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.国際  投稿日:2019/3/20

米ジャーナリズム著しい劣化


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2019 #12」

2019年3月18-24日

【まとめ】

・CNNとFox Newsの報道姿勢の差が拡大。

・米国のジャーナリズムの劣化は顕著。

・日本ではメディアの「中立原則」が守られている。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=44783でお読みください。】

 

先週末、駆け足でワシントンに出張してきた。米国出張中は努めてCNNとFox News(FOX)を見比べるようにしている。これって結構大変、部屋のテレビで10分から15分おきに交代でCNNとFOXを見続けるのだから、実にせわしない。だが、二つの局が同じニュースを全く違う角度から報じる姿は、まるで「一国二制度」のようだ。

これまで米国ケーブルニュース市場は、保守系のFOX、リベラルのMSNBCとその中間にあるCNNというのが相場だったが、今はFOXがトップらしい。しかも、2016年にトランプ氏が大統領に選出されて以来、中立系CNNと保守系FOXの報道姿勢の差は拡大している。詳細は今週火曜のJapanTimesに書いたので読んで欲しい。

一言で言えば、FOXは越えてはならない一線を越えてしまったが、CNNも最近は中道から左に大きく振れている。要するに目糞鼻糞なのだ。出張中にニュージーランドで白人至上主義者がモスク礼拝中のイスラム教徒に銃を乱射し50人もの死者を出した事件が発生したが、これに関するCNNとFOXの報道ぶりが全く違うのが典型例。

▲写真 CNN 出典:Flickr; inazakira

このように米国社会の分裂は深まるばかり。米国のジャーナリズムはどこへ行ってしまったのか。日本ではこのような非難合戦は決して起きない。放送法第4条で、「放送内容は公序良俗に反せず、政治的に中立を守り、事実を歪曲してはならない」などと定めているからだが、米国は1987年にこの種の「中立原則」を撤廃している

政治的中立を求めなくなれば、テレビ局は勝手な報道を始める。他方、中立原則を維持したからといって公平な報道が続くとは限らない。そうなれば、問題は中立原則の有無ではなく、ジャーナリズムが成熟しているか否か、かもしれない。少なくとも米国のジャーナリズムの劣化は顕著だ。日本にとっても対岸の火事ではないだろう。

 

〇アジア

先週北朝鮮の外務次官が記者会見を開き、「米国の強盗のような姿勢は事態を明らかに危険にさせる」「米国は千載一遇の機会を逃した」「最高指導部が近く自らの決心を明らかにする」などと述べたが、翌日の北朝鮮メディアはこのニュースを一切報道していないらしい。

素直に読めば、北朝鮮は米国に強く再考を求め、それが駄目なら深刻な事態を招くと警告するが、米国との決定的な関係悪化は望んでいない、ということだろう。近く金委員長が第二回首脳会談後の行動計画を盛り込んだ公式声明を発表するらしいが、韓国メディアはこれを交渉局面を壊さないための「水位調節」と分析しているようだ。

▲写真 米朝会談の為にベトナム入りしたトランプ大統領、ポンペオ米国務長官、ボルトン米国家安全保障問題担当大統領補佐官 2019年2月27日 出典:twitter : @SecPompeo

それにしても、北朝鮮は困っているだろう。今更、核兵器廃棄に応ずる訳にもいかないし、かといってこれ以上の経済制裁は耐え難い。ここは中露と韓国から騙し騙し、かつ秘密裏に、経済支援を獲得していくしかないが、そんなにうまく行くだろうか。北朝鮮の暴発よりも、トランプ氏の変節の方が可能性が高いかもしれない。要注意だ。

 

〇欧州・ロシア

今週ロシア大統領がクリミアを訪問し、クリミア併合5周年を祝い、新しい発電所二か所の開所式に参加するという。あれからもう5年も経ってしまったのか。ちなみに、ここで使われる発電用タービンは独シーメンス社製だが、同社はそうした事実を知らなかったという。要するに経済制裁違反と言うことだが、ロシア側は否定しているそうだ。

 ▲写真 ロシアとのクリミア半島統一5周年記念コンサート 出典:ロシア大統領府

〇中東

14日夜のテルアビブに対するガザからのロケット弾攻撃に報復すべく、イスラエル軍は17日までにガザを実効支配するハマースの拠点約100カ所を空爆したという。被害はなかったとはいえ、ガザからのロケット弾攻撃は2014年以来初めてだそうだ。通常イスラエルの報復攻撃は容赦がないから、攻撃連鎖の可能性も懸念される。

そもそも中東では、どこかで和平の動きがあると、必ずといって良いほど、そうした和平プロセスを潰す動きが表面化する。これはアラブ、イスラエル双方とも得意の常套手段だから始末が悪い。今回もエジプトの仲介で停戦延長交渉が続いていたとの報道もあるから、これに反対するハマースの少数派が妨害に出た可能性もある。

 

〇南北アメリカ

米大統領が相変わらず炎上している。今週はニュージーランドでのモスク銃乱射事件で、トランプ氏が米国イスラム教徒への同情や白人至上主義者に対する非難の言葉を口にしなかったことが批判されている。ホワイトハウスは大統領が「白人至上主義者ではない」と発表したが、問題は白人至上主義者かどうかではなく、あの多弁な大統領自身が完全に沈黙していること自体なのだ。

 

〇インド亜大陸

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:リポーターに囲まれるトランプ大統領 出典:Flickr; The White House


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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