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.国際  投稿日:2019/3/17

トランプ苦慮2つの重大決断


大原ケイ(英語版権エージェント)

「アメリカ本音通信」

【まとめ】

非常事態宣言、議会で拒否権が無効化されれば判断は最高裁へ。

・トランプ氏の元側近ら恩赦期待薄なら捜査に全面協力の可能性。

・大統領が任期中起訴されずともファミリー企業は起訴されうる。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=44734でお読みください。】

 

メキシコとの国境に壁を作るという実現性のほとんどない公約に今もしがみつくドナルド・トランプ大統領だが、この先、上下両院議会の採決に対する「拒否権発動」と、自分の元選挙対策本部長の「恩赦」という決断を迫られている

 

14日の上院議会でトランプが所属する共和党の議員12人が反対票を投じ、壁の建設を「国家の非常事態」と位置づけ米軍を建設に投入する大統領の「宣言」に緊急性がないとの理由でその発動を無効とした。上院の共和党議員はトランプ支持層の反発を招くと再選が危うくなるとの理由から、これまでどんな法案でも黙ってトランプの意向に賛成してきたが、もし今回のような一方的な緊急宣言が常態化すると、次に民主党から大統領が選出された時に地球温暖化や、銃規制などに同じ権限を使うことを恐れており、今回の反対票となった。

 

既に下院でも非常事態を認めない採決が取られているので、トランプの非常事態宣言は差し戻されることになった。既に示唆されているが、トランプはこの上下院の採決に「拒否権」を発動し、壁の建設をごり押しするために退役軍人の年金などから勝手に予算を回していくことになるだろう。その後の道筋としては、拒否権が発動されれば、上下院で拒否権のオーバーライド(無効化、議席の3分の2以上の票数が必要)の手続きが取られ、どちらかの議会でオーバーライドが可決されれば、この問題は法廷に持ち込まれ、最高裁の判断が出るまでに何年もかかるほど長期化すると予測されている。

 

これこそがトランプの望むところだろう。つまり、自分の支持層には「すべてやれるだけのことはやった」と言えるのだから。そして後は、反対票を投じた共和党員を裏切り者扱いして槍玉にあげて攻撃すれば済むのだから。

 

一方で、その間にも、マナフォートの2つ目の公判が終わり、彼には合わせて7年半の刑期が申し渡された。裁判官の同情を買うかのようにすっかり白髪が増え、車椅子に乗って法廷に現れたマナフォートだったが、担当弁護士は2回の判決後に、裁判の内容とは全く関係のない「ロシアとの癒着は証明されなかった」というトンチンカンな点を何度もアピールし、言外にトランプに恩赦を訴えた。

▲写真 Paul Manafort 出典:Flickr; Victoria Pickering

 

これまでトランプはマナフォートを恩赦するともしないとも発表しておらず、検察側と和解せずに2度の裁判を終えたマナフォートを勇気ある人物だと評価するに留まっている。だが、マナフォートの判決を待っていたかのように、今度は連邦政府ではなく、ニューヨーク州検察が住宅ローン詐欺などで、マナフォートを起訴した。

 

もしトランプがここでマナフォートを恩赦しても、恩赦は連邦政府の罪状にしか適用されないので、州法で有罪になっても何の効果もない。さらに、いったん恩赦を受けた人物はその後、黙秘権は行使できないので、ニューヨーク州の法廷でも、さらには上下院の諮問委員会に召喚された場合でも、マナフォートは黙秘権を使えず、質問に答えなければならない。そしてそこで嘘をつけば今度は偽証罪の問われることになる。

 

マナフォートにとって望みの綱は、このニューヨーク州における罪状が、既に起訴された内容と同じと判断され、法廷で却下されることだけだ。アメリカの法制度では「同じ罪状で2度起訴されてはならない」という「ダブル・ジェパディー」という解釈が一般的だ。だが、「恩赦」というのは州政府による起訴事実がなかったことになるので、まっさらな状態で州政府がマナフォートを起訴するのは「ダブル・ジェパディー」に当たらない、という解釈だ。

 

いずれにしろ、選挙対策本部長という側近中の側近が有罪となったトランプの立場は苦しい。マナフォートが恩赦されることを期待して偽証を続けていたことも、ロバート・マラー特別捜査官の調査の中で報告されている。もし、トランプと彼の担当弁護士が側近に対し、恩赦をエサにトランプを守る証言をするように誘導していたという証拠が上がれば、それも前代未聞の大問題だ。その一方で、これから裁判に臨まねばならない他の元側近たちから、有罪になっても恩赦はないだろうと思われれば、元個人弁護士のマイケル・コーエンのように、マラー特別捜査官に全面的に協力するしかないと腹をくくる者も出てくるだろう。

▲写真 イバンカ氏とその家族 出典:Defense Visual Information Distribution Service

 

トランプは「大統領は任期中に起訴できない」という憲法解釈にしがみついているので、今から再選されることにご執心だ。だが、大統領個人はアンタッチャブルだとして、トランプの組織はどうだろうか? 表向きに今は子どもたちに運営を任せているとされる株式非公開の複合企業、トランプ・オーガナイゼーション」の組織的な犯罪行為は、トランプの任期中に起訴できるか、という申請に対し、ニューヨーク州の地方裁判所は「イエス」という回答を出したばかりだ。このままいけば、自分の身の回りの者を恩赦するのがトランプの主な仕事になるかもしれない。

トップ写真:トランプ大統領とメラニア夫人 出典:Flickr; Boss Tweed


この記事を書いた人
大原ケイ英語版権エージェント

日本の著書を欧米に売り込むべく孤軍奮闘する英語版権エージェント。ニューヨーク大学の学生だった時はタブロイド新聞の見出しを書くコピーライターを目指していた。

大原ケイ

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