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.国際  投稿日:2019/4/11

朝日、中国ミサイルの脅威報道


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】

・中国軍の中距離ミサイルの脅威を朝日が報道。快適な驚き。

・中距離ミサイルは中国圧倒優位で日本は米軍の抑止に頼れず。

・中国軍の脅威は国会で議論されず。メディアの中国擁護に起因。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全部表示されないことがあります。その場合、Japan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=45141でお読みください。】

 

朝日新聞が中国のミサイルの脅威を正面から客観的に報道した!?

この事実は私にとって快適な驚きだった。なぜなら朝日新聞は長年にわたり、中国の軍事的な脅威には必ず「脅威論」として「論」をつけ、現実の脅威が存在することへの肯定を避け、あるいは間接に否定してきたからだ。いや、それどころか中国の大軍拡が日本への深刻な脅威であることを説く側を「反中派」とか「脅威論者」とか「軍事主義者」などという、おどろおどろしたレッテルで矮小化してきた。

▲写真 朝日新聞東京本社(東京・中央区) 出典:kakidai (Wikimedia Commons)

そんな伝統を持つ朝日新聞が4月7日の朝刊一面のトップ記事で中国、中距離弾開発を加速」という大見出しで、中国人民解放軍の中距離ミサイルの日本への脅威を詳しく伝えていた。このきわめてまともな報道は朝日新聞のまともでない報道を批判してきた私には新鮮な驚きだった。しかも好ましい事態だとも感じた。なぜなら中国の中距離ミサイルの日本などへの脅威は国際安全保障の世界では長年の常識だからだ。朝日新聞も中国報道や安保報道ではやっと常識水準に達してきたのかとも思わされた。

▲写真 核弾頭搭載可能な中国人民軍の東風ー21(DF-21A)準中距離弾道ミサイル運用訓練 出典:中国人民解放軍ホームページ

中国は射程1000キロから5500キロまでの準中距離・中距離ミサイルを大量に配備して、日本を射程におさめている。一方、中国の軍事攻勢を抑止する側のアメリカはこのタイプのミサイルをほとんど保有していない。だからこのミサイルの均衡という点では、米中両国間には極端なギャップがあり、中国側が圧倒的な優位に立つ。だから中国側の軍事的な威圧や脅威は日本にとっても米軍の抑止には頼れない重大な不安定状況を生み出しているのだ。

日本では中国の軍事脅威は国会でも論題とはならない。とくに野党は日本に切迫した中国の軍事脅威などには完全に背を向け、与党側の些細な欠点の追及に専念する。そんな国内の政治風土もたぶんに朝日新聞を先頭とする国内メディアの長年の異様な中国擁護に起因するといえよう。

その朝日新聞が中国のミサイルの脅威を正面から取り上げたのだ。この記事はほとんどがアメリカの軍事的な情報や判断に依存していたが、その内容を客観的に伝えていた。しかも中国軍基地では日本の横須賀や嘉手納の米軍基地へのミサイル攻撃を想定する仮想の配備図が展示されているというのだった。

朝日新聞のこの記事は中国軍が数百単位の基数の中距離ミサイルを配備しているのに対して、米軍はアメリカがかつて旧ソ連との間で結んだ「中距離核戦力(INF)全廃条約」によりほぼゼロに等しいことも、きちんと報道していた。だからトランプ政権がINF条約の破棄を求め、中国の中距離ミサイルを抑止するため、アジアの日本を含む各地に米側の中距離ミサイルを配備する意向であることも理のある動きのように伝えているのだった。

▲写真 トランプ大統領のINF条約破棄表明を受けてロシアのプーチン大統領も離脱を表明。写真は米ロ首脳会談(2018年7月16日) 出典:The White House facebook

こんな姿勢は朝日新聞としてはきわめて珍しい。米軍の対中警戒を客観的に認め、中国の軍事脅威を批判的に伝える、という姿勢なのだ。しかも中国のミサイルは日本の安全保障にとって脅威だと認めるスタンスなのである。

この朝日新聞の異端の記事は長年、中国の軍拡、とくに中距離ミサイルの大増強を報道してきた私にとって感じさせられるところが大である。私は中国の北京に2年間駐在した期間も含めて、主としてワシントンからもう合計20年ほども中国の軍拡についてくわしく報じてきた。今回の朝日新聞記事の核心である中国の中距離ミサイルの日本への脅威などこの20年間数えきれないほど報道してきた。だから率直に言って、朝日新聞がやっとこの国際安全保障の世界では常識中の常識の中国のミサイル脅威の指摘にやっとついてきたのか、という感慨がある。

ただし朝日新聞のその追随のタイミングや方法は、陸上競技の中距離競走で競技場のトラックを2周以上も遅れて、やっと後尾についたという実感である。だがその遅れてきたランナーには素直に拍手を送りたい。たとえその追随の最大の理由が単なる現実の重みに耐えかねて、だったとしても。

 

トップ写真:核弾頭搭載可能な東風ー21(DF-21A)準中距離弾道ミサイルの運用訓練をする中国人民解放軍兵士。(2018年9月10日) 出典:中国人民解放軍ホームページ


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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