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.経済  投稿日:2018/11/26

ゴーン後の日産、次の一手は?


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

「編集長の眼」

【まとめ】

・有価証券報告書虚偽記載罪、そもそも成立するかとの声。

・クーデターはルノーとの資本構成への不満等が原因。

・3社アライアンスは維持し、政府巻き込んだ争いやめよ。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=42999でお読みください。】

 

ゴーン容疑者は、東京地検特捜部の取り調べに対し、「有価証券報告書に自らの報酬を少なく記載する意図はなかった」などと容疑を否認しているという。逮捕直後に書いた記事で指摘したが、ゴーン容疑者は法律違反をしていたとの認識はなかったと思う。日本人には巨額報酬に見えるだろうが、世界のトップ企業の経営者の報酬としてはさして高い方ではない。さまざまな便宜供与は当然の権利だと思っていただろう。

報酬以外に私的な目的での経費の支出として、世界数カ所における高級住宅の購入資金やインテリアの代金、家賃など、次々と報道されているが、多くの企業が経営者に社宅や車やその他もろもろの便宜を図っている。当然、日産社内で適正に経理処理されていたはずだし、取締役会も知らなかったではすまないだろう。

こうした中、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の罪がそもそも成立するか、との指摘も出始めた。当然、ゴーン容疑者の弁護人も徹底抗戦の構えだろうし、法廷闘争は一筋縄ではいかなそうだ。

写真)カルロス・ゴーン 2007年東京モーターショー
出典)Nissan Motor Co., Ltd.  (Public domain)

 

■ 日産が置かれている状況

さて、ゴーン会長を解任した日産取締役会だが、今後どのような選択肢があるのか?それを考える前に今の日産が置かれている状況を見てみよう。そこには3つの不満が横たわっている。

①資本関係への不満

現在仏ルノーは日産に約43%出資しているのに対し、日産はルノーの15%の株式しか持っていない。そして仏政府はルノーの株式の15%を保有している。

そもそも今回のゴーン追放ともいえる動きは、仏政府が日産の経営営の関与を強めようとしていることに対する警戒感から発したものだ。何を隠そう、現マクロン大統領がオランド政権下、経済産業相であった2015年に、政府が2年保有している株式の議決権を2倍にする「フロランジュ法」を盾にルノーへの関与を強め、間接的に日産をコントロールしようと試みたのだ。これに猛反発した日産は、日産の持つルノー株を25%まで買い増せば、ルノーの持つ日産株の議決権が消滅するという日本の会社法を持ち出して対抗した。

写真)仏マクロン大統領と安倍晋三首相 2017年5月 出典)首相官邸

仏政府は対立が泥沼化するのを嫌気したか、交渉の結果、2015年12月に仏政府とルノーが日産の経営に関与しないことで合意し、さらに日産取締役会はルノーの取締役会の承認を得ずして、ルノー株を買い増すことが出来るようになった。日産としてはピンチを脱し、実利を得た格好になった。3者、とりあえず現状維持で行こう、とう妥協策だったが火種は残った。なにせ、大統領は当のマクロン氏なのだ。

2018年になり事態は再び動く。マクロン大統領支持率低迷の原因は高失業率だ。仏政府は、ルノー日産・三菱自動車の3社合併を画策しているとされた。ゴーン氏のルノー会長続投を認める代わりに、仏政府は、3社大合併をゴーン氏に飲ませたのではないか。市場はそう見た。

②経営戦略への不満

アライアンスという緩い提携関係にある限り、仏政府の意向は反映されにくい。しかしゴーン氏は最近、経済合理性より、フランス政府寄りの施策を取り始めていた例えば、2017年には日産自動車の小型車「マイクラ(日本名:マーチ)」の欧州向け生産はインド工場から仏ルノー工場に移管された。仏政府の意向を反映したものと市場で受け取られた。目に見えない形で仏政府の関与が強まれば、こうしたケースが今後増える可能性がある。仏政府は自国経済へのメリットを最大化しようとするからだ。それは日産としていや、3社連合にとって決して好ましいことではない。

筆者は1992年当時、まだゴーン社長が誕生する前、日産自動車で海外事業計画を立てる部署にいた。中長期的に海外の各市場でどの車を売り、どれだけ利益を得るのか。その為に、どこでその車を組み立て、その部品はどこで作るのかを決める戦略部署だ。簡単に言えば、エンジンブロックはメキシコで作り北米に輸出し、北米の工場でエンジンを組み立てる。そして車に取り付けて完成車とする、といった具合だ。

重要なのは、どこで部品や車を作れば一番利益が得られるかを考えることだ。これを当時社内で「グローバル工順」と呼んでいた。自動車メーカーの利益の源泉である。それが、フランス政府の思惑で決まるとしたら、3社連合の存続は危うくなるだろう。当時の日産も「グローバル工順」の経済合理性を十分に追求しなかった。巨額の赤字を垂れ流す海外子会社をたたむことを先送りし、逆に体力以上に海外進出に前のめりになった。スペインの自動車会社モトール・イベリカ(現日産モトールイベリカ会社)の買収などその最たるものだった。海外市場における車種の統廃合もなかなか進まなかった。その結果、巨額の有利子負債を抱えるに至り経営が悪化、ルノーの支援を仰ぐことになったのだ。同じ轍を踏んではならない。

③朝貢が続くことへの不満

日産はルノーに配当金を支払い続け、もう出資を受けた分はほぼ返済している。恩返しは終わったという意識があるはずだ。現に現在、ルノーの連結利益の半分が日産から得られる持ち分法投資利益によるものだ。「日産はルノーの財布」と言われるゆえんだ。これがいつまでも続くことに対する不満が日産社内に溜まっていたことは想像に難くない。

■ 日産の次の一手

こうした不満がマグマのように溜まっていく中、ゴーン氏のルノー会長任期が2022年末まで延長された。当初、ゴーン氏の会長続投に否定的だった仏政府はゴーン続投を認めたことで、ゴーン氏に貸しを作った。ゴーン氏もこの時から政府の意向を無視できなくなったとの見方が広がった。

近いうちゴーン氏は3社統合に動くのではないか?そうした疑心暗鬼が日産社内に広がっていく中、追放は今のタイミングしかない、と日産の現経営陣は判断したのだろう。司法取引まで使い、この春から綿密に準備してきたことがそれを物語っている。

次なる一手だが、日産としてはこれを機に経営の独立性を回復したいだろう。しかし、道のりは平たんではない。

まず、仏政府はルノー株を手放さないだろう。日産はルノー株を買い増すかもしれない。しかし、ルノーの議決権が消滅する25%まで買い増すことに、ルノーも仏政府も黙っているわけがない。激しく抵抗するに違いない。

では、日産が増資をしてルノー株の比率を下げるのはどうだろう?これも支配権の異動を伴う株式発行等を行う場合、株主総会決議が必要となる場合があり、そうなれば当然大株主であるルノーが反対するであろうから実現は難しい。第一、新株発行などしたら株価が下落するだけだろう。一般株主の賛成すら怪しい。

逆にルノーが日産を完全子会社化しようと思っても莫大な資金が必要で実現性は低い。仏政府も一般株主も賛成しにくいだろう。

となると、日産が完全独立をするための妙手というのは考えにくい。株の持ち合い比率には手を付けずアライアンスを維持する。仏政府、ルノーの面子を保ち、3社完全統合を諦めさせる。その上で、3社連合のトップには日産の人間が就く、というあたりが落としどころなのではないか。ほぼ現状維持だが、3社連合のかじ取りは日本人トップが行う、というものだ。こうすんなりいくかどうかは不透明だが。

しかし、よくよく考えてみれば、これまで上手く行っていた仏ルノー・日産・三菱自動車のアライアンスをバラバラにする必要もないように思える。ゴーン経営に過度に頼り切っていたのは日産の方であり、単に経営権を取り戻すだけのクーデターなら、そこに大義はない。既に基幹部品の3割は共通化が済んでいるというが、筆者から見ればそのスピードは決して速いものではない。計画では共通化率7割を目指していたはずだ。

まずは、停滞している3社のシナジーを加速し、最大化することが日仏両政府と3社連合に求められていることであろう。CASE(「Connected:コネクティッド化」「Autonomous:自動運転化」「Shared/Service:シェア/サービス化」「Electric:電動化」の頭文字をとったもの)の流れの中で、自動車メーカーは今、「モビリティのサービスプロバイダ」へと変貌しようとしている。その為にゴーン氏はGoogleとパートナーシップを結んだ。3社連合は2021年をめどにグーグルのOS「アンドロイド」を車に搭載する方針を打ち出している。そうした戦略すべてを着実に実行する事。それがすべてのステークホルダーにとって最適解だ。政府を巻き込んだ無益な闘争にだけはすべきでない。

写真)ゴーン氏と日産の電気自動車「リーフ」
出典)日産自動車

すべての関係者の自制を求めつつ、一刻も早くゴーン後の体制を構築することが今求められている。さもなくばライバルを利するだけだ。そんな余裕は今の日産にない。

 

【訂正】

初掲載2018年11月26日11時の本記事を下記の通り訂正いたします。

正)インド工場

誤)インド向上

トップ写真)日産自動車グローバル本社 出典)©JDP (Public Domain)


この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年12月2日 東京都生まれ(60才)1979年慶応義塾大学経済学部卒業、日産自動車入社(海外輸出・事業企画)、1985年国際大学大学院国際関係学科修士課程卒、1992年フジテレビ入社報道局政経部記者、1998年ニューヨーク支局長、2002年ニュースジャパンキャスター、2003年経済部長、2006年解説委員、2009年BSフジ「プライムニュース」解説キャスター、2013年フジテレビ退社、危機管理コンサルティング会社設立。ウェブメディアJapan in-depth編集長就任。

安倍宏行

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