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.国際  投稿日:2024/3/23

もしトランプ政権になれば その4 朝日新聞の大誤報


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・トランプ氏が再度政権を握れば、日米同盟の破棄までしかねない、という識者の警告が報道された。

・しかしトランプ政権は日米同盟の堅持と強化という政策表示をし、報道は虚構であることが判明。

・朝日新聞は、日米首脳会談で「自動車、重要議題に」と報じたが、現実は取り上げられなかった。

 

トランプ政権が中国や北朝鮮、ロシアに機嫌をとるような宥和政策をとったと断じるのも事実に反する。こんな過剰や虚構の反応を示すニューヨーク・タイムズはそれほどトランプ氏が嫌いで、怖いのか、という疑問までが浮かんでくる。

しかし日本でも同種の過剰反応が出てきたことには驚かされた。トランプ氏が再度、政権を握れば、日米同盟の破棄までしかねない、という日本側でのいわゆる識者の警告だった。

その点を念のためにアメリカ第一政策研究所に改めて問いあわせてみた。AFPIのアジア部門は対日政策の集大成としての政策文書を明示してくれた。同文書はまず「米日同盟は21世紀の米国第一外交政策の成功の基礎を築く」と題されていた。

内容はこれからのアメリカのアジア政策では日本との軍事同盟が不可欠だと強調し、巨大な脅威である中国の軍事攻勢に対して日米同盟は重要な抑止策だと明記していた。

そのうえで長文の文書は日本が安倍政権下で対米同盟を強化し、岸田政権もその路線を継いだことを感謝するとも述べていた。要するに日米同盟の破棄どころか堅持と強化という政策表示なのである。トランプ次期政権の対日政策を占う有力な資料だろう。

現実でもトランプ前政権は日本との同盟重視が明白だった。日米関係の歴史でもトランプ・安倍時代はもっとも堅固で緊密な同盟の絆を築いたといえよう。トランプ氏が就任前の選挙戦で述べた日米同盟の片務性への不満も日本側が軍事寄与を増して、防衛協力を強めることへの期待だった。就任後は尖閣防衛を始め、現実の同盟強化策を次々に打ち出した。

日本への友好という点でのトランプ大統領の実績は北朝鮮による日本人拉致事件解決への協力だった。国連総会演説での「優しい日本人少女の解放」の訴えから、金正恩氏への直接の要求、さらには被害者家族たちとのたびたびの会談と、日本側の当事者たちは決して忘れないと感謝を絶やさない。

トランプ、安倍両首脳下の日米関係がいかに緊密で安定していたか。2017年2月10日の初の公式首脳会談での展開が象徴的だった。両首脳はホワイトハウスでの会談だけでなくフロリダ州のトランプ氏の別邸でゴルフをも含めて延べ3日間をもともに過ごした。

両首脳の共同声明は両国の防衛面での協力の拡大や強化、中国の尖閣諸島への軍事攻勢に対するアメリカの防衛誓約、北朝鮮の軍事脅威への日米共同対処などから経済面でも両国の絆の深化をうたっていた。日米間の協力や友好の強化という点では理想的な骨子だった。そしてなによりもトランプ、安倍両首脳が親密な交流を誇示した点が印象的だった。

だが日本側の一部ではトランプ大統領が日本に対して強硬な要求をぶつけてくるだろうという予測があった。主要な新聞やテレビは会談の直前までトランプ大統領が安倍首相に自動車問題や為替問題で厳しい要求を突きつけてくるからその対策に覚悟せよ、と大キャンペーンをはっていたのだ。だがこの予測がみごとに空ぶりとなった。大誤報だった。トランプ大統領はそんな対日要求はまったくしなかったからだ。逆に安倍首相との異例なほどの友好を示し、日米同盟の堅持を力強く誓ったのである。

朝日新聞2月11日の朝刊第一面には「車貿易や為替 焦点」という見出しの記事が載っていた。本文の冒頭は以下のようだった。

「(日米首脳会談で)トランプ氏は自動車貿易を重要課題とする構えで、二国間の貿易協定や為替政策に言及する可能性もある。通商・金融分野をめぐり、どのようなやりとりが交わされるかが焦点となりそうだ」

朝日新聞のその前日の2月10日夕刊は、もっと明確だった。「自動車、重要議題に」という見出しの記事本文は冒頭で以下のように述べていた。

「トランプ米大統領が10日の安倍晋三首相との日米首脳会談で、自動車貿易をめぐる協議を重要議題に位置づけていることがわかった」

しかし現実の日米首脳会談では自動車問題も為替問題も出なかった。この事実は朝日新聞も日米首脳会談後の2月12日朝刊の記事ではっきりと認めていた。

「トランプ氏が問題視していた日本の自動車貿易や為替政策も取り上げられなかった」 

誤報を認めたのである。

その後の4年に及ぶ日米関係でもトランプ政権が自動車や為替で日本側に抗議や要求をしたという公式記録は存在しない。

(その5につづく。その1その2その3。全5回)

 *この記事は雑誌の「月刊 正論」2024年4月号に載った古森義久氏の論文「トランプ氏に関する誤解・歪曲を正す」の一部を書き替えての転載です。

トップ写真:G20サミット初日、ドナルド・トランプ前米大統領と安倍晋三首相(当時)2019年6月28日 大阪府大阪市 出典:Kim Kyung-Hoon – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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