トランプ氏、在韓米軍撤収せず 偽ニュース再び
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視 」
【まとめ】
・米韓関係に関する日本メディア・有識者たちの画一的発言。
・反トランプメディアは根拠の薄い未確認情報を事実の様に公表。
・在韓米軍撤退、撤収に関しトランプ大統領は一度も言及していない。
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アメリカのトランプ政権の日本側での読み方にはあいかわらずフェイクニュースと呼べる種類の情報が多い。「トランプ大統領は米韓同盟をはじめアメリカと諸外国との同盟関係を解消したがっている」という情報もその偽ニュースの範囲に入りそうだ。この情報は客観的な事実を伝える正確な報道であるかのように日本の各大手メディアをにぎわせていた。
ところが、である。
「米大統領 在韓米軍撤収せず」という見出しの記事が日本の各新聞に載った。2月4日、5日の紙面である。産経新聞のこの記事の冒頭は以下のようだった。
「トランプ大統領は2月3日、放映されたCBSテレビとのインタビューで、朝鮮半島情勢に関し、在韓米軍の撤収を『計画していないし、撤収に向けた協議をしたこともない』と述べた」
これまで日本の新聞もテレビも「トランプ大統領は米韓同盟の縮小や撤廃を望んている」という趣旨の情報をあたかも事実の報道であるかのように流し続けてきた。その内容は日本の各メディアや識者とされる人たちの言明として奇妙なほど画一的だった。一人が「在韓米軍撤退だ!」と叫ぶと、100人がまったく同じ中身で呼応するという感じだった。トランプ大統領の読み方での日本型群衆心理、集団言動とでも呼ぶべきか。
ではトランプ大統領が米韓同盟を止めたいと思っているという情報の根拠はなにかとなると、年来の反トランプのアメリカのメディア、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、CNNテレビなどがその源だった。しかも実名をあげない「消息通」や「トランプ政権筋」がもらした言葉という範疇の根拠で終わってしまう。
アメリカが年来の同盟を止める、というのはいまやアメリカの敵であることが明白となった中国やロシアの政治宣伝とも合致する。要するに内外のトランプ叩き勢力のスピン(ひねり)の効いた情報だという場合が多いのだ。要するに未確認情報が事実のように伝えられてきたのである。だがあくまで事実ではなかった。
なぜならトランプ大統領自身、今回のCBSの報道のとおり、公式に米韓同盟の縮小や解消を示す言葉を述べたという記録はないからである。本人がそんなことは計画したことがないと断言しているのだ。私自身の調査でも、トランプ大統領が米韓同盟や在韓米軍の終わりに言及したことはただの一度もない。
それでもなお「いや、トランプは本当は米韓同盟をなくしたいと思っているのだ」と断じることは、もう客観報道の域をはるかに越えている。政治意図からの偽ニュースの域といってよいだろう。
さらにはトランプ大統領がこのCBSのインタビューで語っているように、在韓米軍の撤退も撤収もいつかはありうる、だろう。しかし同大統領がそんな政策オプションをこれまでには望んだことも、述べたこともない、というのである。
ただしトランプ大統領は米韓同盟でも、北大西洋条約機構(NATO)での同盟でも、同盟維持の経費や人的な負担の不公正には激しい批判の言葉を述べてきた。この同盟の負担の現状への不満を同盟自体への不満にすりかえる向きが多いのである。
日本でのトランプ報道にはくれぐれも用心を、と強調したい。
なおトランプ評価など国際的な出来事の報道や論評の日本のメディアでの誤りや偏りについて私は最近、『偽ニュースとプロパガンダ全内幕』(産経新聞出版)という本を出した。
産経新聞で朝鮮半島報道を長年、続けてきた黒田勝弘記者との共著である。この種のテーマを構造的かつ体験的に分析したつもりである。ご関心のある方に奨めたい。
▲出典:産経新聞出版
トップ画像:トランプ大統領と文大統領(2018)出典:frickr; The White House
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。