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.社会  投稿日:2020/8/30

「民族理解に正解はない」 バルカン室内管弦楽団音楽監督柳澤寿男氏


細川珠生(政治ジャーナリスト)

「細川珠生モーニングトーク」2020年8月15日放送

Japan In-depth編集部(油井彩姫)

【まとめ】 

・バルカン半島の民族繁栄を願い、バルカン室内管弦楽団を編成。

・コソボ紛争で対立したアルバニア人とセルビア人などで構成される。

・自分の国が一番だと思いすぎないことが民族理解に繋がる。

 

今週は、指揮者でバルカン室内管弦楽団音楽監督の柳澤寿男氏を招いた。終戦記念日ということで、政治ジャーナリストの細川珠生が、戦争と平和について話を聞いた。

柳澤氏は、バルカン半島、主にユーゴスラビアの民族繁栄を願って、バルカン室内管弦楽団を編成した。コソボ紛争で分断された民族の混成楽団を作りコンサートをすることにどれほどの意味があるのか、日本にいる我々には感じにくいかもしれない。

細川氏は、紛争の当事者でない日本人という立場でありながら、敢えてその地で楽団を作ったことに対し、現地の受け止め方、そして日本での評判をどう経験してきたのかを聞いた。

「答えから言うと、あまりよく知らないからできたことは否めない」と柳澤氏は答えた。

最近まで紛争があった地で楽団を編成するということで、当然はじめは驚かれる。そして真っ先に「ミックスでやるのか?」と聞かれたという。

「どういう意味かすぐに分かった。一つのオーケストラを多民族でやるのか」という質問だった。しかし、「頭ごなしに否定されることはなく、興味は持ってくれた」と柳澤氏は述べた。

演奏者の中には、リハの直前で「やっぱり参加できません」という人もいたそうだが、とにかくコンサートに向け動き出した。

実際コンサートを始めてみて大変だったことは何か、細川氏が聞くと柳澤氏は「民族が分かってしまうので、演奏家の名前が公表できなかった」と述べた。なぜなら、演奏会場でモノが飛んできたり、最悪の場合、銃が向けられる事態も想定されたからだという。

さらに、プログラムを配る際、英語とセルビア語とアルバニア語、3言語を同時に掲載してしまうと、どれを上に書くかで優劣ができてしまう。それを考慮し、同じデザインで別々に作成しなければならない。こういった細かい対応を余儀なくされたことも明らかにされた。

また実際に演奏するとなると、反対の声が高まる可能性があったため、直前まで開催を告知できないこともあったと言う。

移動の際も厳重な警備で、マケドニアから来た国連特殊車両に乗った。それでも、バスから降りて建物に入る10数メートルは一瞬、外に出ないといけないので、厳戒態勢で軍隊や警察の人が警備にあたった。もちろんリハーサル中もコンサート中も警備のもとで行われるため、通常2時間ほど行うパフォーマンスを、休憩なしの50分に縮め、一番長い曲でも10分ほどにしたことなどを紹介した。

このコンサートは国連も関わるプロジェクトだった為、国連を中心に国際安全保障部隊やコソボ警察をはじめとした機関と様々な調整をしなければならなかった。

「紛争前後10数年交流がなかった時代を乗り越えた初の文化交流ということで、2007年5月17日は記録的な日になった」と柳澤氏は明かす。また、「紛争後の地帯だからという理由で(バルカン半島に)渡ったわけではないが、結果的にそういった社会と関わることになった」と述べた。

▲写真 ⒸJapan In-depth編集部

細川氏は、分断のきっかけとなる紛争から平和を目指していくことに関し、どのような考えで取り組んでいるのか、柳澤氏に聞いた。

これに対し柳澤氏は「最近、『日本のココが素晴らしい』というような番組が増えている気がする」と疑問を呈した。そう感じる理由として、初めてマケドニアに行った時犯した「大失敗」を紹介した。

マケドニアを初めて訪れたとき、柳澤氏は日本との文化の差が大きすぎて、日本で当たり前のことがマケドニアではできないという経験をたくさんした。その時柳澤氏は、「日本ならできるのに」という考えが強くありすぎたと振り返った。

「そんなことを言われたら向こうは気分が悪いし、ここは日本ではない、と言われてしまう。『日本が何でも一番』と思いすぎないことの大切さを学んだ」。

そこからさらに、コソボフィルハーモニー、セルビアのオーケストラ、と経験を積むことで、多民族と同じ目線で話せるようになってはじめて繋がっていったという。マケドニアでの失敗があってこそ、今の柳澤氏があるのだ。

細川氏はその話を踏まえて、「日本人は海外で人との接し方に悩む場面が多いと思うが、そんな時どうすればいいのか」と聞いた。

柳澤氏は、「悩まないほうがいい。思い切りぶつかり、失敗を肌で覚える。こうやったら正解、ということなどない」と述べた。

ウィーンやドイツやフランスでやりたい、と思う指揮者は多いだろう。バルカンのような多民族の楽団は、指揮者としてまとめるのは大変だ。しかし、地球上で考えれば、そういう楽団のほうが多いのではないか、と柳澤氏は言う。

「超一流のオーケストラは誰が指揮棒を振ってもすごい」と柳澤氏は言い、こう結んだ。

一流は一流での難しさがある。しかし、そう(一流)でないところでコントロールできる指揮者は、幅が広がって面白いなと最近思う」。

(この記事はラジオ日本「細川珠生のモーニングトーク」2020年8月15日放送の要約です)

 

「細川珠生のモーニングトーク」

ラジオ日本 毎週土曜日午前7時05分~7時20分

ラジオ日本HP http://www.jorf.co.jp/index.php

細川珠生公式HP http://hosokawatamao.com/

細川珠生ブログ http://tamao-hosokawa.kireiblog.excite.co.jp/

トップ写真:ⒸJapan In-depth編集部


この記事を書いた人
細川珠生政治ジャーナリスト

1991年聖心女子大学卒。米・ペパーダイン大学政治学部留学。1995年「娘のいいぶん~ガンコ親父にうまく育てられる法」で第15回日本文芸大賞女流文学新人賞受賞。「細川珠生のモーニングトーク」(ラジオ日本、毎土7時5分)は現在放送20年目。2004年~2011年まで品川区教育委員。文部科学省、国土交通省、警察庁等の審議会等委員を歴任。星槎大学非常勤講師(現代政治論)。著書「自治体の挑戦」他多数。日本舞踊岩井流師範。熊本藩主・細川家の末裔。カトリック信者で洗礼名はガラシャ。政治評論家・故・細川隆一郎は父、故・細川隆元は大叔父。

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