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.政治  投稿日:2020/3/24

「緊急経済対策、全ての国民が対象」木原誠二衆議院議員


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

Japan In-depth編集部(油井彩姫)

編集長が聞く!」

【まとめ】

・すべての国民、多くの事業者に行き渡る形での対策が必要。

・現金給付やるならボリューム(金額)とスピードのバランス大事。

・短期的には困っている人に手厚く保護をすることが大切。

 

新型コロナウイルス感染症の拡大により、経済活動の自粛が続く日本。急激な需要の消失で、あらゆるビジネスの持続可能性が脅かされている。政府はこれまで2度にわたって経済対策を打ち出しているが、近いうちに第三弾として緊急経済対策を発表する予定だ。その中身はどのようなものになるのか。

自民党の「経済成長戦略本部」(本部長:岸田文雄政調会長)の事務局長であり、また「新型コロナウイルス肺炎対策本部」(本部長:田村憲久政調会長代理)の本部長代理でもある、木原誠二衆議院議員に話を聞いた。

 

■ 緊急経済対策の規模

まず安倍編集長が、緊急経済対策の規模について聞いた。これに対して木原氏は、「先週、党大会に代わる両院議員総会で、総理の口から『強大な』という言葉が出た。総理の決意・覚悟のとおり思い切った、そしてかなりの規模の経済対策が必要であることは間違いない」と述べ、国の財政支出は思い切った規模になるとの考えを示した。既に、政府与党は、民間支出も含めた事業規模をリーマン・ショック時の15兆円を上回る30兆円超にする方向で調整中だ。

政府の緊急経済対策を出すスピードが遅いとの批判に対し、木原氏は、「アメリカもホワイトハウスが発言しているに留まっているし、イギリスでも予算や法律の成立・改正等までは聞いてない。逆に日本は、令和元年度補正予算を成立させ、予備費を活用した第一弾、第二弾の対策を既に講じている。臨機応変にやってきた。来年度の予算が今年度中に成立すれば、速やかに補正・経済対策に入れる。決して遅れているという捉え方はしていない」と述べ、スピード感がないとの批判は当たらないとの考えを示した。

 

■ 追加経済対策の内容

また追加景気対策の内容について、「今回の件に限らず、こういった際の対策は、一つですべてをまかなえるものではない」と述べ、「色々な対策を組み合わせて、できることはすべてやる。私自身は、少なくとも5つほどやるべきことがあると思う」と述べて、以下を挙げた。

 1 引き続き感染症の拡大を防止すること

 2 事業・雇用の継続

 3 時期が来れば、観光、飲食、旅館、宿泊

 4 テレワークや遠隔医療、遠隔教育を進めること

 5 消費税減免や現金・商品券等の給付

「大切なことは、今回の感染症により傷んでいるのは特定の職種でも特定の地域でもなく、全国民であるということ。全国民が協力して感染拡大の防止に取り組んでいる。すべての国民、多くの事業者に行き渡る形での対策が必要だ」と述べ、追加景気対策は全国民を対象にすべきとの考えを示した。

 

■ 消費税減税

消費税減税は、実行すれば大きな目玉になりうると考えられるが、これに対し木原氏は、「政治的に大きな意志表明、メッセージにはなる。議論としては排除する必要はない」と理解を示したうえで、「とはいえ、法改正やシステムを変える必要があり、翌日すぐに適応できるものではない。現実的に考える必要がある」と述べ、消費税率の引き下げには社会的コスト負担が大きいとの懸念を示した。

 

■ 現金給付

一部野党が主張している、給付付き税額控除については「考えていない」としたうえで「(現金給付は)貯蓄に回ってしまうという議論もあるが、手元に現金があるということはそれなりの安心感がある」と述べた。

また、「大切なことは、入りを増やし、出を減らすこと。このため、入ってくるお金を国から補填する。公共料金や税金の支払いを繰り延べるなどして、出ていくお金を止める。経済におけるある種の流動性を確保し、お金が入ってこないのに出ていくということが起こらないようにしなくてはならない」と述べた。

次に、現金や商品券給付の対策が打ち出された際、その対象に所得制限を設けるべきかどうか問うと、これを純粋な消費活性化策として捉えるか捉えないかが問題だ、とした上で、「仮に現金給付を行うことになった場合には、私は所得制限は設けなくていいと思う。これだけ多くの国民、企業が何らかの活動を自粛し、感染予防に協力している、という状況は初めてのケース。色々なことを協力してくれた皆さんに一定の恩返しをする、また(自粛などへの)協力によって傷んだ部分に報いる、ということをすべきだ。それは消費に必ず結びつかなくても、安心感を与えるという点では意味がある」と述べ、現金などを給付する場合、所得制限をつけるべきではない、との考えを示した。

一方で大切なことが二つあると指摘した。一つ目はボリューム(金額)とスピードのバランスとの認識を示し、「金額を大きくすれば所得制限が必要との声が強くなり、スピードが落ちる。スピードを重視するなら多少金額を抑えることも必要になる」と述べた。二つ目に、短期的には困っている人に手厚く保護をすることが大切と指摘し、「生活に困っている人から先ずは現金を給付していくという順番を大切する必要がある」と述べた。

また、消費に回していくためには商品券やポイント付与といった手法を取るのはいいとの考えも示した。

▲写真 ©Japan In-depth編集部

 

■ 海外に比べ日本の対策は緩い?

3連休の末日22日の日曜日は全国的に気温も高く、桜がほぼ満開になったこともあり、都立公園では花見自粛の看板が出ていたが、花見に訪れたファミリーが多かった。また格闘技のビッグイベントとして有名なK-1が、大野元祐埼玉県知事の自粛協力依頼にもかかわらず、さいたまスーパーアリーナで開催された。また、多くの演劇なども自粛を解いて開演を始めている。こうした状況をみると、日本の新型コロナウイルス対策は他国に比べ緩いのではないかとの見方があるがどう考えるか聞いた。

これに対し木原氏は、感染防止対策と景気対策はトレードオフの関係なので、バランスを取りながらやっていく必要があるとし、バランスのとり方に関しても、「米国や欧州のような爆発的な拡大、医療崩壊は、日本では幸いなことに起こっていない。これまでかなり(感染者数の)ピークを抑えつつ、医療資源を守りながら、かつ国民それぞれが行動の仕方を学びながらここまで来ている。すべての機能を一斉に止めるのではなく、少しずつ経済とのバランスを微妙に変えながらやっていくことが許される状況にある。もちろん気を緩めることは絶対にあってはいけない。埼玉での大規模な格闘技イベントの開催は残念」と述べ、対策が緩いとの批判は当たらないとの考えを示した。

 

■ 検査数が少ないとの批判

また、PCR検査を増やすかどうかの議論において、医療界も二分されているように感じられるが、木原氏はどう見ているのか聞いた。

「一番考えるべきことは、重症化させないということ。二番目は、医療資源を枯渇させないということ。この二つを視野に入れながらどういうふうにPCR検査を拡大させていくか。これもバランスの問題」だと述べた。

「少なくとも明確に症状が出ていない人に対してまで、検査さえすればいいということが役立つとはいえない。そもそもPCR検査そのものが100%でもない。効果がある形で着実に検査を増やしていくことが大切だ」と述べ、PCR検査を増やす必要性を確認しつつ、むやみに拡大することには慎重な考えを示した。

 

■ フリーランス救済

アーティストをはじめとしたフリーランスの仕事が激減しているが、どのように対策を練っていくのか。「思想は同じ。国民全体に、という話では(フリーランスも)もちろん(対象に)入ってくる」と述べた。「フリーランスの中にも、個人事業主のような人もいれば、実質的に雇用関係に近い人もおり、様々な形態がある。どの形態であっても、セーフティネットがしっかり張られるよう、特例的に取り組むことが必要」と述べ、自粛要請などで仕事がなくなって窮状にあるフリーランスの救済にも取り組む考えを示した。

 

■ 内定切り

さらに、一部の企業による内定切りが問題になっているが、それに対して木原氏は、「雇用調整助成金の条件緩和、万が一そういったことが起こった場合に小口貸し付けの拡大等を使いながら、生活をしっかり支えていく」と述べた。

最後に木原氏は、「これまでに見ない点は、じわじわとダメージがくるのではなく、突然来たこと。想定外のところに影響が出ている。ありとあらゆる業種、すべての地域」と繰り返した。「広範囲にわたってきめ細かく、多少重複があってもできることはすべてやっていく」と述べ、「全体に支援が届いた時、国民全体が前を向けて、初めて世の中は動いていくと思う」と述べた。

(このインタビューは2020年3月23日(月)に行われたものです)

トップ写真:©Japan In-depth編集部


この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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