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.国際  投稿日:2019/11/26

GSOMIA「終了の通告」は今も生きている


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2019#48」

2019年11月25日-12月5日

【まとめ】

・GSOMIA、効力を条件付きで中断。

・今回のGSOMIA交渉は日米韓の外交交渉担当者の芸術作品的取引。

・米下院での大統領弾劾手続きはクリスマスまでに完了予定。

 

先週末は日韓GSOMIAで大きな動きがあった。一週間前、筆者は「あと数日内に文大統領が8月末の決定を撤回する度量があれば、多くの日本人は同大統領を見直すかもしれない。だが、恐らくそれは無理だと思う」と書いた。では筆者は文大統領を見直しただろうか?答えはやはり否である。まずはその理由から始めよう。

韓国政府の決断直後、当初は詳細が不明だったせいか、GSOMIAを「条件付きで延長」するなどと報じられた。その後は「失効回避」「終了猶予」「破棄凍結」などと表現が二転三転。正確には同協定の「対日終了通告の効力を条件付きで停止する」のだという。されば、文大統領は「8月末の決定」を「撤回」した訳ではなさそうだ。

法匪的に解釈すれば、「対日終了通告」という決定自体は「撤回しない」が、その通告の「効力」を「中断させる」ということか。要するに、GSOMIA「終了の通告」は今も生きているが、残り時間6時間の時点で韓国はストップウォッチを止め、終了通告の効力を中断させている。但し、その気になればいつでもカウントを再開する気だろう。

随分回りくどい言い方だが、元官僚の筆者にはとても分かりやすい表現。日米韓の外交交渉担当者が秘術を尽くしたかどうかは知らないが、長い交渉の末にまとめた一種の芸術作品的取引だろう。GSOMIA交渉については今週のJapan Timesと産経新聞に英語と日本語でコラムを書いたので、御一読頂ければ幸いである。

もう一つの焦点は相変わらずワシントンでの大統領弾劾の動きだ。実は先々週からキヤノングローバル戦略研究所の辰巳主任研究員が「デュポンサークル便り」というニュースレターを書いている。

大統領弾劾のプロセスは複雑で、日本ではあまり詳しく報じられていない。ワシントンの動きを詳しく知りたいなら、超お勧めである!

 

〇 アジア

香港の区議選で民主派候補が圧勝した。民主派は全452議席の80%を超す380議席以上を獲得して圧勝、親中派はおよそ60議席に終わったという。これで香港の民主化が進む?いやいや、むしろ逆ではないか。これは勝ち過ぎだとすらと思う。筆者が習近平氏なら、これ以上の民主化要求には絶対に応じないと決めるだろう。

 

〇 欧州・ロシア

今週はローマ教皇が訪日している。ローマ・カトリックというと、筆者には特別の思いがある。中学高校がイエズス会だったからだけではない。ワシントン在勤中にアメリカでのカトリック教徒のイメージを知ったからだ。アメリカはプロテスタントの国だから、大統領よりもローマ教皇に忠誠を誓うカトリック教徒には偏見や差別が今もあるらしい。

幸いなことに、日本ではそのような偏見差別はない。23日に来日、長崎と広島を24日に訪問、25日午前には天皇陛下と会見、午後は総理と会談する。ローマ教皇が日本にいるという意味の真の大きさを日本人が実感するのは難しいだろうが、何せ38年ぶりの教皇の訪日だ、成功を祈りたい。

▲写真 ローマ教皇と安倍首相の会談 出典:首相官邸Twitter

 

〇 中東

先週、イスラエルの検察が収賄などの罪でネタニヤフ首相を起訴した。現職首相の起訴は初めてだが、同氏については様々な噂があったので別に驚かない。問題はこれでイスラエル内政にポスト・ネタニヤフの時代が来るか否かだが、野党の組閣工作は暗礁に乗り上げているので、もしかするとまた総選挙があるかもしれない。

 

〇 南北アメリカ

本日吉崎達彦氏から面白い話を聞いた。米下院での大統領弾劾手続きは順調に進めばクリスマスまでに完了する。上院で弾劾裁判が始まるのは来年1月初旬以降となり、大統領選予備選と重なってくる可能性が高い。現在出馬を予定しているサンダース、ウォーレン、ハリスなどは皆上院議員だが、どうするつもりなのだろうか。

それ以上に深刻なのは民主党の候補者のお粗末さだ。マイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長は24日、米大統領選挙の民主党候補者指名争いに出馬すると正式に表明したそうだ。彼は今77歳、市長としての実績もあり、トランプとは違った億万長者だが、おいおい、他に候補者はいないのかよ。これではトランプに勝てない。

▲写真 マイケル・ブルームバーグ前ニューヨーク市長 出典:Flickr; Gage Skidmore

 

〇 インド亜大陸

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:タイに訪問した文大統領 出典:韓国大統領府


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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