新型コロナ検査、日米の格差
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
- 米ではPCR検査と呼ばれる15分ほどで結果が判明する検査が一般的。
- 症状が出ていない感染者を発見して隔離することが感染の拡大を止める上で不可欠。
- 少なすぎる日本の検査の実施数。
「受診者の方々へ、当診療所では新型コロナウイルスの検査ができるようになりました。しかも最新の敏速なテストであり、来院して、テストを受ければ、15分ほどで結果が判明します」
こんな通知が私のところに届いた。メールでの送信で、発信者はワシントン市内の私の住む場所から車で15分ほどの診療所だった。
この医療クリニックは私がワシントンから国際報道の取材のためにアフガニスタンやイラクという諸国に出かける際に念のための伝染病などの予防注射を受ける目的で数回、訪れたことがあった。
そんな薄いつながりでもコロナウイルスの検査への案内が届けられるのだ。しかも検査を受ける側からではなく、検査をする側が勧誘のように、どうぞ、いらっしゃい、というような通知を送ってくるのである。
アメリカではコロナウイルス検査がそれほど一般的に、容易になったのだ。同じウイルスの感染に苦しめられる日本とはまるで異なる状況なのだ。
日本ではコロナウイルス検査がまったく少ないのである。日本でのそんな状況はきわめて不吉な予兆にもみえるのだ。
アメリカでのコロナ大感染による国家の危機はすでに全世界に報じられている。4月15日現在で感染者が61万以上と、世界最多、死者が2万6千である。日本の比ではない。
トランプ政権は当初、アメリカ国内で感染テストの少ないことを批判されていた。防疫対策ではまず感染者の実態をつかむことが前提だったからだ。そのため3月はじめごろから感染防止の最大の柱としてコロナウイルスの感染の有無を測るテストの拡大に力を投入し始めた。
そしてトランプ大統領は3月30日にはそれまでの全米での検査回数が合計100万を超えたと発表した。さらに4月上旬にはその数字が300万をも突破したという。
トランプ大統領自身も連日のコロナウイルス状況報告の記者会見で問われて、すでに2回の検査をすませ、いずれも陰性だったことを明らかにした。
2回目のテストはその日の夕方の会見の直前にすませ、「15分ほどで結果がすぐ判明した」と語っていた。このテストはPCR(核酸増幅法)検査と呼ばれる方法である。
写真)CDCの新型コロナウイルスPCR(核酸増幅法)検査キット
出典)Centers for disease control and prevention (CDC)
ではなぜ検査がコロナウイルス感染の拡大を防ぐには有効なのか。
大統領直轄のホワイトハウスのコロナウイルス対策本部の調整官デボラ・バークス医師は3月26日のホワイトハウスでの記者会見で説明した。
「このウイルスはすぐに症状が出ないため、感染者が活発に動いて、多くの人と接触して感染させてしまうケースが多いのです。とくに若い世代が感染しても症状がほとんど出ず、重い症状の出る高齢層に移してしまい、死亡などの被害が増えるのです。だから症状がまだ出ていない感染者を発見して隔離することが感染の拡大を止めるうえで効果的かつ不可欠なのです」
だからアメリカでは政府がPCR検査の拡大に全力をあげ、議会もこの検査はだれでも無料で受けられるという法律まで成立させた。検査の形式もドライブスルー方式といって、車の運転手席に乗って駐車場のような施設に入り、そのまま運転席で検査を受けるシステムも全米各地に設置された。ちなみに感染が集中的に起きたニューヨーク市ではこの検査が当初、きわめて遅れていたという。
こういうアメリカの状況とくらべて、日本では一般国民がコロナウイルス検査を受けようとして、医療施設にそれを求めても、断られたというケースがあいついでいる。そもそも日本では4月中旬の時点で国内での検査の実施の合計は6万3千ほどだと伝えられた。アメリカの300万以上と比較すると、あまりに少ない数である。韓国の25万とか30万という数字にくらべても、異様なほど少数なのだ。
まして日本での外出や他者との接触の自粛がまったく緩やかで、危機感がみられないという状況は潜在感染者の多数の存在を思わせる。ワシントンでの検査の広がりを実体験して、東京での状態が改めて心配となったわけである。
トップ写真)コロナウイルスCOVID-19 イメージ
出典)Centers for disease control and prevention (CDC)
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。