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.国際  投稿日:2024/10/29

中国の台湾戦略、そして尖閣戦略は その3 台湾攻略はいまや多様


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

古森義久の内外透視

【まとめ】

・日本は尖閣諸島問題を中国の広域的な戦略と関連づけて捉える必要がある。

・中国の軍事増強により、台湾攻略には上陸以外の戦術も増え、日本の米軍基地にも潜在的な危険性あり。

・台湾封鎖などの中国の行動は、米日の介入を難しくし、中国に有利に働く可能性。

トシ・ヨシハラ「確かに日本側は、官民ともにいまの尖閣諸島の状況を国家的な危機とみなして、本格的な政策や戦略の議論を広める必要がありますね。ただしその際に精査する中国側の動きは単に尖閣だけに限ってみることは避けるべきです。中国の尖閣への攻勢は南シナ海、東シナ海、そして台湾をも含めての広範な海域、地域での野心的な動きの一環だからです。

中国はいま、南シナ海のスプラトレー諸島のセカンドトーマス礁でフィリピンの船舶を追い出す作戦を進めています。フィリピン側の10倍もの艦艇を動員しての実力行使の領土収奪なのです。中国は台湾の金門島にも領海侵入などにより圧力をかけています」

古森義久「結局は中国の東アジア、西太平洋の全域での覇権の拡大ということでしょうね。その主眼は台湾の併合にある。同時にアメリカを追い出す。アメリカの同盟国である日本の力を弱め、アメリカから離反させる。こんな野心的な戦略の一環として尖閣問題もみるべきですね。ただし、日本にとってはまずは国家主権、領土保全という基本的な大問題ですが。しかし、尖閣の問題もいまや米中両国間の最大課題、そしてグローバルな重要性を持つ台湾という課題と引き離せないことは、よくわかります」

ヨシハラ「中国の台湾への戦略については新たな視点が必要です。それは中国側の戦力が大幅に強化され、台湾攻略の方法には多数のオプションが生まれてきたことです。従来は正面からの中国軍の台湾海峡を越えての大規模上陸作戦が、まず誰もが予測するシナリオでした。ところが中国軍全体の近代化のためにその予測すべき幅が広くなったのです。この点は対尖閣という状況と似ています。

人民解放軍はいまや世界最大の海軍を保有しています。空軍もアジア地域では最大です。世界的には米空軍に次ぐ第二位ですが、その差を縮めている。地上配備のミサイルも世界最大数です。核戦力も急速に増強されている。中距離の戦域核では世界最大ともいえる。この軍事力の大増強は、台湾攻略でも従来の上陸作戦以外の方法を生み出す結果になりつつあります。だから米側、台湾側では上陸作戦以外への本格的な対処も必要になってきました。

中国は台湾攻略の目的のために、たとえば空爆やミサイル攻撃だけを実施するかもしれない。その場合、台湾領内が主標的でも周辺の米軍基地も攻撃するかもしれない。日本国内の米軍基地も標的となりえます。このミサイル攻撃と空爆だけでも台湾を屈服させられるかもしれない。もしそうでなければ、同時に上陸作戦を実施するでしょう」

古森「日本からすると、中国軍の台湾上陸作戦がなくてもミサイル攻撃を受けるという危険きわまるシナリオですね。日本側ではなかなか仮定の仮定でも出てこない想定です」

ヨシハラ「多様な選択肢としては海上封鎖という手段もあります。中国軍が台湾周辺に海上封鎖網を敷き、締めつけるわけです。台湾の港の外周への機雷敷設や潜水艦での威嚇的なパトロールもあるでしょう。その前段階では正規の海軍は投入しない海上検疫(quarantine)という方法も考えられます。中国海警や海洋民兵という準軍事組織により台湾に出入りする船舶を選別的に制約して圧力をかける。

海上封鎖ならば戦争行為に近い。しかし海上検疫だと、その定義が難しい。だからアメリカや日本など関係諸国にとってどう対処すべきかが難儀となります。海上検閲では第三国の船舶が中国の港に立ち寄りを求められ、検疫を受ける。だがその動きは軍事的な強制行為ではない。ワシントンや東京ではこの事態をどうみて、どう対応するか、を考えます。その時間が中国にとっては有利になるわけです」

古森「なるほど、台湾にとっては存続を左右するほどの危険な事態となっても、軍事攻撃を受けているわけではない。だから米軍の介入にも直線的にはつながらない」

(その4につづく。その1その2)

*この記事は雑誌「月刊 正論」2024年11月号に掲載された古森義久氏の論文の転載です。

トップ写真:中国人民解放軍の海軍潜水学校(2024年4月21日)出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images






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