ファーウェイ疑惑、10年以上前から
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視 」
【まとめ】
・トランプ政権、中国ファーウェイ(華為技術)を敵視。
・07年ファーウェイ米通信技術企業吸収合併に対し米議会懸念表明。
・米下院委員会、ファーウェイは安全保障への脅威と報告書。
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米中関係が険悪化するかで、中国のハイテク企業のファーウェイ(華為技術)に対するトランプ政権の厳しい措置が国際的な注視を集めている。アメリカ政府はなぜファーウェイをここまで警戒し、敵視するのか。
その理由の一つを報告したい。アメリカ側では政府も議会も実はファーウェイに対しては長年、脅威を受けてきたのだ。私自身がワシントン駐在の産経新聞記者としてその一端をなんといまから10年以上も前の2007年10月に報道していたのだ。
米通信企業 中国大手が合併 軍事技術の流出懸念 特別審査へ
2007-10-13・東京朝刊・国際2面
【ワシントン=古森義久】中国の通信機器製造の大手企業が米国の通信技術企業を吸収合併することに対し米国議会から懸念が表明され、この合併が米国の国家安全保障に損害を与えないかどうかの特別審査を受けることとなった。この中国企業は人民解放軍との関係が深く、国連の規制に違反してイラクの旧フセイン政権やアフガニスタンの旧タリバン政権に機器を供与したことがある。吸収される米国企業は国防総省の軍事関連通信にかかわってきたため、その関連技術が中国側に流れることが懸念されるのだという。
米国のマサチューセッツ州に本社をおく通信技術企業「スリー・コム」(3COM)社は、米国投資企業の「ベイン・キャピタル・パートナーズ」と中国の通信機器製造大手の「華為技術」社と合併する方針を10月上旬、発表した。実態は華為、ベインの両社が22億ドルで3COMを取得するわけで、新たに登場する合併新企業では華為が3COMの技術などを入手できることとなる。
しかしこの合併に対し米国議会の下院軍事委員会有力メンバーのダンカン・ハンター議員(共和党)や上院情報特別委員会有力メンバーのクリス・ボンド議員(同)が懸念を表明し、外国投資が米国に国家安全保障に悪影響を与えないかどうかを調査する政府機関の「外国投資委員会」(CFIUS)による特別審査を求めた。
ダンカン議員らが懸念を表明する理由として(1)華為技術は中国人民解放軍幹部により設立された企業で、軍とのつながりが深く、軍の通信網を建設することで発展してきた(2)華為は2000年ごろイラクの旧フセイン政権に対し国連制裁の規制に違反して光ファイバー通信機材を売った(同機材はイラクの防空ミサイル基地に使われた)(3)華為はアフガニスタンの旧タリバン政権にも同時期、電話通信システムを供与した(4)一方、3COMは米国防総省のコンピューター・システムへのハッカー侵入防止の装置を調達してきた−などという点をあげている。
その結果、もし合併が実現すれば、3COMの国防総省関連の技術が華為技術を通じて中国軍に流れる恐れがあるという。
このため米側の財務省主導の外国投資委員会では3COMでの軍事関連技術の管理などを中心に調査を進めるという。
★★★
その続報が以下だった。
米中通信企業合併 「安全保障脅かす」 米下院に反対決議案
2007-10-17・東京朝刊・国際2面
【ワシントン=古森義久】米国の大手通信技術企業が、人民解放軍と関係の深い中国企業が加わる別の米国企業に吸収合併される計画に反対する決議案が米国下院にこのほど出され、提案した議員は15日、この合併は米国の国家安全保障への脅威になると言明した。
下院外交委員会の共和党側筆頭メンバーのイリアナ・ロスレーティネン議員は15日、米国の大手通信技術企業「スリー・コム」(3COM)社が米国投資企業の「ベイン・キャピタル・パートナーズ」と中国の通信機器製造大手「華為技術」社と合併する方針に反対することを表明した。
同議員は、この合併が米国の国家安全保障を脅かすとして米国政府に合併を認めないことを勧告する下院の決議案への賛成を強調した。
「ベイン・キャピタル」と「華為技術」は合同で22億ドルを出して「3COM」を買う方針だが、3COMは米国防総省コンピューター・システムへのハッカー侵入防止装置などの特殊技術を有し、米軍の通信機密を守る作業に参加してきた。
一方、華為技術は中国人民解放軍幹部により設立された企業で、軍とのつながりが深く、軍の通信網を建設することで発展してきたうえ、イラクのフセイン政権やアフガニスタンのタリバン政権に軍事関連の通信システムを売ってきた。このため米国議会から「この吸収合併が実現すると、3COMの軍事関連の特殊技術が華為技術を経て中国軍に流れ、米国の安全を脅かす」という懸念が表明され、10月中旬、下院にこの合併に反対する決議案が8人の議員により提出された。その間、行政府側でも「外国投資委員会」(CFIUS)がこの合併が米国の国家安全保障に損害を与えないかどうかの特別審査をすることとなった。
★★★
以上のようにファーウェイをアメリカにとって危険な存在だとみなす認識は米側の議会にも政府にも満ち満ちていたのである。
さらにそれから5年後の2012年には以下のような動きがあった。
これも私自身の記事である。
中国国有企業 米、広がる警戒 「軍事技術盗む」
2012-02-17・東京朝刊・国際面
【ワシントン=古森義久】米国議会の政策諮問機関の「米中経済安保調査委員会」は15日、公聴会を開き、中国の大手国有企業の対米活動について論議。議員から、透明性を欠いたまま、政府の意向を体現しようとする国有企業の実態が報告され、最新軍事技術の流出の可能性も含め、警戒論が相次いだ。
公聴会は、中国の大手国有企業の活動が、米側の安全保障にどう影響するかに焦点が当てられた。同調査委のマイケル・ウェッセル委員長は、中国の経済発展の推進役を担う大手国有企業について、「市場原理を無視してでも中国共産党の意向に従って活動するため、米側は警戒を要する」と問題を提起した。
ロビン・クリーブランド委員もこれに続き、「政府からの資本や技術での不当な補助を受けている」と証言し、透明性や責任明確性を欠く国有企業の経営手法を批判した。
公聴会では、国有企業と中国軍との密接な関係も議題にあがり、東部ノースカロライナ州が地元のスー・マイリック下院議員(共和党)は、通信業大手の華為技術有限公司の地元進出について、「この企業の中国人社員の多くが人民解放軍と独特のコネを有している」と指摘した。
一方、米議会の鉄鋼議員連盟を代表するピーター・ビシクロスキー下院議員(共和党)は鉄鋼業が盛んな北部インディアナ州が選挙区。中国企業の鞍山鋼鉄集団が投資名目で進出してきたといい、「米側競合企業の技術を奪い、軍事目的に使う危険性が高い」と警戒感を示した。
★★★
写真)Ken Hu, Huawei Rotating Chairman
出典)HUAWEI
この記事が指摘する「脅威」もファーウェイだった。
さらに以下の記事も2012年10月に出ていた。
「対米スパイ工作関与」 米下院委、中国通信大手名指し
2012-10-10・東京朝刊・総合1面
【ワシントン=古森義久】米下院情報特別委員会は8日、中国の大手通信機器企業の活動が米国の国家安全保障への脅威になるとする調査報告書を発表、これら企業は中国共産党や人民解放軍と密接につながり、対米スパイ工作にまでかかわるなどと指摘した。
問題視された中国企業は、米市場でも製品などが広く流通している「華為技術」と「中興通訊(ZTE)」。報告書ではまず、両社の中国の党、政府、軍との特別な関係を挙げ、それぞれ社内に共産党委員会が存在し、企業全体が同党の意思で動くとしている。
そのうえで報告書は、華為技術が軍のサイバー攻撃・スパイ部隊に特別のネットワークサービスを秘密裏に提供していることを示す書類を、複数の元社員から入手したとしている。
報告書は、中国によるサイバー作戦の技術面で華為技術やZTEが枢要の役割を果たすとの見解を提示。これら企業の製品を米側の軍や政府、民間の電力、金融などのコンピューターシステムに組み込むと、中国側の操作により、同システムに破壊や混乱を起こすことが可能になるとしている。この種の情報の詳細は報告書の非公開部分に記されているという。
報告書はまた、華為技術の創業者の任正非総裁が人民解放軍の出身で軍との間に特殊な絆があり、孫亜芳会長が公安部門とつながっている疑いが強いとした。
その結果、両社の米国に対する活動は商業的とされても米国の国家安全保障への脅威になるとして、米企業の両社との取引自粛や、とくに政府や軍関連機関への調達禁止を勧告した。
下院情報特別委は、両社に知的所有権侵害や汚職、入国管理法違反など法律違反の行為が多いとして、米捜査当局にも刑事事件捜査の開始を要請したという。
★★★
このようにファーウェイはアメリカ側からは7年も前から超党派でスパイ工作の疑惑を指摘されていたのである。
トップ写真:ファーウェイロゴ 出典:ファーウェイ
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。