【Fact Check】トランプ氏、朝日記者に「左翼」と発言→根拠不明

安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
Japan In-depth編集部(淺沼慶子)
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2019年8月24~26日、G7首脳会合が仏国ビアリッツにて開催された。そこでトランプ大統領が、質問した朝日新聞記者に対し、「左翼」と発言した、という情報が話題になった。
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上念司氏が自身のTwitterにて同様のTweetを拡散していることも注目された。
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【Fact Check】
トランプ氏は本当にこのような意味で発言したのか?
以下が朝日新聞記者とトランプ氏のやりとりである。
▲キャプチャー画像(ホワイトハウス公式サイト 文字起こしより)
トランプ大統領に質問をしていた記者とのやり取りが終わり、日本の新聞記者(朝日新聞)の質問が始まる前の会話である。記者が質問に際し、「(私は)朝日新聞だ、日本の新聞社だ。」と名乗ったことに対し、トランプ大統領が、“Just left your Prime Minister, Abe. Good man. Great man.”と返答した。
では、他メディアはどのように報じているか。海外メディアのサイトを見てみよう。アメリカの主要メディアCNNは以下のようにやり取りを掲載している。
Yes, go ahead, please. Go ahead, yes
UNIDENTIFIED REPORTER: Thank you very much, Mr. President. I am with the Japanese newspaper.
(CROSSTALK)
TRUMP: I just left your Prime Minister Abe, good man. Great man.
出典:CNN
ホワイトハウスの文字起こしと比較すると、主語「I」を補っている。
トランプ大統領は主語の“I”を省いて、“just left.”と言っている。これは、日本の新聞記者に対し、“I just left your Prime Minister, Abe.”すなわち、「安倍首相とは今しがた別れたところだ。」、「安倍首相とはさっきまで一緒にいたよ。」という意味に過ぎない。会話で、“I”という主語が省かれることは日常会話では往々にしてある。
英HuffPostの記者 Graeme Demianyk氏も同様の解釈をしている。
Trump to Japanese journalist: “I just left your prime minister. Abe. A good man. A great man.”
結論:根拠不明
ホワイトハウスの公式の文字起こしを元に、アメリカの主要メディアCNN、そして英HuffPost記者の解釈を参考にした。また編集部も複数のネイティブの外国人に確認した。結論として、今回のトランプ大統領の発言は、単に日本人記者の質問に際して、安倍総理と今しがた別れたんだよ、という返しをしたに過ぎないと考えるのが自然だ。
また、前の会話で、人や組織の政治的立ち位置を話していたならいざしらず、日本の記者だと名乗って質問してきた記者に、いきなり、”(You are) just left”=(お前は、又はお前のところの新聞は)左翼だな、と一国の大統領が言うだろうか?
そもそも、アメリカで、日本で使われる政治的な「右翼」、「左翼」という立ち位置は、通常、“Conservative”、“Liberal”と呼ぶ。仮に”left”を使う時は“left-winged”などと言う。“just left.”から、“left”=左翼=朝日新聞と結びつけるのはかなり無理がある。
こうしたことから、トランプ大統領が朝日新聞記者に対して「左翼」と発言した、という解釈は限り無く「誤り」に近いと思うが、発言した当の本人に確認することができないので、「根拠不明」と判定する。
海外の政治家の発言を誤訳することはありうるだろう。一方で、意図的に発言を切り取ったり、極端に意訳する人がいることも事実だ。ネット上の言説を、ファクトチェックなしに拡散することは、誤った情報を広めることになりかねない。十分に心したい。
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トップ写真:G7にて、トランプ米大統領とマクロン仏大統領 2019年8月26日 出典:flickr:The White House