力団を描く上で、警察も手が出せないくらい一筋縄ではいかない組織という設定になっていた。その中で普通のヒットマンでは、すぐに警察が介入してくる。そこで手練手管で社会的弱者を陥れヒットマンに仕立て上げてしまう・・・それほど凶悪な犯罪組織ということが描きたかった。」と経緯を伝えて頂いた。またドラマ制作部のプロデューサーの方からは「松本先生の薬物に関する発信なども読ませて頂き、知見が足りなかったなということを実感している。」とおっしゃって頂いた。
おそらくテレビ朝日の制作スタッフの方々は、これまで薬物依存症者をご覧になることなどなかったであろう。しかしながら今回こうして回復者となった面々をご覧いただけたことは非常に有意義な場となったのではと感じている。
最後に「是非TV制作スタッフの皆さんと勉強会などを実現して頂きたい。」とお願いを申し上げた。今後テレビ朝日側からどのような提案を頂けるか推移を見守り、またご報告させて頂きたいと思う。
トップ写真)依存症の正しい報道を求めるネットワークの面々とテレ朝との協議
出典)ギャンブル依存症を考える会 提供
修正)2018年12月30日 08:10
・トップ画像を変更
・記事中画像1枚削除しました。
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この記事を書いた人
田中紀子ギャンブル依存症問題を考える会 代表
1964年東京都中野区生まれ。 祖父、父、夫がギャンブル依存症者という三代目ギャンブラーの妻であり、自身もギャンブル依存症と買い物依存症から回復した経験を持つ。 2014年2月 一般社団法人 ギャンブル依存症問題を考える会 代表理事就任。 著書に「三代目ギャン妻の物語(高文研)」「ギャンブル依存症(角川新書)」がある。