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.国際  投稿日:2020/1/10

脱ゴーン、日産はどこへ行く


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

ゴーン、日本の司法制度批判、新しい情報出ず。

・ゴーン、過去の業績見るべきものなし。

・日産アライアンス、資本関係見直しも視野に戦略立てよ。

 

13年間日産自動車の海外部門で働いた筆者は、ゴーン被告が日産に来る前の1992年に辞めた。今、日産が置かれている立場を見るにつけ、本当に残念な気持ちだ。

 

■ ゴーンの会見

保釈中の身ながら不法に国外に脱出し、自由の身となったゴーン被告。レバノンで地元メディア、欧米メディア、若干の日本メディアを集めて1月8日夜(日本時間)、記者会見とういう名の独演会を行った。

時にはジョークを交えるリラックスぶりで、早口に一方的に日本の司法制度を批判し、彼の追い落としを図ったとする日産幹部数名の名前を挙げたが、事前ににおわせていた日本政府の関与については触れることはなかった。

また、楽器用ケースに隠れて関西空港からプライベートジェットで脱出した経緯についても一切語らなかった。全体として新味はなく、「言いたい放題」の会見で、彼の国外逃亡を何ら正当化するものではなかった。正直、彼の経営者としての能力、若しくは個人としての資質を評価するには全く至らなかった。むしろ、みな疑問に思ったのではないか?

フランスのPR会社が会見をコーディネートしていたらしいが、もしわたしがメディアアドバイザーだったら、従来の主張を繰り返すだけなら何のメリットもないとして会見に反対したろう。日本国民のみならず、会見を見たほとんどの人は、そんな主張は裁判で明らかにすればいい話で、何故逃亡した海外から好き勝手言ってるのか、と感じたに違いない。会見の中で「私は日本を愛している」と繰り返したゴーン被告、その割には日本の司法制度や検察は法を守っていない!とまくしたてるのみで説得力はゼロだった。

反応は遅かったが、さすがに森まさこ法務大臣は記者会見を開き、日英仏三か国語で反論を発信した。アラビア語とポルトガル語にも翻訳した方がなお良いだろう。何しろ、レバノン人の両親を持ち、ブラジルで育ち、フランスの企業で長年仕事をしてきたゴーン被告、会見も記者の出身別に英語、フランス語、アラビア語、ポルトガル語と縦横無尽に使いこなしていたのには苦笑したが、英語以外の言語でいくら受け答えしても同時通訳が入らないと何言ってるかわからないわけで、経費をおさえたのだろうか、と訝ってしまった。

とにかく、今後は誰も耳を貸さないだろうが、ゴーン被告の繰り言は続く可能性がある。そのたびに日本はきちんと反論すべきだ。彼のメディア戦略に屈してはならない。

 

■ ゴーン経営の評価

以前の記事でも書いたが、ゴーン被告の功績は、2兆円の借金にまみれた日産の業績をV字回復させたことだろう。が、それも主力工場を閉鎖し、2万人の従業員の首を切ってのものだから、正直、彼でなくても胆力がある経営者ならできないことはない。

もう一つの功績、たぶんそれが最大のものではないかと思っているのだが、EV(電気自動車)の量産を日本の競合他社に先駆け実現したことだろう。最大のライバル、トヨタ自動車は未だにEVの量産型を持っていないことを見ると、その先見性は評価していいと思っている。

最も、HVの開発を中止してしまったことや、EVの車種がリーフ1車種にとどまっていること、ルノーとの部品共通化が当初目標より遅れていることなどは、決して褒められたものではない。世界的なEV化の潮流の中で、フロントランナーだったにもかかわらず、先行者利益を得ることができなかった。これは未だに筆者は謎に思っている。ゴーン被告は何をしていたのだろうか?

もう一つ大きな業績の一つに、アライアンスに三菱自動車工業を加えたことだが、これも大したシナジーが出ているとは思えず、せいぜい全体の生産台数が底上げされたくらいの効果しか出ていない様に思える。これも功績としてほめたたえることは出来そうにない。

 

▲写真 日産LEAF 出典:Wikipedia

 

■ ルノーと日産の力関係

ゴーン被告が日産自動車を追われた原因に、ルノーと日産の関係があるのは周知のことだ。ルノー日産・三菱はアライアンスと名乗っているように、相互に株を持ち合った緩い「統合」である。かつて、会長だった志賀氏は「通常の合併ではなく、我々のアライアンスという統合の形はもっと評価されてもいい」と筆者に強調したことがある。確かに現状ルノーが日産の43%の株を、日産がルノーの15%株を持ち合うという形は変則的だ。しかもルノーの15%の株はフランス政府が持っている。完全合併ではなく、緩い統合=アライアンスだからこそ、ルノーと日産はお互いの独立性を保ちながら成長していける、との主張だと受け取った。

しかし、フランス政府はルノーの日産に対する支配を強めようと考えている。ゴーン被告は表立ってはルノー、日産の合併には反対の姿勢だったが、ゴーン被告の下では、日産への支配力を強めたいフランス政府の圧力をかわし切れるか、西川廣人前日産CEOは不安を感じていたと思う。そうした中でのゴーン追放劇だったわけだが、司法取引をしてまで追い落とす手法に違和感を感じたのは筆者だけではなかろう。

フランス政府は共同持ち株会社方式を軸に、仏ルノーと日産自動車を経営統合させたい意向を持っているとされる。この案にも現日産経営陣は反対のようだ。外国人に支配権を渡したくないのだろうか。また、法人税収入や雇用を確保したい経済産業省とその思惑は一致しているかもしれない。

▲写真 Renault-Nissan-Mitsubishi Alliance logo 出典:Wikipedia

しかし、持株会社が出来れば、日産がルノーを助けている不公平な状況は解消されるわけで、日産の株主が声を上げてもおかしくはない。

いずれにしても電動化、自動運転、保有からシェア、MaaSなど車を取り巻く環境の変化は加速している。今後、日産・ルノー・三菱の「アライアンス」が、この厳しい国際間競争勝ち残っていくためには、現状の資本関係の見直しも視野に入れ、戦略を練るべきだろう。

トップ写真:カルロス・ゴーン被告 出典:flickr photo by Gobierno Aguascalientes


この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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