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.国際  投稿日:2019/3/18

ウイグル弾圧で米中対立激化


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】

・米中対立の根源は中国政府の人権弾圧。

・「世界各国の人権状況報告」、ウイグル人への大規模弾圧非難。

・米議会で「ウイグル人権政策法案」の審議進む。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=44741でお読みください。】

 

「いまのワシントンでは内政、外交すべての問題で共和、民主両党の主張が対立するが、ただ一つだけ、どの政治勢力もが意見を一致させる課題がある。それは中国の人権弾圧だ」――ワシントン・ポストの著名な外交問題コラムニストのジョシュ・ロギン記者が3月15日付の記事で指摘した。具体的には中国政府によるウイグル民族大弾圧へのアメリカ側の超党派の糾弾を指していた

▲写真 ジョシュ・ロギン氏 出典:Josh Rogin Facebook

アメリカと中国の対立はどちらかといえば、関税問題に絞られる観がある。とくに日本側では米中対決といえば、貿易問題がほぼすべてだとする解釈が広範である。貿易での両国の戦いが「関税戦争」などという言葉を生み、関税問題が米中衝突のすべてだというような認識をも広げている。

ところが現実は大きく異なるのだ。ロギン記者が提起した中国政府の人権弾圧こそが米中対決のもっと深い原因を指し示している。同記者がとくに焦点を合わせたのは中国共産党政権による新疆ウイグル自治区でのイスラム系のウイグル族住民に対する巨大な規模の虐待だった。

中国政府が個人の人権を弾圧する。アメリカがその弾圧行為を非難する。この点にこそ、いまの米中対決の根源があるといえる。米中対立は単なる貿易収支やハイテクをめぐる衝突ではない。米中両国の政治思想やイデオロギー、根本的な価値観の違いから生じたぶつかりあいなのだ。この現実をわかりやすく説明するのがアメリカ側でのウイグル問題での中国糾弾だといえる。

▲写真 Free the Uighurs 出典:Flickr; mike benedetti

実は私も米中両国の対立は決して貿易や関税が主体ではないことを報告してきた。米中両国のもっと深い、国家としての理念や価値観の相違からの対立であることを具体例を多数、あげて説明してきた。その報告は3月上旬に刊行された自著米中対決の真実である。

私はその『米中対立の真実』のなかでもウイグル人弾圧問題の実態を説明し、中国共産党政権のこうした無法な行動こそがいまの米中対立をもたらしのだという構造を解説した。

▲写真 ウイグルの人々 出典:Flickr; ChiralJon

さてロギン記者がいまこのウイグル人弾圧を取り上げたことには二つの理由があった。

第一はトランプ政権の国務省が3月13日、発表した「世界各国の人権状況報告」が中国のウイグル人弾圧を現在の全世界でも最も大規模で残酷な人権弾圧だとして非難したことだった。

同報告は中国共産党政権がいま新疆ウイグル自治区で合計200万人にも及ぶウイグル人を拘束し、ウイグル独自の宗教、言語、文化、習慣、歴史などを抹殺する大洗脳作戦を続けている、と伝えていた。その手段としては大量な強制収容だけでなく、ウイグル人の家庭内に政府工作員を住ませて、監視し、再教育することや、その弾圧に抗議するウイグル人活動家の逮捕、拷問、さらには海外で活動するウイグル人の留守家族への懲罰などがあるという。

同報告書を発表した同国務省の人権担当のマイケル・コザック大使は「中国政府のいまのウイグル弾圧は1930年代のナチス・ドイツのユダヤ人弾圧にも等しい」とまで述べていた。

▲写真 マイケル・コザック大使 出典:米国国務省

ロギン記者のウイグル弾圧提起の第二の理由はいまのアメリカ議会で「ウイグル人権政策法案」の審議が進むことだった。

同法案はアメリカ政府が中国のこの弾圧に直接の責任を有する政府高官を懲罰し、中国政府全体への経済制裁を課し、弾圧に使われる高度技術の機材のアメリカからの輸出を禁止することなどをうたっている。

下院では同法案は共和党保守派のクリス・スミス議員や民主党超リベラル派のイルハン・オマール議員など超党派の合計39人により共同提案された。トランプ政権への攻撃の先頭に立つナンシー・ペロシ下院議長もそのなかに入っている。

▲写真 ナンシー・ペロシ下院議長 出典:Nancy Pelosi Twitter

上院でも共和党のマルコ・ルビオ議員や民主党のエリザベス・ウォーレン議員ら同じく超党派の25議員が共同提案者となり、同法案を推進している。リベラルと保守、トランプ支持とトランプ糾弾の両勢力が一体となった中国政府糾弾の法案なのである。

中国政府がいまこの時期にウイグル人の遺伝子までも変えようとする大弾圧をあえて始めた主要な理由は新疆ウイグル地区を「一帯一路」の出発地域として中国政府の支配の下で安定させたいという意図だとされる。そうなると日本の安倍政権が「一帯一路」への協力姿勢をみせていることまでがアメリカ側の批判の対象ともなりかねないわけである。

▲「米中対決の真実 」古森 義久(著)海竜社

トップ写真:ホワイトハウス前 中国のウィグル弾圧に対する抗議デモ flickr:Malcolm Brown


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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