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.政治  投稿日:2020/4/15

現代の主力戦車の進化は限界 前編


清谷信一(軍事ジャーナリスト)

 

【まとめ】

3.5世代MBTは重量で運用限界に。小口径化、仰角拡大は要検討。

・生存性重視のロシア製アルマータ。陸自10式戦車にはない発想。

・非直接照準・誘導砲弾による曲射で小型化可能。RWSは必須。

 

現在の主要国の3.5世代のMBT Main Battle Tank:主力戦車)例えば、米国のM1A2、英国のチャレンジャー2、ドイツのレオパルト2、イスラエルのメルカバIVなどは重量が70トン前後となり、運用上の限界に近づいている。

現在の延長線で高い防御力、攻撃力、機動力を求めるとなると重量は更に増大して運用、回収、整備などの面で実用的とは言えなくなる。かつて第二次世界大戦において最盛期を迎えた戦艦は戦後のミサイル技術の発達もあり、ミサイルを搭載した駆逐艦やフリゲイト等に主役を譲って消滅した。同様のパラダイムシフトはMBTにも起こる可能性は高い。恐らく次世代の「戦車」は現在のMBTとは全く異なるものなるだろう。今回は既存概念に囚われず将来の戦車のあり方を考えてみる。

初めて登場した戦車は第一次大戦における英軍のMk1で、履帯を有した菱形の車体で砲塔はなく、現在の戦車とは似ても似つかない代物だった。開発目的も味方歩兵が敵の塹壕を突破するための支援だった。履帯の付いた車体に旋回式の有人砲塔を搭載した現代の戦車の原形はルノーFTだ。

▲写真 ソンムの戦いに展開したマークⅠ(Mk1)(1916年9月25日) 出典: Public domain

当時戦車は歩兵直協用の兵器として進化したが、第二次大戦では戦車の敵は戦車となり、戦後も同様に戦車を撃破できる主砲を搭載した砲塔を有した戦車が「火力」「防御力」「機動力」を兼ね備えたMBTとして定着した。

▲写真 ルノーFTー17軽戦車(ブリュッセル王立軍事歴史博物館 2005年1月29日)

出典:Paul Hermans

だが90年代以降、主として先進国では機甲部隊同士の戦車戦よりも非対称戦闘での歩兵直協任務が主となった。また歩兵の携行火器や地雷原以外の地雷やIEDなどの敷設に対抗して全周、上下360度に高い防御力が付加されるようになった。これはある戦車の任務の先祖返りともいえる。

我が国の10式戦車は44トンと、3.5世代戦車の中では圧倒的に軽量だ。だがそれは、防御力を犠牲にしているからで、圧倒的な新基軸の戦車ではない。因みに10式の売り物である砲塔側面のモジュラー装甲は調達コストを下げるために、ブリキの外版が装着されているだけで、タンデム弾頭の対戦車弾や中口径機関砲には無力だ。

▲写真 陸上自衛隊10式戦車(2010年8月18日撮影 朝霞駐屯地)

出典: flickr; hoge asdf

将来の戦車を占う材料となるのはロシアが新に開発したアルマータだろう。アルマータは調達及び運用コストダウン、兵站軽減のために自走榴弾砲や重歩兵戦闘車など複数の装甲車と車体が共用化されている。

▲写真 共通戦闘プラットフォーム「アルマータ」を採用した

ロシアのT-14戦車

出典:Vitaly V. Kuzmin

戦闘重量は49トン、主砲は従来のロシア戦車と同じ口径の125ミリだが、新型でより強力な砲を採用している。口径を大きくすると砲も砲弾も大型化し、車体重量が増えて搭載弾薬数が減るためだろう。また、これまでのロシアの戦車同様に主砲からミサイルを発射できる。

砲塔は無人砲塔を採用し、乗員は車体内部の装甲カプセルに収容されている。無人砲塔は有人砲塔に比べて容積が最小化できるので重量が軽減できる。また最も被弾率の高い、砲塔のサイズを極小化でき、しかも被弾しても乗員が砲塔内に居ないので被弾率も人的被害も極小化できる。砲塔が破壊されても車体内部の乗員は被弾を免れるからだ。砲塔が軽量化されれば当然車体も小型化が可能となる。

歩兵戦闘車の例だが、ドイツのプーマは下車歩兵が6名搭乗できるが、無人砲塔を採用しなければ下車歩兵は4名しか搭乗できなかった。ただ無人砲塔では車長が戦車の砲塔上部から顔をだして肉眼や耳で直接周囲を確認できないというデメリットもある。

▲写真 イスラエル軍のメルカバMk4

出典:Michael Shvadron, Israel Defense Forces

アルマータはイスラエルのメルカバ同様にハードキル及びソフトキルの二つのアクティブ方式の防御システムを採用している。エンジンは1,500馬力程度であるとされている。ざっくり言えば、アルマータは生存性を最重要視して軽量化を追求した戦車であり、そのために無人砲塔やアクティブ防御システムも採用したと言えるだろう。基本的には既存の技術の組み合わせだが、西側の戦車と設計思想が大きく異なっているといえよう。10式戦車にはこのような発想の転換はない。

戦車の任務が今後も対戦車戦闘、及び歩兵に対する火力支援の両方であると仮定して論を進めよう。主砲の口径と砲弾がこれ以上大きくなると砲システム、弾薬ともに大型化するので戦車自体の大型化、携行弾薬数が減少する。

戦車は対戦車戦用の徹甲弾だけではなく、対歩兵や対戦車兵器に対抗するために、榴弾や多目的弾も搭載しなければならない。また市街戦などで歩兵の火力支援を行うならば、多目的弾を多数携行する必要がある。

その点から見れば携行弾薬数の減少は戦術的運用の柔軟性を減じて、継戦能力の低下につながる。その意味においては既存の戦車砲と同じ125ミリ砲を採用したアルマータの選択は正しいと言えるだろう。2018年にパリで行われた軍事見本市、ユーロサトリでラインメタル社は試作の130ミリ滑腔砲を展示したが、筆者はこのような大口径砲の採用の可能性は低いと考える。

写真 ラインメタル社の120mm130mmの比較。

(画像提供:ラインメタル社)

写真 ラインメタル社の130mm砲、L51の試作品(著者提供)

現在の120ミリクラスの戦車砲で撃ち合った場合、着弾の衝撃は概ね500~800Gにも達する。被弾角度にもよるが、一定距離以内で被弾すれば装甲は無事でも内部の機器が破損したり、乗員が死亡する。

かつて陸自ではM4シャーマンに豚を載せて実験射撃したことがあるが、その際豚は衝撃で死んだ。このことを筆者は本連載の10式戦車に関する記事で述べたことがある。その際一部の戦車マニアが10式戦車に対する「侮辱」と受け取って、そのような事実はないということを証明するためにネット上で計算大会を行なったが、失笑するしかない。どこの国の戦車でもこれは起こりうる話である。常識的に考えれば10式に起こることは同じクラスの戦車にも起こるという想像力が働かなかったらしい。むしろそれを前提に戦車の設計はなされている。このような主張をすること自体、自分が無知であると告白しているようなものである。

自動車事故や産業事故において、50G程度でも深刻な問題が起こることを知っていれば、こんな胡乱な話はできないはずだ。漫画やアニメでは敵弾に耐えながら最後は敵戦車を撃破する、というお話は盛り上がるのだろうが、現実と漫画やアニメなどのフィクションは異なるのだ。このような現実とフィクションを区別できない人間が軍事を語るのは極めて危険である。

だからこそどの国でも戦車の搭載センサーやネットワーク化されたセンサーを利用して、より早く敵を探知し、より遠距離から先に、正確に攻撃できるように努力をしている。つまり先手を打たないと敵に勝てない。まさに攻撃は最大の防御である。

戦車のセンサーが如何に進化しても、地形や、地球が丸いこともあって直接探知できるのは10キロ程度だ。オートー・メララ社は装甲車搭載用のUAV、HORUSを開発している。だが直接照準によるキャノン砲の徹甲弾による射撃の場合、当然ながら距離が離れればそれだけ威力が減衰するので、せっかく敵に先んじても撃破できない可能性もある。

▲写真 オートー・メララ社の装甲車搭載用のUAV、HORUS

(著者提供)

一つの対策は2018年のユーロサトリでベルギーのCMIインターナショナル社が提案したタレス社のUAV、スカイレンジャーと高い仰角を付加した105ミリ砲塔、コッカリル3105HPを組み合わせたシステムだ。

▲写真 スカイレンジャーと3105HP砲塔(著者提供)

スカイレンジャーの運用距離は15~30キロで、3105HPは主砲の仰角を大きくかけて、最大10キロの距離で探知した目標を非直接照準による榴弾でトップアタックできる。これは戦車砲を榴弾砲のように運用するもので、現時点では移動中の敵の戦車をどれだけ正確に補足できるのかは不明だ。

ただ敵戦車を探知し、その未来位置を予測して攻撃できるのであれば、105ミリの榴弾でも装甲の薄い戦車の上部は容易に貫通できる。以前ジェネラルダイナミクスと南アのデネルは軽量105ミリ榴弾砲、レオを搭載した砲塔システムを米陸軍のFCSプログラムに提案していた。将来はこのような戦車と自走榴弾砲を兼ねるという選択も出てくるだろう。この場合、非直接照準での交戦距離は直接照準に比べて数倍から10倍以上に伸びる。

非直接照準の曲射によってトップアタックで敵戦車を撃破するのであれば、より口径の小さな76ミリや90ミリ砲、あるいは120ミリ程度の自走榴弾砲でも可能である。既に現在でも人民解放軍も含めて迫撃砲用の精密誘導弾は多くの国で実用化されている。だが自衛隊では導入されていない。

素早い照準が可能な砲塔方式の自走迫撃砲であれば、UAVや歩兵部隊のレーザー・デジグネーターによって砲弾を終末誘導すれば、現在の戦車よりも遙か先の敵戦車を撃破できる。

現在誘導はレーザー・ガイダンスによるセミアクティブ方式が主流だが、弾頭に画像や赤外線誘導のシーカーを搭載して「撃ちっぱなし」型の誘導方式を導入すれば更に精度や自由度は高くなるだろう。自走迫撃砲が戦車砲を兼ねる、という将来も可能性としてはあるだろう。あるいは戦車と自走榴弾砲を組み合わせて運用する方法もあるだろう。

先に述べたように90ミリや76ミリ砲も同様に曲射、特に誘導砲弾による曲射であれば十分に現在の戦車を撃破できる。これに対抗するには砲塔や車体バイタル部分の上面の装甲を砲塔前面レベルと同等とは言わないがかなり強化する、あるいは積極防御システムを導入するしかないだろう。

またこれらの口径の砲だと弾薬が小さいので120ミリ級の砲に比べて携行弾薬数が飛躍的に増えるというメリットがある。搭載弾数が多いのは市街戦での歩兵の火力支援には有利だ。弾数が同じならば車内容積を大幅に縮小できるので戦車の小型化が可能となる。また120ミリあるいは105ミリ砲弾などよりも副次被害が少ないという利点もある。現在のように戦車の主たる任務が歩兵の火力支援であれば、主砲の小口径化と仰角の拡大は検討すべきだ。要は何を戦車の主たる任務と考えるかということだ。

オートー・メララでは76ミリ砲を搭載した多目的砲塔、ドラコを開発している。ドラコは直接・間接照準により射撃が可能で、対空射撃もこなし、UAVやヘリコプターなどの迎撃に大きな威力を発揮する。のみならずC-RAM (counter-rocket artillery mortar)機能を有しており、迫撃砲やロケット弾の迎撃にも使用できる。

▲写真 チェンタウロ2の車体に搭載されたドラコ砲塔システム(著者提供)

しかも同社では76ミリ砲用の長射程誘導弾ボルケーノ76も開発しており、射程距離は155ミリ榴弾砲のベース・ブリード弾並の40キロである。

76ミリ砲の非直接照準で敵の戦車を撃破するのも全く不可能ではない。近年の76ミリのAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)は90ミリ砲のAPFSDS並の貫通力を持っている。

敵戦車を撃破するには何も一発で装甲を貫通する必要はない。先述のように初弾で撃破できなくても衝撃を与えれば、センサー類や乗員にダメージを与えて戦闘力を奪うことはできる。

ドラコの76ミリ砲の発射速度は海軍砲を転用していることもあり、毎分80~100発と極めて高い。高い発射速度で複数の砲弾が連続して命中すれば、MBTに対しても深刻なダメージを与えることは可能だ。遠距離では曲射、あるいはミサイルで攻撃し、接近すれば高い発射速度で敵戦車を撃破するという運用も検討されるべきだろう。

ミサイルはMBTの主兵装にはなりにくい。概ねサイズが大きいので、携行弾薬数が少ないという欠点がある。また調達単価も高い。だが、ロシア、中国、イスラエルなどは戦車砲から発射できるミサイルを開発、装備している。これらのミサイルは主砲の射程外からアウトレンジで敵戦車を攻撃する手段として主砲の補完的な役割を演じることはできる。同様に76ミリや90ミリ砲と対戦車ミサイルを組み合わせるという選択はあるだろう。

現在各国で小口径の誘導ロケットやミサイルが開発されている。これらは威力が比較的低いが、射程が8キロ程度ある。戦車の正面装甲は、貫通はできないにしても、側面装甲の貫通や搭載センサー類、エンジンなどを無力化することは可能だ。これらの軽量なミサイルを例えば4発入りのランチャー2個ないし、3個を砲塔に装備して、主砲の射程外の敵戦車、歩兵、UAVなどを攻撃するのは有用だろう。

無論、10式やアルマータのように既存の規格の主砲の砲身をより高い発射圧に耐えられるようにしたり、新たな砲弾の開発は行われるだろう。だがそれには一定の限界があることも事実であり、将来の戦車では主兵装に関してはパラダイムの転換が求められるだろう。現在の120ミリ、あるいは125ミリ以上の口径の戦車砲の導入は先述のように現実的ではない。

戦車の敵は戦車だけではない。センサーや携行型対戦車火器や精密誘導砲弾の発達、それらのネットワークによって敵の歩兵や砲兵も今まで以上に剣呑な存在になっており、将来もその傾向は続くだろう。戦車のUAV装備やネットワーク化、そして主砲の曲射による精密射撃は、これらの脅威を排除する手段になりうるだろう。

また特に近年では自爆型UAV(無人機)や迫撃砲弾などを搭載したUAVが実用化されており、これらもMBTの深刻な脅威になるだろう。MBTは状況把握と、敵の歩兵やUAVなどの排除のために機銃やグレネードランチャーを装備したRWS(リモート・ウエポン・ステーション)は必須装備となりつつある。UAVの迎撃のためにはより大きな仰角が必要となる。

 

(後編に続く。全2回)

▲トップ写真 米軍のM1A2 SEPV2 エイブラムス

出典:flickr; 7th Army Training Command’s Photostream

 


この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト

防衛ジャーナリスト、作家。1962年生。東海大学工学部卒。軍事関係の専門誌を中心に、総合誌や経済誌、新聞、テレビなどにも寄稿、出演、コメントを行う。08年まで英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane’s Defence Weekly) 日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関「Kanwa Information Center 」上級顧問。執筆記事はコチラ


・日本ペンクラブ会員

・東京防衛航空宇宙時評 発行人(Tokyo Defence & Aerospace Review)http://www.tokyo-dar.com/

・European Securty Defence 日本特派員


<著作>

●国防の死角(PHP)

●専守防衛 日本を支配する幻想(祥伝社新書)

●防衛破綻「ガラパゴス化」する自衛隊装備(中公新書ラクレ)

●ル・オタク フランスおたく物語(講談社文庫)

●自衛隊、そして日本の非常識(河出書房新社)

●弱者のための喧嘩術(幻冬舎、アウトロー文庫)

●こんな自衛隊に誰がした!―戦えない「軍隊」を徹底解剖(廣済堂)

●不思議の国の自衛隊―誰がための自衛隊なのか!?(KKベストセラーズ)

●Le OTAKU―フランスおたく(KKベストセラーズ)

など、多数。


<共著>

●軍事を知らずして平和を語るな・石破 茂(KKベストセラーズ)

●すぐわかる国防学 ・林 信吾(角川書店)

●アメリカの落日―「戦争と正義」の正体・日下 公人(廣済堂)

●ポスト団塊世代の日本再建計画・林 信吾(中央公論)

●世界の戦闘機・攻撃機カタログ・日本兵器研究会(三修社)

●現代戦車のテクノロジー ・日本兵器研究会 (三修社)

●間違いだらけの自衛隊兵器カタログ・日本兵器研究会(三修社)

●達人のロンドン案内 ・林 信吾、宮原 克美、友成 純一(徳間書店)

●真・大東亜戦争(全17巻)・林信吾(KKベストセラーズ)

●熱砂の旭日旗―パレスチナ挺身作戦(全2巻)・林信吾(経済界)

その他多数。


<監訳>

●ボーイングvsエアバス―旅客機メーカーの栄光と挫折・マシュー・リーン(三修社)

●SASセキュリティ・ハンドブック・アンドルー ケイン、ネイル ハンソン(原書房)

●太平洋大戦争―開戦16年前に書かれた驚異の架空戦記・H.C. バイウォーター(コスミックインターナショナル)


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清谷信一

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