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.国際  投稿日:2019/9/10

前FBI長官が内部文書盗用


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】

・コーミー前FBI長官は「ロシア疑惑」に関する内部文書を盗用。

New York Timesはこの内部文書を元に「ロシア」疑惑記事を掲載。

・コーミー氏はトランプ大統領追い落としを図っていたと推測される。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て見ることができません。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=47824でお読み下さい。】

 

アメリカのトランプ政権をめぐる「ロシア疑惑」で大統領追及の先頭に立ったジェームズ・コーミー前FBI(連邦捜査局)長官退職時にFBIの内部文書を無断で持ち出し、ニューヨーク・タイムズに秘密裡に流していたとする公式報告が司法省監察総監から8月末に発表された。

議会ではコーミー氏のこの行動を「現職の捜査当局責任者が政治活動のために公文書を盗用し、悪用した」として、改めての責任追及の動きも起き始めた。「ロシア疑惑」が政治的な工作だったことを裏づける新たな証拠の発覚ともいえそうだ。

FBIを管轄下におく司法省の監察総監は8月29日、「ジェームズ・コーミー前FBI長官はFBI内部の公文書を勝手に持ち出して、私的な用途に使ったことにより重大な規則違反を犯した」という内容の監察報告書を発表した。

同報告書によると、2017年5月9日にトランプ大統領により解職されたコーミー氏はFBI長官として自分が作成した同大統領との会話内容を書いた記録書(メモ)7通のうち4通を当局には届けず、自宅に持ち帰った。この記録書はトランプ大統領が2016年の選挙期間中にロシア政府機関と共謀して票を不正に操作したという「ロシア疑惑」に関して、民主党支持者としてその「疑惑」を追求しようとするコーミー氏と、その疑惑を一切、否定するトランプ氏との直接の面会や電話でのやりとりのメモだった。

監察総監の報告書によると、コーミー氏は退職後、FBI係官から2回もの自宅訪問を受け、書類の有無を問われたのに対して、それら書類を自宅に保持していながらも、それを否定した。

同時に不正に保持する4通のうちの1通を知人を通じてニューヨーク・タイムズにひそかに届けた。同紙はその記録書の内容を基にトランプ大統領には「ロシア」疑惑のクロの状況が濃いという趣旨の記事を載せたという。

▲写真 The New York Times building 出典:Flickr; James Cridland

この記事が司法省としての「ロシア疑惑」の特別検察官任命につながったとされている。だがこの特別検察官の二年近くの捜査ではロシア政府とトランプ陣営の共謀を示す事実はなにもなかったという結論が出た。

監察総監の報告書は「コーミー前長官のこの行為は悪用した記録書には秘密とされた情報も含まれており、FBIの内部規則の違反であり、長官として偽善的で危険な行動だが、刑事訴追はしない」と述べていた。コーミー前長官は係官の自宅調査でも虚偽の答えをしているため、事実上の公文書の盗用だともいう。だがFBIとしては前長官の刑事訴追はあまりにその被害が大きいとの判断からの不起訴措置だと観測されている。

このコーミー氏の行動の判明の結果、同氏が長官時代から政治的に民主党支持であり、共和党のトランプ大統領に対しては政権当初からその追い落としを図る動きにかかわっていたことや、ニューヨーク・タイムズがトランプ大統領攻撃の政治目的で動いていることが明らかにされた。

▲写真 リンゼイ・グラハム上院司法委員長 出典:Flickr: Jim Greenhill

アメリカ議会では監察総監のこの報告書発表に対して、上下両院の共和党議員たちからは「全米最高の法執行機関のトップがこのような不正を働くとは前代未聞であり、新たな捜査の対象とすべきだ」(リンゼイ・グラハム上院司法委員長)とか「コーミー氏のこの行動はオバマ政権に任命された法執行機関の首脳が政治党派性を発揮して、現職の大統領を辞職させようとした重大な犯罪行為だ」(ジム・ジョーダン下院監督刷新委員会メンバー)といった糾弾の声が起きている。

トップ写真:ジェームズ・コミー元連邦捜査局長官 出典:Flickr; Rich Girard


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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