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.国際  投稿日:2019/5/29

韓国大統領弾劾請願20万人超


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・文在寅大統領の弾劾を求める大統領府への国民請願20万人超。

・就任演説は「ウソの作文」。数々の公約破り。

・文大統領の失政の原因は「金正恩第1主義」。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=46030でお読みください。】

 

韓国文在寅(ムン・ジェイン)大統領の弾劾を求める青瓦台(大統領府)への国民請願が、5月27日午前(請願締切日は30日)、要回答基準ラインの20万人を超えた。青瓦台は今後30日以内に文大統領の弾劾に関する答弁をしなければならない。

請願人は4月30日、「文在寅大統領の弾劾を請願します」と題して「私も朴槿恵(パク・クネ)前大統領の弾劾集会に参加し、ろうそくを持って改革を叫んだ勢力」とし「国会議員が文大統領の弾劾訴追案を出してほしい」と要求し、「文大統領は国軍統帥権者だが、北の核開発を放置して黙認し、国民を潜在的な核人質にしており、非核化していないにもかかわらず軍の対応態勢を緩めるなど常識に外れる行動をしている」という弾劾事由を提示した。また「人権弁護士の文大統領が北朝鮮の独裁政権治下で発生する処刑、拘禁、拷問について一言も語らない」とも主張した(中央日報日本語版2019年5月27日)

 

■ 文在寅大統領の就任演説は「ウソの作文集」

5月10日で文在寅大統領就任からちょうど2年となるが、文大統領が行った就任演説の内容とその間に彼が行った政治を照らし合わせると、就任演説は一言で「ウソの作文」だったと言える。

文大統領は就任演説の冒頭「あえて約束したい。2017年5月10日は本当の国民統合の日として歴史に記録されるだろう」「今日からは私を支持しなかった方たちに対しても、わが国民として心から仕えたい」などと述べ、「大統領の帝王的な権力をできるだけ分散する」「権力機関は政治から完全に独立させる」と述べた。

▲写真 2017年5月10日 就任式 出典:flickr: Republic of Korea

しかし政権を掌握すると、検察をはじめとする権力機関に自身の「忠犬」を送り込み、「積弊清算」という名の人民裁判に等しい弾圧によって、右派と保守政権につながった人たちを徹底的に排除した。

朴槿恵前大統領は罪状確定前に弾劾裁判を受け、拘束されたまま数々の罪状を被せられた。元大統領の李明博氏も10数年前の疑惑を蒸し返され、長期間の拘置所生活を余儀なくさせられた。捜査を受けた前政権関係者は110人を上回り、4人が自殺した。「人権弁護士出身」と言われる文大統領によって、朝鮮王朝時代のおぞましい士禍(反対派への無慈悲な粛清・弾圧)がよみがえったのである。

文大統領は、保守の牙城とも言える国防部内の保守派を壊滅させるために、腹心を次官として送り込み実権を掌握させた。そして存在もしなかった「戒厳文書」をでっち上げ機務司令部(韓国軍の情報部隊)を解体・掌握した。

文大統領は、「不通(意思疎通ができない)大統領」と指弾された朴前大統領を意識してか、「準備を終えれば大統領府から出る。帰宅の時は市場に立ち寄り、市民と対話する」と言っていた。しかし実際は「帰宅時に市場に立ち寄る」こともなく、立ち寄ったと思えば自動小銃をちらつかせたボディガード付きだった。

「懸案は大統領自らメディアに説明する」などとも言っていたが、実際に会見を行ったのはこの2年間でたった3回だった。それも「国内の問題については質問を受けない」との条件付きである。国民との意思疎通のために青瓦台を光化門に移すと言っていたが、「リフォームの費用がかかる」「行政がやりにくくなる」などと言い訳し、結局この約束も破った。

 

■ 文大統領式「公正と正義」

▲画像 2016 文在寅氏(右から2番目)出典:The Minjoo Party of Korea

こうして文大統領の2枚舌と2分法の「ネロナムブル(私がするとロマンスだが他人がすると不倫)」行動(注1)は、いま韓国民の間で呆れられ笑いの種となっている。

文政権関係者は巨額の不動産投機をしても罪にならず、政敵の投機は罪となり、自分の側は偽装転入しても罪に問わず、相手側には同じ理由で懲役刑を言い渡し、自分たちは隔世贈与をしながら他人に対しては法律を作ってこれをできないようにした。

自分の子供は外国語高校に行かせ他人の子供は自律型私立高校にも行かせなかった。自分は家を2軒、3軒持ちながら、他人には自宅を売却しろと脅迫した。他人が作ったものはブラックリストだが自分が作ればチェックリストだと言い張り、自分たちがやった膨大なネットの「ねつ造書き込み操作」は問題とせず、他人がやったわずかな書き込み操作は違法と取り締まった。

自分たちは政府機関の金で海外に出張するが、他人は法人カードで1万2000ウォン(約1100円)使ったことを理由に追い出した。大統領は反日だが、その娘は日本の右派団体が設立した大学を卒業した。この大統領の娘による海外移住とそれに伴っての税金支出理由は今もって説明されていない。現実はこうだが、文大統領は就任演説で「公正と正義」を約束していた(朝鮮日報日本語版2019年5月12日)。

 

■ 文在寅こそ弾劾要件満たした大統領

一事が万事こうだから、外交では孤立し、国防では武装解除状態となり、経済は今年10年ぶりのマイナス成長(2019年1~3月期の国内総生産)を記録した。

こうしたことから一部大学生を中心とする青年たちは「全大協(過去の主体思想派学生団体名を皮肉って使った名称)」の名前で壁新聞を張り出し、「経済王 文在寅(経済を破綻させた)」「太陽王 文在寅(脱原発で太陽光発電を利権化している)」「寄付王 文在寅(金正恩に無条件経済支援する)」「雇用王 文在寅(所得主導成長論で雇用を破綻させている)」「外交王 文在寅(金正恩擁護のために米国、日本との関係を悪化させ、ヨーロッパからも疎んじられ、さらには中国、ロシアからも馬鹿にされている)」などと風刺し大反響を起こした。

 

■ 文在寅大統領の全ての失政原因は「金正恩第1主義」にある。

▲写真 板門店での南北首脳(2018年4月27日)出典:韓国統一省ホームページ

文大統領は「金正恩と恋人関係だ」「金正恩は誠実な人」「金正恩は非核化する決心をした」「金正恩は約束を守る」などと金正恩との関係を恋人に例え、金正恩を持ち上げ、南北連邦制を想定した「南側大統領」と自認してすべての政策を金正恩に従属させている。金正恩の機嫌を損ねるとして、脱北者の活動や北朝鮮人権団体の活動までも妨害し、2016年に制定された「北朝鮮人権法」とそれによって設立された「北韓人権財団」を眠らせている。

文在寅大統領は、今年の年頭記者会見でも「平和が経済だ」との持論を掲げ、金正恩政権との経済協力(経済支援)こそが経済成長をもたらすとの奇妙な成長論を披歴した。

2月末のハノイ米朝首脳会談で「金正恩に非核化の意思なし」と明らかになった後も、また金正恩から「仲介者などと出しゃばるな」と罵倒されても、そして韓国の防衛を根底から揺るがす「偏心軌道短距離ミサイル」を発射されても、それを弾道ミサイルと言えず「短刀ミサイル」と発音し国民から嘲笑を浴びても、ひたすら金正恩擁護を続けている。

文在寅大統領が行ってきた2年間の「金正恩第1主義」政策は、そのほとんどが韓国憲法に定めた大統領弾劾事由に該当する。韓国民が青瓦台(大統領府)への国民請願を成就させたのは当然の結果と言えるだろう。30日後になされる青瓦台の回答がいかなる内容となるのか興味深い。

 

注1)ネロナムブル

韓国語の「私がすればロマンス、他人がすれば不倫」の頭文字を取って作られた造語。ダブルスタンダードの代表的な表現。

トップ画像:文在寅大統領 出典:Korea.net


この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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