大統領選はトランプ信任投票
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー【速報版】 2020#35
2020年8月24-30日
【まとめ】
・米大統領選、民主党全国大会に続き、共和党の全国大会も開幕。
・米国民にとって選挙は一種の「熱気と狂気の伝染病」。
・共和党大会、演説者に元大統領や元大統領候補が一人もいない。
米国内政が動き始めた。先週の民主党全国大会に続き、今週は共和党の全国大会がある。民主党の方は新型コロナ対策もあり、殆ど全てが仮想空間で行われた。例年であれば、巨大な会場を4日間借り切り、全国から集まった無数の代議員や党関係者が、延々とお祭り騒ぎを繰り広げるのだが、当然今年はそれが一切なかった。
同じく例年なら、日本からも多くのジャーナリストや米国政治の専門家が、文字通り、あの手この手を使って党大会会場に潜り込み、現場からの中継や同時進行レポートを日本のメディアに垂れ流すところだが、今年はそれもなかった。会場の熱気や盛り上がり自体がそもそも感じにくいので、関係者は皆大いに困っていることだろう。
状況はアメリカ人も同じ。選挙は一種の「熱気と狂気の伝染病」だ。その意味で今週の共和党大会が如何に運営・演出されるかに関心がある。トランプ陣営の戦いぶりを左右する重要な要素だからだ。トランプ氏は民主党と同じような「仮想空間」には満足しない。彼なら、コロナ対策などお構いなく、出来るだけ多くの観衆を入れたいだろう。
▲写真 2016年大統領選 出典:Flickr; Gage Skidmore
この全国大会、日本時間では火曜日の朝から始まる。通常なら指名を受諾する大統領候補が最終日に登場しシャンシャンで終わるのだが、今回の共和党党大会は趣が異なる。そもそも演説する政治家の中に元大統領や元大統領候補が一人もいない。その代わりなのか、今回トランプ氏は四日間、毎日登場して喋るのだという。
他人事ながら、大丈夫なのか。如何に面白い芸人でも観客の「飽き」には勝てない。トランプ氏、確かに芸人としては面白いが、同じギャグを4日続けて見せられても、観客は食傷するだけだろう。トランプ氏の岩盤支持層は喜ぶだろうが、今トランプ氏がすべきは岩盤支持層の確認ではなく、新たな支持層の獲得・拡大ではないのか。
このままでは「トランプ政権」4年間の信任投票になってしまう。これがトランプ陣営の悪夢だ。それを避けるには、これまでトランプ経済政策で裨益した人々にその成果を再確認してもらう必要がある。それが成功するかどうかも、共和党大会の運営・演出次第。トランプ氏は如何に民主党と差別化するのか、決して容易ではなかろう。
〇 アジア
一年前、土壇場で「破棄通告が一時停止」された日韓GSOMIAは、「通告」がないので事実上延長されるのだという。「勝手にすれば」とは言わないが、放っておこう。
〇 欧州・ロシア
ベラルーシで大統領退陣要求の大規模デモが続いている。国営メディアは、ヘリコプターに乗り込み防弾チョッキにライフルを持った大統領の姿を放映したという。これではダメ、大統領は何も分かっていないようだ。
〇 中東
イラン原子力庁は7月に中部ナタンズの核関連施設で起きた火災が「破壊工作」だったと発表した。イランは報復すると見られるが、それよりも、「破壊工作」をやった集団はプロ中のプロで凄いな、と思う。不謹慎な発言かもしれないが・・・。
〇 南北アメリカ
トランプ氏側近のKコンウェー女史が辞任表明したが、直前に15歳の娘が「親権から解放されたい」とツイートしたそうだ。哀れ、無理を重ねると家庭崩壊するということか。
▲写真 Kコンウェー女史 出典:Flickr; Gage Skidmore
〇 インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:トランプ大統領 出典:Flickr; The White House
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。