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.国際  投稿日:2020/8/4

徴用工問題で一線超える韓国


20200804 宮家邦彦の外交・安保カレンダー【速報版】 2020#32  2020年8月3-9日

【まとめ】

・徴用工問題、「韓国内資産の差し押さえ命令」効力が8/4から発生。

・原告側、日本製鉄等の株式売却し現金化を始める可能性が高い。

・日本政府も何らかの報復をしなければ国内が持たない。

 

 

先週筆者が注目したのは自民党の国防部会・安全保障調査会が7月31日に開いた合同会議だ。ここで「新たなミサイル防衛に関する政府への提言案」が了承され、「相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力の保有を含めて、抑止力を向上させるための新たな取り組みが必要」とされた。が、これだけでは何のことか分からない。

一部メディアはこの「ミサイル阻止力」なるものが問題だと指摘する。過去数十年間「敵基地攻撃(反撃)能力」と説明してきたものを単に言い換えただけであり、「敵基地攻撃能力の保有について政府に検討を要請」するなど、「専守防衛』という日本の安全保障政策の大きな転換につながりかねない内容」と批判しているのだ。

それにしても、この種の形而上学的軍事論、というか、実に不毛な安保論議を、日本は一体いつまで続けるつもりなのか。この提言案をじっくり読めば、「専守防衛」を「大きく転換する」どころか、これまで余りに観念的だった「専守防衛」の内容を、より具体的、かつ分かり易く説明しようと務めていることがよく分かるはずだ。

キーワードは「日米同盟全体の抑止力・対処力」の向上である。日本の防衛は自衛隊と日米安保から成り、日本の防衛政策は抑止力と対処力という2つの要素から成ること、特に、弾道ミサイル阻止能力を含む抑止力の強化が重要だと指摘している。これこそ「専守防衛」の本質であり、その意味で今回の提言は極めて重要だと思う。

写真)イージスアショア(イメージ)

出典)U.S. Army

一方、今週最も注目するのはいわゆる「徴用」問題だ。韓国大法院は日本製鉄に対し、「徴用」被害者1人当たり1億ウォン(約900万円)の賠償を既に命じている。その「韓国内資産の差し押さえ命令」を伝える「公示送達」の効力が8月4日から発生するため、原告側は日本製鉄などの株式を売却し現金化を始める可能性が高いのだ。

勿論、被告側には即時抗告が可能だし、実際の資産売却・現金化にも資産鑑定などの手続きも必要らしい。一部にはこの手続きに数カ月はかかると見る向きもあるという。しかし、万一、現金化が始まれば、それはもうレッドラインを超える。日本政府も何らかの報復をしなければ国内が持たない。だが、それは韓国側も同様だろう。

将来の歴史家は、文在寅大統領を日韓関係を回復できないところまで悪化させた張本人と書くかもしれない。しかし、それは韓国以外の国で出版される歴史書においての話。韓国という小世界の中で、文在寅氏は日本と戦った民族の英雄となるのだろうか。いずれにせよ、今後数カ月以内にも文大統領の歴史的評価は固まる。

写真)文大統領

出典)ロシア大統領府

〇アジア

香港警察が香港出身の在外民主活動家ら6人を国家安全維持法違反容疑で指名手配したそうだ。中国はこの種の国外適用を厭わないだろう。香港の受難は続く。

 

〇欧州・ロシア

ドイツ外相が「香港との犯罪人引き渡し条約の停止」をツイートする一方、外務副大臣は5Gで欧州系設備を採用すべきだと述べたそうだ。本当か?ドイツよ、お前もか!

 

〇中東

中東に熱波が来ている。50度を記録したバグダッドでは電力不足や生活必需品欠如に対する抗議デモが起きたそうだ。あのクソ暑さは経験しなければ絶対分からない。

 

〇南北アメリカ

今週中にもバイデン候補が副大統領候補を決めるという。非白人の女性ということだが、その選択は今年の大統領選を左右しかねないほど重要なものとなるだろう。

 

〇インド亜大陸

インドではモディ首相腹心の内務大臣が新型コロナに感染したそうだが、それ以外には特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真)ICBM

出典)U.S. Strategic Command


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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