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.国際  投稿日:2020/2/13

弾劾無罪 トランプのリベンジ


大原ケイ(英語版権エージェント)

「アメリカ本音通信」

【まとめ】

・トランプ弾劾裁判で同じ共和党のミット・ロムニー上院議員は「有罪」とした。

・ロムニー氏、ホワイトハウス職にありつけなかった仕返しではなかった。

・トランプ大統領は今回のウクライナ問題で関与した3名を解雇。

 

ドナルド・トランプ大統領の弾劾裁判は予想通り「無罪」で罷免せず、という結果に終わった。だが、ひとつだけ歴史的に特筆すべき票があった。大統領と同じ共和党ながら、ウクライナ疑惑について「有罪」としたミット・ロムニー上院議員のそれだ。

▲写真 ミット・ロムニー上院議員 出典:Flickr: Gage Skidmore

2008年と2012年に大統領予選に出馬し、共和党の候補として2012年にバラク・オバマと争い、敗れたロムニーは、周知の通り敬虔なモルモン教徒だ。神を信じ、良心に従って有罪票を投じる、と宣言したスピーチは印象深いものだった。

弾劾裁判はこれまでにも3回行われてきたが、大統領と同じ党の上院議員が有罪票を投じたのは歴史上、ロムニーが初めてだ。残りの共和党議員の中には「大統領は確かに悪事を働いたが、罷免するにはあたらない」となんの書類も見ず、証人の証言も聞かぬままトランプを無罪とした。

ロムニーが良心に従うことを選べた背景には他の議員と違う事情がある。マサチューセッツ州知事を務めた後、大統領選に敗れたロムニーは地元ユタ州に帰り、上院議員として出馬したが、人口300万人を超える州民の6割以上がモルモン教徒なのでロムニー議員の支持は揺るがないのだ。さらに今秋、大統領選と同時に再選選挙を戦わなくてもいいので、大統領の顔色を伺う必要がないということだ。

オバマとの大統領選に敗れたロムニーは2016年にトランプが当選した後、国務長官か、首席補佐官か、というホワイトハウスの要職を鼻先にぶら下げられ、トランプタワーにご機嫌参りに出向いたことがある。だがこの時に面会をしたトランプは、ロムニーが信心深い人間で自分の思う通りに操れないことを悟ったのか、なにもポストを与えなかった。

有罪投票後のロムニーは同じ上院の共和党員から「ユダ(裏切り者)」呼ばわりまでされたが、ロムニーがホワイトハウス職にありつけなかった仕返しとして有罪票を投じたのではないことは誰の目にも明らかだ。

今回の弾劾裁判は、大統領側の与党が一枚岩ではなかったという歴史を刻むことになったし、彼のスピーチを聞けば、残りの共和党議員のトランプへの追従ぶりが浮き彫りになる。

もう1人、米議会で敢然とトランプ大統領に非難の矛先を向けたのが、弾劾裁判無罪判決の前日に行われた一般教書演説の後で、スピーチ原稿を破ってみせるパフォーマンスを披露したナンシー・ペローシ下院議長だった。

もちろん彼女は冷静な政治家であって、怒りに任せてこんなことをする人物ではない。彼女の目的は、自らが非難の対象となることで、見事に演説の内容については誰も話題にしなかった。もっとも中身は相変わらず自画自賛の選挙ラリーのようなお粗末な内容だったのだが。

▲写真 トランプ大統領(左)とペローシ下院議長(右)出典:DoD photo by U.S. Air Force Staff Sgt. Marianique Santos

そしてさっそくトランプ大統領が粛清に乗り出した。まずは下院議会の弾劾公聴会でウクライナ問題について証言したロシア・ウクライナ担当の重宝専門家、アレクサンダー・ヴィンドマン陸軍中佐(となぜか全く関係ない双子の弟で国家安全保障会議高官、エフゲーニィ・ヴィンドマン陸軍中佐まで)をクビにした。さらにはウクライナとの交渉役を任せていたEU大使のゴードン・ソンドランドも解雇となった。

もはや民主主義国家の常識から逸脱したトランプ大統領を制止できる組織はなくなったといえるだろう。まさにコロナウィルス並みの破壊力だ。

トップ写真:「トランプ無罪」と書かれた新聞を掲げるトランプ大統領 出典:The White house facebook


この記事を書いた人
大原ケイ英語版権エージェント

日本の著書を欧米に売り込むべく孤軍奮闘する英語版権エージェント。ニューヨーク大学の学生だった時はタブロイド新聞の見出しを書くコピーライターを目指していた。

大原ケイ

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