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.国際  投稿日:2019/11/6

弾劾に徹底抗戦トランプ陣営


大原ケイ(英語版権エージェント)

「アメリカ本音通信」

 

 

【まとめ】

・トランプ弾劾調査の審問公開を米下院が決議。訴追決議案提出必至。

・共和党員からの支持は崩れず、罷免の可能性はおそらくない。

・対富裕層減税効果薄れ、経済指標陰るなら、トランプ再選に暗雲。

 

かつてドナルド・トランプ大統領は「民主党が弾劾に踏み切れば、自分の支持者の結束がさらに固まって再選にも好都合」と豪語したものだが、とうとう弾劾調査の審問公開を米下院が正式に決議した。

 

下院でトランプ弾劾の訴追決議案が提出されるのはほぼ確実だが、上院はトランプのいいなりの共和党が過半数を占めているので、弾劾裁判で有罪判決が下り、彼が大統領の座から罷免される可能性はおそらくないだろう。

▲写真 米下院議事運営委員会(2019年10月30日)。翌31日の本会議でトランプ大統領の弾劾調査の審問公開を決議した。

出典: 米議会下院ホームページ

 

今回、訴追決議案の中核を成しているのは、トランプがウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領にかけた1本の電話の中で言及した取引だ。トランプ側が暗に要求していたのは、次回の大統領選挙で自分の再選の最大のライバルと目される、ジョー・バイデン前副大統領の息子に関するスキャンダルをでっち上げ、汚職の疑いで調査中であることを公表しろ、というquid pro quo(交換条件)だ。

 

その交換条件として、トランプは既に米議会で承認されたウクライナ支援金の支払いを差し止め、両国の絆を示すホワイトハウス訪問の日程を決めるのをしぶり、さらにはウクライナ軍にとって対ロシア戦に欠かせないジャベリン・ミサイルの供給を餌にしていた。

 

トランプは自らこの時の会話を書き写したメモを公表し、「交換条件だ」とはっきり言わなかったと吹聴しているが、アメリカの連邦選挙運動法では外国に金品、あるいはそれに相当するもの(情報など)を要求するのも、受け取るのも違法なので、トランプ大統領は自分で自分の犯罪の証拠を提出したのも同然なのだ。

 

だが、これほど明確な違法行為を犯そうとも共和党内でトランプの支持が崩れないのには理由がある。次回の選挙で議席を失う可能性のある共和党員に対し、選挙資金を集めるファンドレイジングへの協力を約束し、裏切ったら報復措置があることをツイッターで匂わせている。

 

トランプ大統領がとった行動は、どう解釈を捻じ曲げても弁護する余地はないので、トランプ支持を崩さない共和党議員たちは、弾劾裁判の元になる調査の手順にケチをつけるしかないわけだ。さらにウクライナ関係の外交官や連邦職員を招聘しての諮問委員会が密室で行われていることにも文句を言うばかり。だが、外交上の機密漏えいを防ぎ、whistleblowerと呼ばれる匿名の参考人の身元を守るために、一般公開するわけにはいかない。それを承知で敢えて非公開では何もわからないといちゃもんをつけてきた。

▲写真 ナンシー・ペローシ米下院議長(2019年10月31日)。

出典: Nancy Pelosi twitter

 

だからこそ、今回、ナンシー・ぺローシ下院議長は、弾劾に向けた調査の手順や権限を明示し、これを議会にかけた。その調査法も、前回の弾劾裁判、つまりビル・クリントン大統領(当時)を浮気問題で吊し上げた共和党のやり方を踏襲している。これで共和党はその弾劾のやり方に文句をつけることもできなくなったわけだ。

▲写真 ビル・クリントン元大統領(2016年3月20日)。民主党は、共和党がかつて行ったクリントン氏弾劾に向けた共和党の手順を踏襲。

出典:        Flickr; Gage Skidmore

 

トランプ政権側は「大統領特権」と銘打った(実際にはない)権利を振りかざし、関係者が議会で証言することを拒否させようとしてきたが、良心と信頼性のある外交官らが次々と、トランプとウクライナの取引を裏付ける証言を始めており、これ以上の証言拒否は司法妨害と認定され、さらに弾劾裁判での材料となっていく。

 

弾劾裁判の他にも、過去8年分の納税記録の提出や、さらなるセクハラ・名誉毀損裁判など、トラブルが山積みのトランプだが、これから富裕層を対象とした税率軽減政策の効果も薄れ、経済指標に陰りが出始めたら、再選はさらに苦しくなるかもしれない。

 

トップ写真 ドナルド・トランプ米大統領(2019年11月4日 ホワイトハウス)

出典: Flickr; The White House

 


この記事を書いた人
大原ケイ英語版権エージェント

日本の著書を欧米に売り込むべく孤軍奮闘する英語版権エージェント。ニューヨーク大学の学生だった時はタブロイド新聞の見出しを書くコピーライターを目指していた。

大原ケイ

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