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.国際  投稿日:2019/11/28

トランプ弾劾プロセス進行中 その2


大原ケイ(英語版権エージェント)

「アメリカ本音通信」

【まとめ】

・トランプ支持の証人がトランプに不利となる爆弾証言。

・「裏外交」で頻繁に名前が挙がった大統領私設弁護士、ジュリアーニ氏。

・下院は訴追を決議する見通し。上院での弾劾裁判へ。

 

4日目午前

ゴードン・ソンドランド 駐欧州連合大使

裏外交のthree amigos(三人衆)の1人とされていたソンドランドは、今回の弾劾調査の公聴会でどう出るかわからない最重要人物と目されていた。初回の一般非公開の証言ではほとんど「記憶にない」「思い出せない」でお茶を濁し、他の証言が公開されるに従って、一度訂正を申し入れており、3度目となるこの聴聞でどう発言するのか注目されていた。トランプ支持者として、他者の証言と矛盾しても知らぬ存ぜぬで通すのか、あるいは米国修正第5条に従って黙秘権を主張すると見られていた。

だが、弾劾調査の公聴会に現れたソンドランドは終始笑顔で、質疑応答中にジョークを飛ばして快活に笑ったり、自慢げに自分の経歴を語るなど全く予想外の展開となった。そしてその発言内容は、トランプ側にとってダメージの大きいものだった。

4百万ドル近い軍事支援金の支払いと引き換えに、大統領再選に向けてのライバルであるジョー・バイデンとその息子の汚職についての調査を(発表するだけでよく、実際にやらなくても良しとされたと指摘)求めたquid pro quo(交換条件)があったことを認めた。

▲画像 米下院情報委員会の弾劾調査公聴会で証言するゴードン・ソンドランド氏(2019年11月20日)出典: YouTube; House Intelligence

さらに他の証言者がウクライナとの取引を「裏外交」と呼ぶが、大統領の指示で何人ものスタッフが尽力していた取引なのだから「裏」ではない、とまで主張。「皆がin the loop(情報共有などで関わっていた)」という「皆」にはマイク・ペンス副大統領、マイク・ポンペオ国務長官、ミック・マルベニー首席補佐官代行が含まれるという爆弾発言が飛び出した。

ソンドランドは、ホロコーストを逃れてアメリカに来たユダヤ系の移民の息子として育ち、ワシントン州を中心にブティックホテルをいくつも経営しているプチホテル王。トランプ大統領就任祝いに100万ドルをポンと寄付し、外交経験ゼロにも関わらず、EU大使という役職を与えられた。

 

4日目午後

ローラ・クーパー ロシア・ウクライナ担当の国防次官補代理

デイビッド・ヘール 政治担当国務次官(国務長官を筆頭に3番目の高位にあたる)

▲画像 公聴会で宣誓するデイビッド・ヘール氏(左)とローラ・クーパー氏(右)(2019年11月20日)出典: YouTube; House Intelligence

クーパーは前述のNATO大使だったカート・ヴォルカーを通じ、ウクライナ政府が初期の段階(8月)に、4億ドル近い軍事支援金の支払いとの交換条件として、ジョー・バイデンの息子の汚職を調査するように求められていることに気がついていたと証言。

ヘールは40年もの経験を持つベテラン外交官で、マリー・ヨヴァノヴィッチ大使を追い出すように、トランプ大統領の私設弁護士であるルディー・ジュリアーニが仕向けていることに気づき、マイク・ポンペオ国務長官にこれをやめさせるよう助言したが聞き入れられなかったと証言。

 

5日目

フィオナ・ヒル  元ロシア外交首席アドバイザー

デイビッド・ホームズ ウクライナ大使館における政治相談役

▲画像 公聴会で宣誓するフィオナ・ヒル氏(左)とデイビッド・ホームズ氏(右)(2019年11月21日)出典: YouTube; House Intelligence

フィオナ・ヒルはロシア外交の専門家として、ゴードン・ソンドランドらが関わるウクライナとの「裏外交」を「内政問題のパシリ」だと見抜き、ソンドランドと対立していた。ウクライナのゼレンスキー大統領によるホワイトハウス訪問と、軍事支援金の支払いが取引の交換条件として利用されたと証言した。

さらに、トランプ大統領をはじめ共和党議員の中に、2016年の大統領選挙に介入したのはロシアではなく、ウクライナだというデマを流している者がいるが、これは国益にならないことを明確に証言。トランプ大統領が最も苦手とする「頭の切れる女性」であることを強く印象付けた。一方のホームズは、追加で証言者リストに加えられた人物で、ソンドランドとトランプ大統領が実際にウクライナの汚職調査のことで電話をしている場に居合わせたことを証言した。

ヒルの父はイギリス北部の炭鉱夫で、自身も労働者階級の訛りが強い英語を話すため、名門のオックスフォード大学での面接でバカにされた際に、じぶんにはイギリス国内では道が閉ざされていると感じ、ハーバード大学に進学、2002年にアメリカ国籍を取得した。

質疑応答中に、彼女はニューヨーク・タイムズ紙で紹介されたエピソードは本当なのかを問われた。これは、11歳の時学校で試験中に、後ろの席の男の子がいたずらでおさげにしていた髪の毛に火をつけたが、ヒルはこれを悠々と手でもみ消し、テストを続けたというもの。ヒルは「本当です。でもその後で母が髪を短く切ってしまったので、学校写真にはリチャード3世のようなボウルカットで写っていることまでは伝えられていませんが」と答え、場内の笑いを誘う余裕をみせた。

一連の証人喚問で、ウクライナとの裏外交でいちばん頻繁に名前が挙がったのは、ルディー・ジュリアーニだった。大統領付きの個人弁護士という立場で、ウクライナやその他の国に赴き、ジョー・バイデン前副大統領を中傷できそうな材料を嗅ぎ回っていたとされている。そのジュリアーニと親交のあったロシア出身の男が2人、すでに起訴されている。

▲写真 ルディー・ジュリアーニ氏 出典: Wikimedia Commons (Public domain)

だが、ジュリアーニ本人は今もケーブルTVであるフォックス局に出演し、自分が罪に問われることはないと吹聴している。これもおそくらトランプ大統領の醜聞や違法行為を知り尽くしていることを逆手にとっているとされている。

弾劾調査の今後は未定で、さらにジョン・ボルトン前国家安全保障問題担当大統領補佐官らキーパーソンを引き続き喚問する可能性もあるが、下院として弾劾訴追の決議を行い、上院に送ることになる。

その1はこちら)

▲写真 ドナルド・トランプ米大統領(2019年11月26日 ホワイトハウス)出典: Flickr; The White House(Public domain)


この記事を書いた人
大原ケイ英語版権エージェント

日本の著書を欧米に売り込むべく孤軍奮闘する英語版権エージェント。ニューヨーク大学の学生だった時はタブロイド新聞の見出しを書くコピーライターを目指していた。

大原ケイ

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