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.社会  投稿日:2019/10/16

ネット時代の災害報道とは?


 安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

 

【まとめ】

・災害時にNHK、信頼性、速報性、同時ネット配信で強み発揮。

・SNSではtwitter(ツイッター)による災害情報入手が便利。

・テレビは視聴者提供動画をどう報道に活かすか、一考を。

 

 

 

まず、台風19号の犠牲になった方々に心からお悔やみ申し上げる。また、避難生活を余儀なくされている方々が一日も早く普通の生活に戻れるよう祈念している。

 

台風が関東直撃とのニュースを聞き、今回ほどテレビにかぶりつきになったことはない。元テレビ記者として、災害報道に関し色々と感じることがあったので紹介したい。

 

まず、情報入手の手段は情報の受け手の年齢によってかなり違うのが現状だ。50代以上はテレビ、ラジオが主だろうし、10代~20代はSNSだと思われる。30代、40代は情報入手手段にばらつきがあり、伝統的メディアに頼る人もいれば、ウェブメディアを駆使しているひともいるといった感じだ。では、媒体別に今回の台風報道を評価してみる。

 

・テレビーNHKの強さ再認識

 

今回私が再認識したのは、NHKの災害における強さだ。CMなしで刻一刻と動く災害情報を放送し続け、民放を圧倒した。全国に支局があるNHKならではの速報性と網羅性が光った。信頼性もあった。

 

民放は地方局とネットワークを組んでいるが、基本、別資本であり、情報入手にタイムラグが生じがちだ。そこがNHKと大きく違うところだろう。台風は多くの都道府県、広範囲に被害をもたらす為、同時に複数の自治体の被害情報が刻一刻とNHKニュースから入手出来るのは視聴者としてありがたい。

 

また、NHKは災害などの緊急性の高いニュースはネット同時配信を行っている。これが大きい。テレビが家に無かったり、避難していてテレビを見る事が出来ない状況にあっても、スマホとネット環境さえあれば、放送が視聴出来る。民放も一部ネット同時配信していたが、一日中ニュース編成が可能なNHKにはかなわない。

 

その上で、テレビに要求したいのは、さらにきめ細かい即時情報提供だ。当たり前だが、テレビ局は、クルーを現地に派遣しない限り、映像も情報も放送することが出来ない。ネット社会においてこれは致命的だ。なにしろ現場にいる人間がスマホで情報をSNSで上げる方が、テレビ局が現地に行ってカメラを回し、ニュースで放送するより早いに決まっている。

 

それがわかっているのでNHKのみならず各民放テレビ局も視聴者からの動画の提供を呼びかけている。最近増えたので気づいている方も多いと思うが、ニュースの中に視聴者提供の動画がかなりの頻度で放送されている。

 

例えばNHKのケースでは、視聴者動画投稿サイト「スクープBOX」があり、誰でもパソコンやアプリで動画ファイルを簡単に送ることが出来る。

図)NHKスクープBOX スマートフォンのアプリ

出典)NHK

 

 

その上で今後重要なことは、視聴者映像をどうタイムリーに生放送に反映させていくかだろう。災害が起きている最中は、情報が錯綜し、報道局は大混乱となる。視聴者から送られてくる動画はどうしても後回しになり、自局のクルーが撮影した映像、もしくは公的機関から入手した映像が中心になり、それらの映像が各番組で使い回されることになる。しかし、視聴者は自分の住んでいる地域の情報を”リアルタイムに”知りたいのだ。

 

視聴者映像は、当然ながら、一つ一つその真贋をチェックしなければいけない。しかし、それには膨大な人手がいる。それが出来るのは体力のあるテレビ局だけなのだ。もっと言えばNHKだけなのかもしれない。

 

ネット上にあふれるリアルタイムの災害情報をどう視聴者に伝えるのか。ネット社会におけるテレビ報道のあり方が問われている。

 

 

・SNSー頼りになるツイッター、だが問題も

 

10代、20代、30代くらいまでは、SNSで災害情報をチェックするのが当たり前になっている。入手先はTwitter(ツイッター)がメインだろう。facebook(フェースブック)はそもそも若い世代はやっていない。Instagram(インスタグラム)は趣味の写真投稿サイトであり、即時情報はツイッターの一人勝ちといっていいだろう。LINE(ライン)やMessenger(メッセンジャー)などは知人らとの情報のやりとりには便利だが、ツイッターと違って、災害情報がタイムラインに流れてくるわけではない。そう考えるとやはり災害時に頼りになるのはツイッターということになる。

 

筆者も続々と流れてくる災害関連のツイートをチェックし、重要だと思われるものはリツイートしてフォロワーの皆さんに情報提供した。その際気をつけていたことは、①信頼出来るアカウントからのものか ②情報は最新のものか だ。リツイートされたものの中には、古いものもある。何時間も前のものをリツイートしたら自分のフォロワーさんをミスリードすることになるから気をつけねばならない。目にしたツイートが最新の情報かどうかか見極めることが重要だ。

 

また、過去災害時に、「動物園から町に動物が逃げ出した」などとデマが流れたことがあるように、ツイートにはフェイク(嘘)が混じっているから要注意だ。よかれと思ってリツイートしたつもりが、デマの拡散に加担したなどということにならないようにしたい。

 

・公的機関のSNS発信

 

最近では行政がツイッターで災害情報を提供するケースは当たり前になってきた。しかし、警察、消防、自治体の災害対策本部、避難所などから次々とツイートされると情報を受け取る側は混乱する。

 

本来、情報提供は自治体毎に一元化することが望ましいが、災害時にそんなことは不可能だ。それぞれが正確な情報をツイートすべきだが、そのためには普段から公式ツイッターアカウントを作っておき、担当者を決めておく必要がある。大災害が起きてからでは遅いのだ。

 

普段から市民にどう効率的に情報提供するか、各自治体は考えておくことが必要だ。今時、行政の「防災無線」は効果が薄いと思われる。筆者の事務所のある東京都港区でも区役所からの防災無線がたまに流れるが、窓を閉め切っている家やマンションが多い現代では、正直何を言っているか聞き取れない事が多い。これは何も都会に限ったことではないだろう。

 

私は、行政が地元メディアと連携するとよいと思う。各自治体の役所には主たるローカルメディアが常駐している。ウェブによる市民への情報提供については地元メディアに一日の長があるだろう。双方、話し合うことで、新たな知恵が浮かぶはずだ。災害情報等に限り、お互いのSNSをリンクさせても良いのでは無いか。

 

今回は防衛省と自衛隊がツイッターの公式アカウントを開設した。自衛隊の災害対応が一目瞭然、わかりやすくなった。陸上自衛隊の各方面隊のみならず、航空自衛隊、海上自衛隊らのツイートも一元化されている。各自治体も参考にしてもらいたい。

写真)令和元年台風19号に係る災害派遣(第6号ー3)【航空機による救助活動(群馬県館林市)】

出典)twitter : 防衛省・自衛隊(災害対応)

 

毎回繰り返し言われることだが、災害情報が住民にタイムリーに届いていないケースが多い。それが逃げ遅れなどにつながる。情報弱者とされるご高齢の方、特に一人暮らしの方、ご病気で寝たきりの方などはどうしても避難情報の蚊帳の外に置かれがちだ。そうした方々を災害からどう守っていくか、災害列島日本に住む私たち全員の知恵が試されている。

 

トップ写真) 令和元年台風19号に係る災害派遣(第6号ー2)【ボートによる救助活動(福島県郡山市)】

出典)twitter : 陸上総隊司令部

 


この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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