韓国国会議長訪米のわけ
島田洋一(福井県立大学教授)
「島田洋一の国際政治力」
【まとめ】
・韓国国会議長、訪米の目的は北朝鮮の制裁緩和。
・早まった圧力緩和は真の非核化の妨げとなる。
・日本は超党派で「制裁堅持」を主張すべき。
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=44250でお読み下さい。】
韓国の文喜相(ムン・ヒサン)国会議長が米ブルームバーグ通信が2月8日付で報じたインタビューで慰安婦問題に触れ、天皇を「戦争犯罪の主犯の息子」と呼んだ上、直接謝罪を求めたことが波紋を呼んでいる。
日本からの高まる批判に対し、文氏は「謝罪する側が謝罪せず、私に謝罪しろとは何事か」「盗人猛々しい」などと反発し(韓国聯合通信、2月18日)、騒ぎは益々拡大の様相を見せている。
慰安婦問題をまた米国で蒸し返し、天皇侮辱発言までした文氏の行為は厳しく指弾されねばならない。
しかしより重大なのは、そもそも文氏が何のために訪米したかである。その主目的は、27日からの米朝首脳会談を控え、ナンシー・ペロシ下院議長ら米側要人に、北朝鮮に対する制裁緩和を訴えることであった。
▲写真 ナンシー・ペロシ下院議長 出典:Facebook; House Speaker Nancy Pelosi
日本の政治家らが、何よりも危機感を持って対処すべきは、韓国側のこの動きのはずである。ところが日本の国会はどこまでも本質を見失っているようだ。
米国の政治家からは動きが出ている。2月11日付で、テッド・クルーズ(共和党)、ボブ・メネンデス(民主党)の有力上院議員2人が、韓国の対北宥和政策を批判し、対韓制裁を考えるべき旨を記したポンペオ国務長官宛の書簡を公開した。2人ともキューバ難民の子弟で、北朝鮮や中国の人権抑圧に厳しい姿勢を取ってきた。
▲写真 テッド・クルーズ上院議員 出典:Wikimedia Commons; Michael Vadon
この書簡を引用する形で、ワシントン・ポストのジョシュ・ロギン記者が、「議会が北朝鮮に関し、文在寅とトランプに警告を発す」(Congress sends a warning shot to Moon and Trump on North Korea)と題した機宜に適った記事を書いた(2月14日)。
▲写真 ボブ・メネンデス上院議員 出典:Menendez press office
冒頭にこうある。
「トランプ大統領と金正恩の2回目の首脳会談を控え、韓国政府が早まった圧力緩和に邁進している。それは真の非核化を進める最後の機会を掘り崩しかねない。トランプ政権は、ソウルの誤った行為に追随しかねない危うさを見せている」
これこそ目下最も重要な問題意識であろう。
日本政府や国会議員が文国会議長の天皇発言を批判し、撤回と謝罪を求めるのは当然である。しかしそこにのみ目を奪われてはならない。今何よりなすべきは、韓国の動きに対抗し、「日本は対北制裁緩和に反対」という声を明確にワシントンに伝えることである。
韓国のみならず、中国、ロシアも制裁緩和を米側に促している。米国内でも、野党民主党の議員の大多数は宥和派である。与党共和党には、自党の大統領を批判したくないという力学が働く。
強硬派のボルトン大統領安保補佐官や、クルーズ、メネンデス議員らは今後孤立しかねず、同盟国日本からの継続的な援護射撃を必要としている。
超党派の「制裁堅持」訪米議員団を組み、韓国を論破するといった行動に思いが及ばず、文氏の天皇発言を非難するばかりでは、期せずして相手の目くらまし弾に引っ掛かることにもなろう。
トップ写真:ハリー・ハリス特命全権大使と文喜相国会議長 出典:在韓米大使館
あわせて読みたい
この記事を書いた人
島田洋一福井県立大学教授
福井県立大学教授、国家基本問題研究所(櫻井よしこ理事長)評議員・企画委員、拉致被害者を救う会全国協議会副会長。1957年大阪府生まれ。京都大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。著書に『アメリカ・北朝鮮抗争史』など多数。月刊正論に「アメリカの深層」、月刊WILLに「天下の大道」連載中。産経新聞「正論」執筆メンバー。