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.国際  投稿日:2023/6/7

アメリカはいま――内政と外交・ワシントン最新報告 その11 「ロシア疑惑」はフェイクだった


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・ロシア疑惑をはじめ、トランプ氏に対する容疑はフェイクも多く、いずれも決定的にならず。

・民主党はトランプ氏を選挙ではない方法で打ち倒そうとする。

・保守主義とリベラル主義の対立。今度の起訴も分裂をますます激しくする。

 

ここで繰り返しになるのですが、トランプ大統領に対する最大のネガティブ・キャンペーンといえるのが、彼が当選してすぐでてきたロシア疑惑です。これは、トランプの選挙対策本部がロシア政府の工作員と共謀してアメリカ有権者の票を不当に操作した、という主張です。疑惑とされました。

民主党側はこの疑惑に対して特別検察官を任命して、22カ月間調べたけれど、いま述べたような容疑を裏付ける事実は何も出てこなかった。

もともとこの容疑をプッシュしたのはニューヨーク・タイムス、ワシントン・ポスト、CNNです。その時に最初に使った材料が、皆さんは前にお聞きになってもう忘れているかもしれないが、スティール文書という書類だったのです。

イギリスの元諜報員、MI-6、007の世界ですが、ソ連やロシアの専門家とされたスティールという人物が作った文書でした。その内容はトランプという人物はロシア政府に密着して、こんなことを一緒にやっていたんだとする実例なるものを列記していた。しかしそれらはほとんど嘘だった。

しかも、その報告書をつくらせたのはヒラリー陣営の関係団体だった。その団体が代金を払って、偽物の報告書をつくらせていたことが判明したのです。スティール文書は完全なフェイクでした。でも、連邦議会では民主党側がそれに基づいてトランプ氏の辞任を求める弾劾提案を2回も行いました。しかしいずれも否決です。

2021年1月6日の連邦議事堂への暴徒の乱入もトランプが仕掛けた、と民主党側は非難して、その責任追及の措置を長期間、取り続けました。その他、いろいろなかたちで、これでもか、これでもか、とやる。そして、トランプ氏が政府の機密文書を自分の家に持ち返ったとして、家宅捜索をする。トランプ氏が大統領選の集計に関してジョージア州の選挙を担当している州の職員に集計を不当に変えろと命じたという「容疑」も提起されました。

そういう容疑はいっぱい出てきているのだけれども、いずれも決定的にはならなかった。

一応決定的に近く見えたのが今度のニューヨーク州での起訴だった、ということなのです。だから、大きな図があって、民主党がとにかくトランプ氏を選挙ではない方法で打ち倒そうとする。これは2020年から一貫した流れです。そこのところを見ておかないと、アメリカの政治の実態を大きく歪めてしまい、歪んで理解してしまうことになると思います。

 

◇ アメリカの分裂とは

今度の起訴も、これまでの分裂をますます激しくする効果があります。これは本当にその通りです。その分裂で内戦にまでなるという人が日本でいたけれども、そういうことはないと、私は思う。私も30年、40年とアメリカ大統領選挙や国政を見ていますが、二大政党制のもとにおいて、大きな考え方の違い、政策の違いというのは一貫してずっとあるのです。

簡単に言ってしまえば、保守主義なのか、リベラル主義なのかということです。両者の対立が分裂にみえる状況を生むのです。保守主義というのは古きよきアメリカへの志向と言ってもいいでしょう。結局、国民と政府との関係をどうするか、なのです。

政治というのは国民と政府との関係のあり方です。保守は、政府というのはできるだけ小さいほうがよいと考えます。政府が民間の活動に介入するのは少ないほうがいいのだ、企業も自由にどんどんやってくれ、という考え方です。だから、性善説だといえます。人間というのは放置しておけば大体うまくいくのだ、という大前提です。

これに対してリベラリズムというのは性悪説だともいえます。人間集団というのは放っておくとろくなことをしない。だから、政府という理性を持った組織がそこに介入して暴走を防ぐ、間違った方向にいくことを防がなければいけないという考え方です。その結果の政策が大きな政府です。

(その12につづく。その1その2その3その4その5その6その7その8その9その10

*この記事は鉄鋼関連企業の関係者の集い「アイアン・クラブ」(日本橋・茅場町の鉄鋼会館内所在)の総会でこの4月中旬に古森義久氏が「アメリカの内政、対中政策――ワシントン最新報告」というタイトルで講演した内容の紹介です。

▲トップ写真:米上院が弾劾裁判で無罪を言い渡した翌日、「トランプ氏、無罪に」と書かれたワシントン・ポスト紙を掲げるトランプ大統領(当時)(2020年2月6日 米・ホワイトハウス)

出典:Photo by Drew Angerer/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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