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.国際  投稿日:2019/2/26

トランプに対北制裁破り勧める韓国


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・あいまいになった核のCVIDは文在寅政権の欺瞞行為。

・韓国は制裁に抵触しないような対北朝鮮経済活動を画策中。

・文大統領、103兆ウォンを超える南北経済協力費用を負担?

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=44360でお読み下さい。】

 

第2回米朝首脳会談が27日~28日にベトナムのハノイで開かれる。この会談に北朝鮮の金正恩委員長は、なぜか60時間もかけて陸路で向かった。この見送り場面は、昨年のシンガポール会談時とは異なり24日付の労働新聞1面を飾ったが、あたかもトランプ大統領に勝利したかのごとき様相だった。

事実、2018年6月12日の「第1回米朝首脳会談」では、トランプ大統領が金正恩から得たものはほとんどなかった。「共同声明」では「北朝鮮体制保障」後「非核化」という論理にはめ込まれ、「北朝鮮の非核化」ではなく「朝鮮半島の非核化」が努力目標とされた。そして、北朝鮮核のCVID(完全かつ検証可能、不可逆的な非核化)要求も「完全な非核化」というあいまいな表現にすり変えられた。そうしたことから、多くの専門家はこの会談を「ノーベル賞狙いの非核化ショー」だったと酷評した。

▲写真 金正恩委員長とトランプ大統領(第1回米朝首脳会談) 出典:Twitter; Dan Scavino Jr.

その結果、経済制裁と軍事オプションを組み合わせた「最大限の圧力」でせっかく手にしたアドバンテージを失うことになり、マジノ線としてきた「北朝鮮核兵器の申告」要求すら実現が危うい状況となっている。

この失敗の背景には、トランプ大統領の北朝鮮と金正恩に対する「認識不足」と自身の「エゴや功名心」があったと思われるが、それにも増して、その弱点を巧妙に利用し、一貫して「金正恩が核の放棄を決意した」と騙し続けた文在寅政権の欺瞞行為があったことは否定できない。

いま文在寅政権は、ハノイ会談で何らかの成果を引き出したいトランプ大統領の「焦り」に付け込み、対北朝鮮制裁に穴を開けようとして躍起となっている。

 

■ 電話会談で制裁破りを促す文在寅

文在寅大統領は、トランプ大統領との電話会談(2月19日)で、財政負担を嫌うトランプ大統領に「相応の措置として韓国の役割を活用してほしい」と伝え、制裁破りとも言える南北経済協力推進を、非核化の呼び水として提案した。

▲写真 文在寅大統領とトランプ大統領 出典:Flickr; Natig Sharifov

文大統領は、「南北間の鉄道・道路連結から南北経済協力事業までトランプ氏が要請するなら役割を引き受ける覚悟ができている。それが米国の負担を軽くすることができる道」と話した。

金正恩が新年辞で求めた開城(ケソン)工業団地や金剛山(クムガンサン)観光の再開を促したのだ。開城工団再開は、国連安全保障理事会の制裁決議に抵触する面が強いので突破が困難だとしても、観光事業は直接禁じられていことから、なんとか金剛山観光だけでも解除させようとの狙いがあったと思われる。

▲写真 開城工業地区 出典:Wikimedia Commons; Mimura

しかし、トランプ大統領は「首脳会談に関するほぼすべてのことについて(北朝鮮と)議論した」としつつも、この件について特に反応を示さなかったという。

 

■ 準備させている合法的制裁破り案

韓国当局が検討している制栽破りの対北朝鮮経済協力案は、北朝鮮に表面上巨額の現金が渡らなくするとの方法だ。現行の対北朝鮮制裁では、北朝鮮に巨額の現金を与えるとそれが核とミサイル開発費用に転用されるとして禁じられている。

開城工業団地での具体的方法としては北朝鮮労働者に賃金を直接支給または現物で支給するというものだ。賃金を北朝鮮当局ではなく第3者協議会等を通じて渡したり、食糧など人道的支援の意味合いのある現物で提供したりすれば制裁に抵触しないのではとの案である。

米国の対北朝鮮制裁強化法も「賃金と恩恵が勤労者に直接提供され、提供された賃金と恩恵を勤労者が保有する場合、制裁対象から除外できる」(Section9241b)とする例外条項を置いている。ちなみに開城工業団地では、雇用された北朝鮮勤労者の賃金や保険などのために支出する費用は、公団の稼動が中断された直前の2015年基準で年間約1億ドル(約110億円)となっている。

金剛山観光の費用も類似の方式で検討されている。現代峨山(ヒュンダイアサン)は50年間金剛山地域に観光客を誘致する代価として9億4200万ドルを与えることにしているが、これも巨額の現金が北朝鮮に流入することになるため国際社会の制裁に抵触することになる。また観光客が落とす現金も巨額だ。

これを回避する案としては、観光自体は制裁対象でないため、ビザの発給を受けるように観光客が各自現地で小額を支給したり、国際銀行などに預けた後、核問題が解決された時に一括支給したりする方法などが検討されている。

そのほか、鉄道・道路の現代化など北朝鮮の社会間接資本(SOC)建設費用を計上処理する方案も代案の中の1つとして検討されているという。

 

■ 文大統領は北朝鮮問題になると理性喪失

文大統領が、北朝鮮に対する経済支援を負担すると公言したが、南北経済協力の全費用は天文学的だ。韓国国会予算政策処は昨年10月、板門店(パンムンジョム)宣言で合意した鉄道、道路、港湾など10分野の経済協力に少なくとも103兆2008億ウォンが必要だと見通した。これがすべて韓国国民の血税からまかなわれることになるのだが、文在寅氏は北朝鮮の復興のことしか頭にないようだ。

韓国野党のある議員は、「文在寅大統領は北朝鮮問題さえ出てくると理性を喪失する傾向があるが、19日にトランプ米国大統領との電話会談で再び『対北朝鮮理性喪失症候群』が再発した」と批判した。

トップ写真:文在寅大統領 出典:Flickr; Republic of Korea


この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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