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.社会  投稿日:2020/2/29

感染拡大の元凶は記者クラブ


清谷信一(軍事ジャーナリスト)

【まとめ】

・感染拡大は、当局の初動のミスや、組織防衛が優先されたため。

・記者クラブは厚労省の無軌道や無策・無能を長年に渡り放置。

・今回の問題をきっかけに、記者クラブ制度のあり方見直すべき。

 

当初人間に簡単には感染しないといわれていたコロナウイルスの感染拡大が世界的に大問題となっている。我が国では当局の初動のミスや、厚労省の組織防衛が優先されたために感染拡大は人災という側面が無視できない。

その遠因となっているのは記者クラブだ。記者クラブが、厚労省の記者会見だけでなく、レクチャーや勉強会、視察旅行などの取材機会から、他の媒体やフリーランスを排除している。特に問題なのは専門媒体や専門記者を排除していることだ

そして記者クラブは権力の監視よりも権力との癒着を主たる業務としている。記者クラブによって厚労省の無軌道や無策・無能が長年に渡って放置されてきた。これが今回のコロナウイルスの問題でも露呈している。

▲写真 厚労省 出典:Photo by

今回も武漢からの政府専用機で帰国した邦人をそのまま帰宅させてたり、ダイヤモンド・プリンセス号に行った検疫官が「専門知識があるから」と、検査を受けなかったとか、官邸が厚労省にたいしたことがないというレクをしろと言ったり、週刊文春で話題の和泉洋人首相補佐官と不倫疑惑がある、コネクト大坪こと大坪寛子厚生労働省官房審議官が和泉補佐官の威を借りて、検疫予算80億円を自分のゲノム解析に流用している。因みに大坪氏は国立感染症研究所研究員などを務めた内科医で、厚労省では危機管理担当の審議官である。

▲写真 横浜市中区新港にある複合施設「横浜ハンマーヘッド」(新港ふ頭客船ターミナル)へ第一号入港したクルーズ客船「ダイヤモンドプリンセス」2019年11月4日 出典:Photo by NEO-NEED

また以前から厚労省の官僚たちは新薬やサプリでも特定業者と結託して、自分たちの権益のために他社の製品開発を潰す等、組織としての闇が深い。更に申せば「薬害エイズ問題」「消えた年金」問題も厚労省の管轄だった。率直に申し上げて厚労省は伏魔殿であり、国民の福祉よりも自分たちの権益やメンツを優先する傾向が強い役所である。

このような実態が国民医なかなか知られず、このような厚労省の体質を支えているのが厚労省記者会、いわゆる記者クラブだ。先述のように記者クラブは他の媒体やフリーランスを記者会見だけでなく、多くの取材機会から排除しており、厚労省の実態や問題点を国民が知ることができないようにしている。厚労省の会見は一部義務のジャーナリストが参加できるようにはなってはいるが、制限は多い。今回のコロナウイルスの問題を報じた多くは記者クラブメディア以外の週刊誌やネットメディアである。記者クラブは厚労省と癒着し、暗部を隠す役割を果たしているとすら言える。

厚労省の会見やレクチャーには医療や薬学の専門媒体や専門記者の取材機械は大きく制限されている。対して記者クラブの記者のほとんどは医学や薬学や厚生問題の専門知識がない。単に会社の辞令で配属されただけで厚労省という役所担当になっただけだ。多くの記者は会見でも質問もせずにカタカタとラップトップで大臣や官僚の発言を書き留めているだけだ。これで国民の知る権利を担保できるわけがない。

知らない人が意外に多いが、官庁の会見の多くは官庁自身ではなく、記者クラブが主催している。だが記者クラブは町内会などと同じ、民間の任意団体にすぎない。しかも国民や報道関係者が記者クラブを報道関係者の代表として選んだわけでもない。単に自分たちは報道の代表であると僭称しているだけの団体である。ある意味アパルトへイトやナチスの白人、アーリア人至上主義、共産国の共産党の、自分たちが労働者、自民の代表であるというプロレタリアート独裁と同じメンタリティの主張だ。そのような一任意団体が記者会見を主催しているのは醜悪かつ異常である。

記者クラブ会員の新聞社やテレビ局では殆どの記者はジェネラリストと言えば聞こえはいいが、多くの分野を転々としているので専門知識がない。例外的に専門記者もいるが、経費削減のために減らされている。つまり記者クラブの記者は素人で、記者として訓練は受けていても、その分野の素人である。

その素人が記者会見やその他の取材機会から専門家を排除しているのだ。それだけではない。記者クラブは当局が困るシビアな質問をしない。そういう質問をすると後で役所から意趣返しで、その社だけ情報を知らされずに、いわゆる「特オチ」を強要されることがあるからだ。

記者クラブは当局と摩擦を起こさずに癒着して当局から独占的に情報を得ることで、利益を得ている組織である。記者クラブの仕事は報道でも権力の監視でもなく、当局となれ合いの関係を続けて、情報を独占することだ。やっていることは報道機関ではなくPR会社である。これが諸外国から日本の報道が発表ジャーナリズムと揶揄される所以である。

筆者の専門は軍事だが、防衛省でも全く同じだ。防衛省記者クラブの記者の多くは専門知識や取材経験が欠けている。長年軍事について勉強したわけでもなく、諸外国の軍隊や軍事産業を取材したこともない。せいぜいが在日米軍だけという記者が多い。日本の防衛問題が得てして神学論争になるのは記者クラブがまともな防衛報道と、防衛省の監視をしてこなかったからだ。

因みに筆者は外国専門紙の記者として、特例で防衛省の会見に参加しているが、かつて、防衛省の記者会見でNHK政治部の鈴木徹也記者から、大臣が困るようなシビアな質問はするな、と恫喝された。NHKに抗議をすると広報を出さずに、視聴者対応係が対応した。そこまでして当局のご機嫌をとるのが記者クラブの姿勢なのだ。(関連記事1関連記事2

すべての役所が記者クラブによって、国民の知る権利から守られている。つまり記者クラブは「国民の知る権利」の敵だということだ。我が国の報道の自由は民主国家としては落第レベルであり、諸外国からもそう認識されている。国民は政府や官庁が何をやっているのか、何が問題になっているのは知ることができず、時たま週刊誌やネットメディアなどによって知ることになる。今回のコロナウイルス問題をきっかけに記者クラブ制度のあり方を見直すべきだ。

トップ写真:新型コロナウイルス感染症対策本部「専門家会議」 出典:首相官邸Facebook


この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト

防衛ジャーナリスト、作家。1962年生。東海大学工学部卒。軍事関係の専門誌を中心に、総合誌や経済誌、新聞、テレビなどにも寄稿、出演、コメントを行う。08年まで英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane’s Defence Weekly) 日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関「Kanwa Information Center 」上級顧問。執筆記事はコチラ


・日本ペンクラブ会員

・東京防衛航空宇宙時評 発行人(Tokyo Defence & Aerospace Review)http://www.tokyo-dar.com/

・European Securty Defence 日本特派員


<著作>

●国防の死角(PHP)

●専守防衛 日本を支配する幻想(祥伝社新書)

●防衛破綻「ガラパゴス化」する自衛隊装備(中公新書ラクレ)

●ル・オタク フランスおたく物語(講談社文庫)

●自衛隊、そして日本の非常識(河出書房新社)

●弱者のための喧嘩術(幻冬舎、アウトロー文庫)

●こんな自衛隊に誰がした!―戦えない「軍隊」を徹底解剖(廣済堂)

●不思議の国の自衛隊―誰がための自衛隊なのか!?(KKベストセラーズ)

●Le OTAKU―フランスおたく(KKベストセラーズ)

など、多数。


<共著>

●軍事を知らずして平和を語るな・石破 茂(KKベストセラーズ)

●すぐわかる国防学 ・林 信吾(角川書店)

●アメリカの落日―「戦争と正義」の正体・日下 公人(廣済堂)

●ポスト団塊世代の日本再建計画・林 信吾(中央公論)

●世界の戦闘機・攻撃機カタログ・日本兵器研究会(三修社)

●現代戦車のテクノロジー ・日本兵器研究会 (三修社)

●間違いだらけの自衛隊兵器カタログ・日本兵器研究会(三修社)

●達人のロンドン案内 ・林 信吾、宮原 克美、友成 純一(徳間書店)

●真・大東亜戦争(全17巻)・林信吾(KKベストセラーズ)

●熱砂の旭日旗―パレスチナ挺身作戦(全2巻)・林信吾(経済界)

その他多数。


<監訳>

●ボーイングvsエアバス―旅客機メーカーの栄光と挫折・マシュー・リーン(三修社)

●SASセキュリティ・ハンドブック・アンドルー ケイン、ネイル ハンソン(原書房)

●太平洋大戦争―開戦16年前に書かれた驚異の架空戦記・H.C. バイウォーター(コスミックインターナショナル)


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