トランプ大統領弾劾へ風雲急
大原ケイ(英語版権エージェント)
「アメリカ本音通信」
【まとめ】
・慎重派も大統領弾劾に前向きに転じる。その背景は。
・過去ではなく、来年の大統領選に外国の介入許したことに強い批判。
・大統領自ら関与認める形。側近がトランプを見捨てることも予想される。
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ウクライナ大統領との電話に関する内部告発がトランプ大統領弾劾に突き進むきっかけになったそのワケは?
ロシアのプーチン政権が2016年の米大統領選挙に介入したかどうか、そしてさらには共和党の候補だったドナルド・トランプがその介入に関わっていたかどうかを調査し、2年の歳月をかけてまとめられ、今年3月に提出された「マラー報告書」。現職の大統領は起訴されないとの前提に立ったためか、ロシア側の介入に関してはクロだが、トランプ側の協力に関しては詰めが甘く、発表後もトランプ政権の支持率(元々低い、というのもあるが)は揺るがなかった。
だが、ここにきて新たに登場したのがホワイトハウス内に勤務するCIA捜査官と思しき人物(whistle blower)による内部告発だ。その内容とは、現職だったウクライナのポロシェンコ大統領を破って当選したヴロディミール・ゼレンスキーに祝辞の電話をかけた際に、隣国ロシアとの対立で有効な武器である米国製「ジャベリン・ミサイル」を引き続き購入したい、と言われた直後に、「頼みがある」とし、次期大統領選挙での民主党の最有力候補であるジョー・バイデン前副大統領とその息子に関する汚職のスキャンダルを調査して欲しいと告げた、というものだ。
▲写真 ジョー・バイデン前副大統領(2019年8月11日)出典:facebook; Joe Biden
この後、これまで弾劾措置を頑なに拒んできたナンシー・ペローシ下院議長の態度が急変し、今年中にも下院での弾劾決議が採決され、上院でも弾劾裁判を余儀なくされるだろうとの見通しが立っている。ここにきてなぜこうも迅速に大統領弾劾への道が開けたのか?
▲写真 民主党所属のナンシー・ペローシ下院議長(2019年10月1日)出典:facebook; Nancy Pelosi
1)次の大統領選挙に外国の介入を促したから
マラー報告書は2016年の大統領選挙、つまりは過去の選挙への介入があったかどうかの調査だが、内部告発はトランプがウクライナ大統領に対し、再選に向けて最大のライバル候補であるジョー・バイデンの身元調査を依頼したものだ。つまりはトランプが再選をかけて来年秋に行われる選挙のためのスキャンダルを用意してくれ、といっているわけで、議会で行われる弾劾による制裁が緊急なものとなった。
2)大統領が直接指示しているから
マラー報告書に関する調査では、結局トランプ大統領への直接的な尋問は叶わず、文書による質問にトランプ大統領が答え、それを弁護士が念入りにチェックしたものしか提出されなかった。
だが、今回の内部告発による電話でのやりとりは、ホワイトハウス自らがトランスクリプト(口頭での会話を記録したもの)を提出し、それによると、ウクライナへのミサイル支援を持ち出された直後に「それより、ちょっと頼みがあるんだが」と取引を匂わす発言をしたことを大統領自ら認めた形となっている。
▲写真 ウクライナのヴロディミール・ゼレンスキー大統領(2019年6月18日)写真:facebook; Володимир Зеленський
3)報告書が短く、違法性がわかりやすいから
450ページもあり、法律の専門用語も多くて冗長なマラー報告書と違い、今回の内部告発者による手紙は10ページ足らずなので、コメントを求められた議員や関係者が「全文を読んでいないからコメントできない」という言い訳を使えない。さらにアメリカの選挙活動財務法で「外国からは金銭やそれに代わる協力を得てはならない」という一文があり、トランプ大統領の行為が違法であることが自明の理で、否定の余地がない。
4)既に大統領が認めているから
トランプ自身はハッキリと「〜と引き換えに」という言葉を使っていないので、quid pro quo(交換条件)が成り立たないとでも考えたのか、自ら会話の概要をタイプしたトランスクリプトを提出したが、実際にウクライナへの軍事支援を引き延ばしにしたことなどが分かっている。今回は大統領自身がハッキリ「自分がやった」と公言しているので、それがそのまま動かぬ証拠となり、調査の必要さえない。
5)証拠を出し渋ることは公務執行妨害(obstruction of justice)となるから
さらに内部密告者の告発で気になるのが、この電話での会話内容が周りの者の判断によって通常より機密度の高いサーバーに保存されている、と書かれている部分だ。このサーバーには通常、ウサマ・ビン・ラディン暗殺作戦のような、軍事上の最高重要機密とされる情報だけが保管されるはずが、大統領の発言を隠蔽するために利用され、しかも他にもこのサーバーに保存された他国のトップリーダーとの会話もあるという。となると、この行為そのものが隠蔽に当たるし、弾劾のための調査に応じないことも、隠蔽という罪を重ねることになる。
これからトランプ大統領の言動は中国にも「バイデンを調査しろ」と公言するなどますます常軌を逸し、側近も弾劾裁判に備えて自らの身を守るためにトランプを見捨てることが予想されている。
トップ写真:ホワイトハウスで記者団の質問に答えるトランプ大統領(2019年10月3日)出典:flickr; The White House (Public domain)
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この記事を書いた人
大原ケイ英語版権エージェント
日本の著書を欧米に売り込むべく孤軍奮闘する英語版権エージェント。ニューヨーク大学の学生だった時はタブロイド新聞の見出しを書くコピーライターを目指していた。