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.国際  投稿日:2019/7/19

「自国へ帰れ」トランプの本音


大原ケイ(英語版権エージェント)

「アメリカ本音通信」

【まとめ】

・トランプが非白人女性議員4人に「不満あるなら自国へ帰れ」と表明。

・下院で弾劾の動きなら、それを盾に再選へのアピールにする思惑か。

・移民や女性への侮辱・差別発言繰り返し、白人票取り込みを図り続ける。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=46945でお読みください。】

 

ドナルド・トランプ大統領が14日にツイッターで非白人の女性議員4人に対し「(そんなにこの国に不満があるんだったら)自分の国へ帰れ」という暴言を吐いたことは日本でも報道されたようだが、トランプがレイシストだというのは以前からわかっていたことでもあり、今やショックバリューが薄れている感がある。それよりこの発言の裏にある真の思惑や、その後の流れが気になるところだろう。

差別発言の対象とされたのは、自ら仲間をThe squad(特別班、四人組とでも訳すべきか)と命名したリーダー格で、ニューヨーク州のアレクサンドラ・オカシオ=コルテズ(通称AOC)議員、4人の中で唯一帰化した元ソマリア難民であり(国に帰れるわけではないが)、デモクラッツ上層部から注意されても意に介せずアメリカのイスラエル外交策を真っ向から批判してきたミネソタ州イルハン・オマール議員、当選スピーチで「あの“ファッカー”(大統領を指しているが、放送禁止の汚い言葉)を弾劾する!」と息巻いて議会から勧告を受けたミシガン州のラシーダ・タリブ議員、そしてマサチューセッツ州のアヤナ・プレスリー議員は先祖代々アメリカ生まれのアメリカ育ちの黒人女性( ちなみにトランプは祖父フレデリック・“ドランプフ”が兵役を逃れるためにドイツから移民してきた新興移民一族と言える)だ。

▲写真 The squadの4議員。左からアレクサンドラ・オカシオ=コルテズ、アヤナ・プレスリー、イルハン・オマール、ラシーダ・タリブ各議員。出典:Public domain

この4人が直接トランプに何かしたわけではない。そもそもの発端は、昨年11月の中間選挙で、野党であるデモクラッツが下院で過半数を取り戻し、トランプ政権下にいわゆる“ねじれ”が起きたことだった。過半数をとったデモクラッツ(民主党)の一年生議員には、若い非白人女性で、SNSの使い方に精通し、かなりリベラルな政治思想を持った「4人組」がいた。地球温暖化問題や移民問題など、理想的ではあるが、中道派も加わってこそ過半数が取れたデモクラッツが全員賛成できかねる強硬策を押し通そうとした。

これまでの新米議員であれば、大人しく地味な委員会に振り分けられ、先輩議員のやり方を見習い、コツコツと自分の名を冠した法案に賛成してもらえるよう働きかけたところが、勝手に、法案でさえない「声明」を発表したり、SNSで上層部を批判し、ベテランであるナンシー・ペローシ下院議長にさえ楯突くラディカルな行動に出た。

▲写真 ナンシー・ペローシ下院議長 出典:Public domain

一方で、デモクラッツで一致団結して、来年の大統領選に臨みたいペローシ議長は議員全員を集め、「下院は弾劾を求めない方針であり、選挙戦では国民健康保険改革を中心に有権者に訴える」「幹部や党の方針に不満があるのなら、SNSではなく、直接言ってこい」そしてさらにマスコミのインタビューに答え、「ネットで大騒ぎをしても、下院では4票の力しかない」と牽制した。

4人組はこれを「マイノリティー議員に対する攻撃」とまで批判し、内部分裂寸前だったのだが…。

ここに、トランプの差別発言である。ペローシ下院議長に加勢したのではなく、デモクラッツはこうやって仲間割れして、国民のことなど考えていないと言いたかったようだ。下院が大統領弾劾に向かって動けば、それを盾にとって「攻撃されている俺様に加勢してくれ」と再選へのアピールにしたいという思惑もあったろう。

4人組の議員はさっそく合同記者会見で大統領を強く非難する声明を出したが、大統領は「アメリカがいやなら誰だって出て行く自由はある」と表明。人種に触れず、だが発言を撤回する気配も見せなかった。これを受けて、ペローシ議長は大統領の差別発言を議会に対する行政府の攻撃として、下院で非難する決議をとった。結局、ほとんどの共和党議員は「大統領は人種差別主義者ではない」とトランプを擁護したが、数人がデモクラッツ側に回り、決議は採択された。ペローシ議長は、政策や方針で仲間割れをすることもあるが、だからといって大統領側につくわけではないというメッセージを送り、母親が奔放な娘を守るように4人組を擁護したことになる。

この話はこれで終わったわけではなく、トランプは再選に向けていっそう移民を痛めつけ、女性を侮辱し、差別発言をすることで白人票を取り込むことに固執するだろう。

トップ写真:トランプ米大統領(2019年7月18日 ホワイト・ハウス)出典:flickr; The White House


この記事を書いた人
大原ケイ英語版権エージェント

日本の著書を欧米に売り込むべく孤軍奮闘する英語版権エージェント。ニューヨーク大学の学生だった時はタブロイド新聞の見出しを書くコピーライターを目指していた。

大原ケイ

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