[渡辺真由子]<メディア・リテラシーの重要性>メディアが発信する情報が「加工品」だという認識を
渡辺真由子(メディアジャーナリスト)
安倍内閣の支持率が、一部の世論調査で下落傾向を見せ始めている。増税が実施された今後も、さらなる変動が予測されよう。
だが、この種の調査に答える国民のうち、総理や閣僚と直接話をしたり、彼らの言動を間近に見たりした人がどれだけいるか。ほとんどの人は、「新聞記事にこう書かれていたから」「テレビであんなインタビューが流れていたから」と、メディアが報じた内容に基づいて判断を下しているはずだ。すなわち、メディアが世論を作り上げているといっても過言ではない。
政治に限った話ではない。一個人が直接見聞きする情報などタカが知れている。海外で起きている事象、ある物事についての「世間一般の」考え方、「正しい」子育て、「素敵な」恋愛、はては「理想の」人生まで、ありとあらゆる情報を我々はメディアを通して吸収し、それらに多少なりとも依拠しつつ毎日を過ごしている。
ここで問題となるのは、メディアが発信する情報を果たして鵜呑みにして良いか、という点だ。情報は天から降ってくるわけではない。我々のもとに届けられる過程で、メディア内部の作り手の視点、登場する当事者の考え、関連する権力機関の意図など、様々な思惑が絡み合った「加工品」である。メディア情報に接するにあたっては、このような背景を認識した上で、自分の頭で判断することが必要だ。そのために求められるのが「メディア・リテラシー」である。
メディア・リテラシーとは、「メディアの特質、手法、影響を批判的に読み解く」能力と、「メディアを使って表現する」能力の複合を指す。欧米諸国を中心に学校教育に取り入れられている。一方、日本では一部の教科で情報の読み解きを教える動きがあるものの、文部科学省は、学習指導要領にメディア・リテラシーに関する規定をいまだ明記していない。
我々が暮らす民主主義社会は、分別ある平等な社会を築くために最もふさわしいとされる形態だ。この社会でメディアに求められる役割は次の5点である。
- 「地域の共同体が物事を決める過程に人々の参加を促す」
- 「社会的弱者やマイノリティなど、多様な人々の声を代表する」
- 「公共政策によって暮らしが良くなるという大衆の信条を支える」
- 「政治・文化資源の不平等を埋め合わせる」
- 「政治や市民生活における幅広い選択肢を示す」
いまのメディアは、これらの責務を全うしているか。我々がリテラシーを持って見つめていかねばならない。
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【プロフィール】
渡辺真由子(わたなべ・まゆこ)
メディアジャーナリスト 慶応大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程を経て現在、慶応大学SFC研究所上席所員(訪問)。若者の「性」とメディアの関係を取材し、性教育へのメディア・リテラシー導入を提言。テレビ局報道記者時代、いじめ自殺と少年法改正に迫ったドキュメンタリー『少年調書』で日本民間放送連盟賞最優秀賞などを受賞。平成23年度文科省「ケータイモラルキャラバン隊」講師。平成25年度法務省「インターネットと人権シンポジウム」パネリスト。主な著書に『オトナのメディア・リテラシー』、『性情報リテラシー』、『大人が知らない ネットいじめの真実』など。