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.経済  投稿日:2020/9/27

テスラキラーVW新型EV投入


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・VWがフル電動SUV「ID.4」を9月23日に発表。

・テスラは独ベルリンに工場建設、SUVモデルを来年投入計画。

・ライバル企業続々電動SUVモデル投入、テスラ経営盤石ではない。

 

世界でEV(電気自動車)化の潮流が加速している。EVというと米テスラが話題になることが多いが、自動車業界の巨人、年間生産台数1000万台超の独VW(フォルクスワーゲン)が本気でEV開発に乗り出していることはあまり報じられていない。

そのVWがEV「ID.4」を9月23日に発表した。VWは既に「ID.3」を発表しており、同社のEVとしては2車種目となる。

▲写真 VW ID.3 出典:Alexander Migl

ID.3は今年6月から欧州で予約販売が始まっている。ベーシックモデルで3万ユーロ(約366万円:独国内価格 1ユーロ=122円で計算)と値頃感がある。コンパクトSUVであるID.4は価格未定ながら400万円台前半に落ち着くのではないかとの見方もあり、VWの本気度がうかがえる。

背景には、欧州で存在感を高めつつあるテスラへの警戒感があるのは間違いない。イーロン・マスクCEOベルリン郊外に生産工場を建設中だ。お膝元でEV専業のテスラに車を量産されるのだからVWのみならず欧州の自動車メーカーは心中穏やかではないだろう。

▲図 米テスラがベルリンに建設中の工場、Giga Berlin 出典:@elonmusk

そしてテスラのSUV「モデルY」は来年から欧州で販売が開始される予定だ。現在ドイツなどに入っている並行輸入車の価格は800万円台と高価だが、現地生産車には戦略的な価格設定をしてくるはずだ。

▲写真 テスラモデルY 出典:Tesla

VWは値頃感を前面に出し、「ID.3」と「ID.4」でテスラを迎え撃つ戦略だろう。そして、他の欧州高級車メーカーも黙ってはいない。ジャガー「I-PACE」、アウディ「e-tron」、ボルボ「XC-40」、メルセデスベンツ「EQC」など、各メーカーが本腰を入れて高級SUVを試乗に投入、テスラの「モデルY」を迎え撃つ。

▲写真 ジャガーI-PAE 出典:Y.Leclercq

▲写真 アウディe-tron 出典:Alexander Migl

▲写真 ボルボXC-40 出典:Bahnfrend

▲写真 メルセデスベンツEQC 出典:Tokumeigakarinoaoshima

日本勢も日産が「アリア」、トヨタが「レクサス300e」の発売を控えている。テスラ包囲網は出来つつある。

▲写真 トヨタLEXUS「UX300e」 出典:トヨタ

▲写真 日産アリア 出典:日産

テスラのトヨタ時価総額超えが今年7月話題になったが、実はテスラの規模はトヨタやVWに比べ驚くほど小さい。なにせ、2019年テスラのEV出荷台数は、前年同期比50%増とはいえ、わずか36万7500台だ。2020年は50万台の販売目標を打ち出してはいるが、生産規模でいったらトヨタやVWのわずか4%程度に過ぎない。

また収益構造だが、テスラの2020年第2四半期(4月~6月)の純利益は4四半期連続の黒字とはいえ、1億400万ドル(約109億円 1ドル=105円で計算)に止まっている。しかも注目すべきは、第2四半期だけでテスラは中国で4億2800万ドル(約449億円)の温暖化ガス排出権(クレジット)売却益を得ていることだ。

テスラは規制をクリア出来ていないメーカーにクレジットを売却した利益を計上しているのだ。このクレジット収益が無ければ赤字になったかもしれない。本業の車で儲ける体勢にはなっていないということだ。

そして更に気になるニュースは、イーロン・マスクCEOが3年以内に25000ドル(約265万円)の低価格EVを発売する、と宣言したことだ。その為にテスラは、バッテリーの徹底したコストダウンを図る、としているが、安い車は当然のことながら収益率が低い。フルラインアップ自動車メーカーは、利幅の大きい高級車を売って利益を確保しているからこそ、利益がほとんど出ない小型車を売ることが出来るのだ。

▲写真 イーロン・マスク テスラCEO 出典:flickr : Steve Jurvetson

せっかく収益性の高いモデルを持っているのに、安価な車を開発し販売するのはテスラに取って得策とは思えない。年産1000万台の体力を持つVWが量産効果をフルに使ってEV市場で価格競争を仕掛けてきたらどうなるだろうか?

▲写真 VW ID.4 出典:VW

そして、高価格帯でも上記のようにあらゆるメーカーがEVを投入する計画だ。ここでも競争は激化する。中国上海、そして独ベルリンと次々に巨額資本を投下し現地生産を始めるテスラ。市場がもてはやすほどその経営は盤石ではない。

トップ写真:VW ID.4 出典:VW


この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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