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.国際  投稿日:2019/1/16

米、深刻な国内政治の劣化


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2019 #03」

2019年1月14日-20日

【まとめ】

・トランプ氏は国防予算からメキシコ国境壁建設費用の捻出検討。

・米国では不法移民対策強化を求める声が高まりつつある。

・今の米国政治は1970年以降の米国内政劣化の「結果」。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=43729でお読みください。】

 

 あっという間に今年も第3週に入ったが、米連邦政府の閉鎖は今も続いており、既に本原稿を書いている時点で22日間を超え、史上最長となっている。トランプ氏はメキシコ国境に壁を建設する予算承認を連邦議会に執拗に求めているが、中間選挙で下院多数派となった民主党には譲る気配が全くない。当然だろうが・・・。

 

 それもあってか、最近トランプ氏はメキシコからの不法移民は「国家安全保障上の危機」であり、このままでは「国家非常事態宣言」を発出するかもしれないという。報道によれば、陸軍工兵隊用の施設建設費など国防予算の中から壁建設費用を捻出できるというのだが、どうやら大統領は本気らしい。冗談だろ、トランプさん!

 

 こうした過激なアイディアについては共和党関係者ですら懐疑的だ。そりゃそうだろう、これが通るなら、将来議会の承認を得られない予算項目について、大統領が「非常事態」を宣言し、軍の予算を使って行政を執行できる。そうなれば、米国には大統領府も連邦議会もいらない。米民主主義の死を意味する重大事態となるだからだ。

 

 壁建設問題について米国民は意外に冷めている。最新の米Pew世論調査によれば、

①米国人の半数は流入移民の大半が合法移民であることを知らず、

②移民の有用性について米国世論は割れており、

③米国人の5割強は壁建設に反対し、

④壁の効用についても民主党員と共和党員で意見は大きく割れている

そうだ。

 

 一方、別の世論調査では「壁建設」を支持する声が42%と、一年前に比べ8ポイントも増え、無党派層でも支持者が40%と11ポイントも上昇したそうだ。どうやら米国では不法移民対策強化を求める声が高まりつつあるらしく、保守層の支持固めを狙ったトランプ氏の政治戦術は一定の成果を上げているようである。

 

 壁ができるか否か以上に気になるのが、米国内政の政治動向だ。これについては今週日経ビジネス電子版に詳しく書く予定だが、サワリだけをご紹介しよう。重要なことは、トランプ氏が米国政治の本質ではなく、1970年代のベトナム戦争とウォーターゲート事件以降に起きた米国内政劣化の「結果」もしくは「症状」に過ぎないことだ。

 

写真)ウォーターゲート・ビル

出典)Flickr;Allen Lew from Berkeley, USA

 

 Class of ’74という言葉がある。ウォーターゲート事件後の1974年中間選挙で共和党が大敗し、76人もの改革派民主党議員が誕生した。彼らは議会での年功序列長老支配の打破、権力分散化、政治資金・選挙区改革などを断行したが、それと同時に、連邦議会内に現在に繋がるような深刻な党派対立の種を撒いたとの批判もある。それでは昨年の中間選挙で生まれた第116議会は如何なる役割を果たすのだろうか。

 

〇東アジア・大洋州

 先週米中貿易高級事務レベル会合が北京で開かれたが、どうやら両国は何らかの合意に向け動き出したような気がする。トランプ氏は株価が気になるだろうし、中国もこのままではジリ貧だからだ。ところがその最中に金正恩委員長が訪中した、これって偶然だろうか。恐らくそうだろう、あまり深読みする意味は少ないのではないか?

 

〇欧州・ロシア

 14日に日露外相会談があるが、報道によれば露外務省報道官は、外相会談後の共同記者会見を「日本が拒否した」と述べ、「日本は平和条約問題で情報の不安定な状況を作り出して人々を惑わす一方、協議の結果を記者会見で伝える意思はない」と主張したそうだ。ロシア外務省は相変わらず小細工が得意である。

 

〇中東・アフリカ

 先週からポンペイオ国務長官とボルトンNSC補佐官が中東諸国を歴訪している。国務長官はアラブ8カ国を訪問中、補佐官はイスラエルとトルコを訪問したが、早速ボルトン氏が炎上してしまった。同補佐官がイスラエルで「シリアからの米軍撤退はシリア・クルド勢力の安全をトルコが保証することが前提条件だ」と述べたからだ。

 

 当然、エルドアン大統領はこれに激怒、ボルトン発言を「重大な誤り」と罵倒し、同補佐官との会見をキャンセルした。。シリア米軍撤退をトランプ氏が唐突にツイートしてから一カ月も経っていないのに、ボルトン補佐官は大統領の決定を実質的に変え、一方で在シリア米軍は撤退を開始したとも報じられた。こんな稚拙な米国の中東外交を見るのは初めて、正直なところ、とても見ていられない。

 

写真)エルドアン大統領(2015)

出典)Kremlin.ru

 

〇南北アメリカ

 トランプ氏に対する不利な報道が続いている。NYTは11日、「FBIが大統領がロシアの利益のために動いた疑いがあるとみて、捜査に乗り出していた」と伝えた。12日にはワシントンポストが「トランプ氏はプーチンと話した具体的な内容を隠しておくため、同席した通訳からメモを回収して詳細の口外を禁じるなど、異例の手立てを講じてきた」と報じている。トランプ氏ならこんな報道は「フェイクニュース」と一蹴するのだろうが、それにしても、あまりに重い報道内容ではないだろうか。

 

〇インド亜大陸

 特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

トップ写真)Donald Trump visits San Diego border wall prototypes 13 March 2018

出典)Instagram :  realdonaldtrump


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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