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.国際  投稿日:2019/3/11

政界の工作員ストーンの沈黙 トランプ政権「行く人来る人」列伝4


大原ケイ(英語版権エージェント)

「アメリカ本音通信」

【まとめ】

・ニクソン崇めるストーン氏、対立候補のスキャンダル暴いて貶める役

・ストーン氏、影の応援団長としてヒラリー陣営攻撃。

・偽証罪などで起訴、緘口令敷かれ現在は沈黙を守っている。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=44635でお読みください。】

 

ロジャー・ストーン(一時期トランプ陣営のコミュニケーション顧問、ロビイスト、弁護士)

 ロシア政府との癒着度:★★★★

 ドナルド・トランプとの親密度:★★★★

 任務に対して有能か:★★★

 任期を全うできそうか:(正式には既にトランプと袂を分けた)起訴、公判待ち

 

目立つことが何よりも好きな政界のお騒がせ者といえば、ドナルド・トランプ大統領の周りではロジャー・ストーンの右に出る者はいないだろう。ロビイスト、コンサルタント、弁護士など様々な肩書きを持つが、彼を一言で表すとすれば、dirty trickster(汚い裏工作員)、つまりは政治家の選挙活動の中でopposition researchと呼ばれる対立候補のスキャンダルを暴いて貶める役どころだ。

何しろストーンが崇めるアイドルは、70年代ウォーターゲート事件の発覚によって辞任に追い込まれたニクソン大統領なのだ。実はストーンの背中、首のすぐ下の部分にはニクソン大統領の顔がタトゥーされている。現在公判待ちで箝口令を食らうまでは、法廷の外で記者陣が待ち構えているのを目にする度にピースサインの両手を広げて見せるのも、これがニクソンがホワイトハウスを去る際に、ヘリコプターに乗り込む直前にとったポーズだからだ。

▲写真 ニクソン大統領(右)出典:Flickr; White House Photo Office

そのロジャー・ストーンとドナルド・トランプの交友は90年代に遡るが、不動産ビジネスにどっぷり浸かっていたトランプは、地元ニューヨークで圧倒的な力を持っていた民主党のマリオ・クオモ知事やエド・コッチ市長に楯突いてまで共和党から立候補する気はさらさらなかったようだ。それでも1999年にストーンに促されて第3政党から大統領に名乗りを挙げようとしたこともある。

▲写真 マリオ・クオモ氏 出典:Wikimedia Commons; Kenneth C. Zirkel

時にはケンカもしながらも、トランプはストーンの手を借りて2016年の大統領選挙に出馬することを本気で考え始めた。彼はしばらくの間「コミュニケーション顧問」としてトランプ陣営のスタッフに名を連ねていたが、やがて仲違いして去っていった…かのように思われていたが、実際のところは影の応援団長として動いていたのだ。

ストーンの役割はGuccifer 2.0と名乗るロシアの政府筋に近いハッカーとされる人物や、ウィキリークスのジュリアン・アサンジと連絡を取り、トランプの対立候補であるヒラリー・クリントンのEメールを盗み、タイミングを見計らってウィキリークスで公開することだったとされている。このEメールはクリントン陣営の選挙対策責任者だったジョン・ポデスタのメールアカウントから盗まれたもので、メール公開前にこの事実を知っていた目立ちたがりのストーンは2016年8月21日に「もうすぐポデスタが樽に入る(ひどい目にあう、の意)番だぜ」というツイートをしている。

▲写真 ヒラリー・クリントン氏 出典:Flickr; Gage Skidmore

そしてしばらくした2016106。アメリカのマスコミに携わる人間なら、この日どれだけ忙しかったかを語ることができるだろう。まず、オバマ政権が初めてロシア政府が大統領選挙の妨害をしようとしていることを発表したのがこの日だ。特に民主党本部のサーバーにハッキング攻撃を仕掛けていることが発表された。そして数時間後、ワシントン・ポスト紙が「女性なんてアソコを掴んで好きなようにできる」というトランプの発言が残る「ハリウッド・アクセス」というTV番組のテープを入手したという記事を載せる。これでトランプの当選はないだろうとされたその数時間後、今度はウィキリークスがヒラリー・クリントン陣営に決定的なダメージを与えるEメールを大量に投下した日だ。

▲写真 トランプ大統領 Laconia Rally(2015)出典:Wikimedia Commons; Michael Vadon

既にこの頃には、人種差別的な発言が原因でCNNやMSNBCといったTV局から出入り禁止になっていた目立ちたがりのストーンとしては、自分がこの渦中で好きなようにコメントできる立場ではないのがさぞ悔やまれただろう。

ロバート・マラー特別捜査官によるロシアの大統領選挙介入調査が進む中、今年に入って間もない1月25日、フロリダの自宅にストーンの逮捕状をとったFBIの捜査官が強制立ち入り調査を行った。偽証罪や偽証教唆などの罪で起訴された。この時も大げさにマスコミの前で「トランプに対して不利な証言をさせようとしても無駄だ」などと息巻いた。

ストーンはツイッターのアカウントこそ凍結されているものの、インスタグラムでも挑発を続けていた。だがとうとう先月、自分の公判を担当している判事の顔写真の横に銃の照準線が描かれている写真をインスタグラムにアップしたことから、この判事により緘口令を敷かれ、現在はいちおう沈黙を守っている。トランプとの友情にも波があり、恩赦が確実ではないと悟っているのか今のところ大人しくしているが、それもいつまで続くやら、といったところだ。

トップ写真:ロジャー・ストーン氏 2019年 出典:Flickr; Victoria Pickering


この記事を書いた人
大原ケイ英語版権エージェント

日本の著書を欧米に売り込むべく孤軍奮闘する英語版権エージェント。ニューヨーク大学の学生だった時はタブロイド新聞の見出しを書くコピーライターを目指していた。

大原ケイ

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