最高裁判事死去でトランプ再選?
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー【速報版】2020#39
2020年9月21-27日
【まとめ】
・米最高裁判事ルース・ベイダー・ギンズバーグ女史、死去。
・それにより、トランプ氏再選の可能性が高まるかもしれない。
・最高裁が民主党案件をすべて潰すことも可能となるからだ。
先週久し振りで40年来の米国友人とウェブ上でチャットしたのだが、気分はあまり乗らなかった。先週メールアカウントを誰かに乗っ取られたのか、日程表が使えないからだ。筆者のアカウントを乗っ取ったって、秘密情報なんか何もないのにね。このところ、コロナ禍のせいか、やることなすこと、あまりうまくいかないことばかりだなぁ。
こういう週もあるのだと自分に言い聞かせつつチャットしていたら、何と件の米国友人は「RBGの逝去がちょっと早い『オクトーバーサプライズ』になるかもしれない」と言い出した。「RBG」とは、先日亡くなった米最高裁判事のルース・ベイダー・ギンズバーグ女史のこと。米国では有名なリベラルのフェミニストで国民の人気も高かった。
▲写真 故ルース・ベイダー・ギンズバーグ米最高裁判事 出典:Supreme Court of the United States
結論だけ言わせてもらえば、RBGの死により、トランプ氏再選の可能性が高まるかもしれない、ということだ。彼女の死でトランプは保守系の女性判事を最高裁に送り出す。これで保守対リベラルの比率は6対3となり、仮に、バイデン候補が勝って上院が民主党多数になっても、最高裁が民主党案件をすべて潰すことも可能となる。
詳しい話は今週の日経ビジネスOnLineに書いたのでお読み頂きたい。いずれにせよ、今頃、米国民主党系の人々は戦々恐々だろうが、それにしても絶妙のタイミングでRBGは亡くなったものだ。流石としか言いようがない。彼女の死が米国内政の健全なリベラリズムの死まで意味しないよう、祈るしかない。長年ガンと戦いながら、知的ユーモアを絶やさなかった小柄の女性闘士に心から哀悼の意を表したい。
▲写真 ジョー・バイデン候補 出典:Gage Skidmore
小柄の女性闘士といえば、台湾にも一人いる。その台湾で不思議なことが起きた。台北発ロイターによれば、台湾を訪問した日本の某元首相が、台湾総統との電話会談に前向きな姿勢を示す日本の新首相の言葉を伝えたことに対し中国が懸念を示し、同総統はそんな電話会談は予定していないと述べたというのだ。何だこれは?
中国外交部が日本側に説明を求め、中国側は、そのようなことは「決して起きない」との説明があったと言っている。何というお粗末か。こういう電話は黙って掛けるもので、事前にメディアに喋るべきことではない。どこでボタンの掛け違いがあったかは知らないが、これが意図的リークでないとすれば、お粗末外交としか言いようがない。
〇 アジア
バンコクで大規模な民主化要求集会が続いている。不敬罪になりたくないので多くは言わないが、こういう時こそ国民に癒しを与えるのが王室の仕事ではないのかねぇ。
〇 欧州・ロシア
毒殺されかかったロシアの野党勢力指導者は体力こそ回復しているものの、認識・言語能力に重大な障害が出ているらしい。何と可哀想に、回復を祈ろう。
〇 中東
米国務長官が対イラン国連制裁を19日午後8時(日本時間20日午前9時)に全面復活した旨の声明を発表したという。こいつらも外交が下手くそだなあ。
〇 南北アメリカ
カナダが中国との自由貿易協定(FTA)締結を目指して進めてきた交渉の打ち切りを決めたという。中国側の「威圧的な外交」が原因だそうだ。変わらないね中国は!
〇 インド
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:トランプ米大統領 出典:facebook: The White House
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。