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.社会  投稿日:2019/5/10

驕るワイドショー久しからず


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・「情報ライブ ミヤネ屋!」がBPOに申し立てられた。

・依存症の人が社会に復帰できる道筋を作ることが重要。

・社会の課題の解決法を視聴者と考えていく番組作り求められる。

 

「情報ライブ ミヤネ屋!」がBPO(放送倫理・番組向上機構)放送人権委員会に申し立てられた。

事の経緯はギャンブル依存症問題を考える会代表の田中紀子氏ブログに詳しく掲載されているが、ピエール瀧さんのコカイン使用の問題で、番組コメンテーターの発言が事実誤認であったことを田中氏が指摘し、番組に訂正を求めたことに端を発する。

BPOは「本件は個人の人権侵害に当たるわけではないので同委員会では審議できないが、情報は共有する」と言ったという。

結局、番組は事実誤認を認め、番組中謝罪したが、田中氏がBPOに申し立てを行わなかったらどうなっていただろうか?

それにしてもかつて芸能人のスキャンダルばかり取り上げていたワイドショーは今や情報番組と呼ばれ、政治・経済・社会・スポーツ、どのジャンルも扱うようになった。

基本的にテレビが視聴者の関心の高い話題を取り上げることに誰も異論はなかろう。しかし、見ていて違和感を感じるとしたら、コメントしている人に芸人、タレントの人たちが多いことだろう。無論彼らが世の中の課題について意見を言うことに何の問題もない。むしろ普通の人の感覚が大事だ、という問題意識から番組側も起用しているのだろう。

しかし、その他の識者・文化人のカテゴリーに入るコメンテーターも含め、あまりに専門性を欠いたコメントが多い気がするのは筆者だけだろうか?

小生の知人も数多く番組でコメンテーターをしているが、全くの専門外の問題でコメントを求められ、発言しているのを見るにつけ、ああ、この人にとってリスクが高いな、と心配になってしまう。

元テレビ局のコメンテーター(解説委員)として長年ニュース番組に出演してきた経験から言うと、わずか数秒のコメントでも、人を傷つけたり、世間から大きな反発を招いたりすることが多い。だからこそ、コメントする前に念入りにリサーチをし、専門家に取材し、考えに考え抜いて発言するようにしていた。それほどテレビでの発言というのはリスクが高いものなのだ。

情報番組で社会の様々な課題を取り上げることは大賛成だ。しかし、その課題をどうしたら解決できるのか、視聴者と一緒に考えていくような番組作りが今、求められているのではないか。

依存症の問題に戻ると、特定の依存症の人を叩いて叩きまくることで、何かが解決するわけではないだろう。依存症は病気であり、適切な治療を行い、社会に復帰してもらう道筋を作ることが重要だと私は思う。結果としてそれが社会の為になるからだ。

厳罰化で犯罪が無くなるなら、死刑がある日本で殺人が起きないはずだが、そんなことはない。危険運転致死傷罪があるからと言って飲酒運転は無くならない。

社会の課題を少しでも減らす、もしくは未然に起きないようにするために、みんなで知恵を出し合うことが必要なのだ。

インターネット社会で、メディアも厳しく市民にチェックされる時代になった。市民がSNSで簡単に声を上げることができる時代だ。メディアが情報を垂れ流しにして後は知らんぷり、という時代はもう終わった。

今、番組制作者に求められているのは、社会で起きている様々な課題に対する感度であり、それを解決しようとする熱意だ。安易にビッグニュースに飛びつき、誰かをスケープゴートにするような番組はいずれ淘汰されよう。それで視聴率が稼げると思ったら大間違いだ。

テレビ局にもよるが、情報番組はニュースを制作している報道局が直接制作せず、外部プロダクションが制作することが多い。私は、報道局が情報制作局と合体し、ニュースも情報番組も同じ局が制作した方がいいと思う。厳しい報道倫理の下に、情報番組も制作されるべきだろう。

「それでは情報番組が面白くなくなる」、そんな声が聞こえてきそうだ。しかし、「面白いこと」が正義なのではない。「社会の為になること」が正義である。その様な番組が支持される時代になっていると筆者は感じている。

 

トップ写真:情報ライブ ミヤネ屋! 出典:読売テレビ 情報ライブ ミヤネ屋!公式HP


この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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