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.国際  投稿日:2020/5/28

トランプ、対中強硬姿勢の真意


 

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

 

【まとめ】

・アメリカの対中政策が歴史的な強硬姿勢に。米中関係は険悪に。

・アメリカの死者数はベトナム戦争、朝鮮戦争の戦死者数上回る。

・大統領の真意は「貿易問題」より「コロナでの中国の責任追及」

 

アメリカの中国に対する政策が歴史的と呼べるほど強硬になった。中国もほぼ同様にアメリカへの反撃の言動を展開する。米中関係がかつてなく険悪となったことは疑いようがない。

その最大の理由はこれまた疑いようもなく、中国発の新型コロナウイルスがアメリカに大感染をもたらしたことだろう。世界最強の超大国アメリカが国も国民もこの目にみえない邪悪なウイルスに襲われ、傷つき、機能を麻痺させられた。とくにその死者数はベトナム戦争と朝鮮戦争のアメリカ人の戦死者を合計した数を上回ってしまった。アメリカ側のウイルス感染防止対策にも非や欠陥があったとしても、そもそものウイルスの発生源は中国だった。

▲写真 新型コロナウイルス感染症で多くのアメリカ人が命を落とした。

出典:CDC facebook

 

トランプ政権はこのウイルスは中国の習近平政権が隠したり、虚偽を述べたりしなければ、いまのパンデミックとしての世界大流行は防ぐことができたと断言する。だからこそ習近平政権への怒りや敵意の言葉を放つわけだ。

今回はこのトランプ政権の中国に対する真の心情のようなものを探ってみよう。中国に対してどこまで怒りや憎しみを本気で感じているのか。人間集団の本気や本音や本意というのは、表面だけの動きからでは、簡単にはわからない。だがその真実を探るための手がかりや指針は存在する。現在の場合、トランプ大統領の言葉がそれだろう。

▲写真 国防と軍の強化に向けた2020年の目標と使命を達成すると強調する中国の習近平国家主席。(2020年5月26日 北京)

出典:中国政府ホームページ

 

ということで、ごく最近のトランプ大統領自身の中国に対する言葉、とくにコロナウイルスに関連しての中国に関する言明を集めてみた。いずれもこの5月に入ってからの言葉である。その多くはツイッターからだが、記者からの質問に答えていう場合もある。それらの言葉は同じテーマについて同じことを述べている場合も当然あるが、それらを積み重ねていくと、全体の大きな構図が浮かんでくる。

 

さて以下が中国とコロナウイルスに関する最近のトランプ語録である。

「このパンデミックの広がりでの多数の死に私は中国への激しい怒りを覚える。中国政府はその拡散を阻止することができたのだ。この拡散の状態は絶対に受けいれられない」

「私は習近平主席にこのコロナウイルス拡散の責任とウイルスの起源の解明を求めている。アメリカ政府としてもウイルス発生の真実を明らかにするための徹底的な調査をすでに開始した。まもなく結論が出るだろう」

「中国はこのウイルス感染を隠蔽した。火を消すようなつもりだったのだろう。だがその工作はまちがいだった。中国政府にはアメリカ側の被害への賠償金を支払わせたい。その方法についてはいま検討している」

「コロナウイルス感染はそもそもアメリカ国内では決して起きるべきではなかった。発生源である中国の内部で阻止できたはずなのだ。だが阻止されなかった。そのことに私は強い怒りを覚える。ウイルスとの闘いはアメリカにとって戦争であり、相手はみえない敵なのだ

「全世界、そしてアメリカが中国からの疫病に襲われ、測りしれない経済面での打撃を受け、罪のない無数の人間の命を奪われた。この被害は私が中国との間で貿易の合意をいくら成立させても、たとえ百の合意を作っても埋め合わせとはならない」

「ウイルス問題での中国への対応ではいろいろな道があるが、対中関係をすべて断交にすることもできる。その場合、アメリカは(対中貿易赤字解消などで)5000億ドルの節約となる。ウイルスの起源についてはアメリカが調査団を送ると伝えたら、中国は断った。中国の感染拡大は愚かさか、無能か、あるいは故意か、自分たちはわかっているはずだ」

「私は中国に対してはこれまで貿易面での不公正慣行を減らすための交渉を優先させて、その第一段階での合意にいたった。だがもはや貿易優先の順位を変えて、このウイルス問題での追及を最重要として進めたい

 

以上のように、いずれもウイルス問題での非常に激しい中国の責任追及だった。いまのアメリカの惨状は中国の習近平政権のせいだとする姿勢を明確にしたのである。

この一連のトランプ発言でとくに注視されたのは、中国に対して数年間の最大懸案の貿易問題よりもコロナウイルス問題を優先させるという意向の表明だった。ウイルス問題での中国の非や責任の追及、さらには賠償の請求が貿易交渉よりも当面、切迫した重要課題となってきた、というのだ。

だからこそ、トランプ政権は中国に対しての対決姿勢をますまず厳しくするのである。

 

▲トップ写真 メモリアルデーの式典に臨むトランプ大統領夫妻

(2020年5月25日 米・ボルチモア)

出典: White House

 


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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