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.経済  投稿日:2020/7/11

絶好調テスラ、日本勢反撃へ 1


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

米株式市場の時価総額でテスラがトヨタを抜いた。

トヨタレクサスの小型SUVをEV化した「UX300e」を発売。

・スバルと共同開発のEVも市場に投入へ。

 

アメリカのEV専業メーカー、テスラの株価上昇が止まらない。

■ テスラ、時価総額でトヨタ超え

米株式市場の時価総額でテスラがトヨタを抜いたとの衝撃的なニュースが流れたのが1週間前の7月1日。そのわずか6日後の7日、テスラの株価は1429.50ドル(前日比+4.2%)をつけ、時価総額で一時2650億ドル(28兆5000億円)に達し、同日終値のトヨタホンダの合計(27兆1036億円)を上回った。トヨタ、ホンダに日産を合計した時価総額(28兆7868億円)を抜くのも時間の問題だ。

背景にはテスラの好調な業績がある。2020年4~6月期の出荷台数が9万650台と市場予想を大きく上回った事が評価された。それだけ投資家がテスラの将来性に期待しているということだろうが、いくらなんでも行きすぎではないか。

テスラの生産台数を見てみよう。確かに右肩上がりに生産は増えている。特に廉価版Model3を投入してから伸びが顕著だ。しかし、2019年の総生産台数を見ても約36万5千台だ。トヨタの2019年の生産台数は約900万台。テスラの実に25倍近い。

▲図 テスラ生産台数 青:ModelS&X オレンジ:Model3+Y 出典:ReferenceMan

ではテスラの収益性はどうなのだろう?以下のグラフを見てもらいたい。そう。売り上げは伸びているが、利益はほとんど出ていないのだ。何故か?答えは簡単。巨額の先行投資をしているからだ。そしてその成長性を市場はトヨタや他の自動車会社より高く評価している。だから時価総額でトヨタ超えが起きる。売上高29兆9299億円、営業利益2兆4428億円のトヨタ、をだ。(2020年3月期決算)

▲図 トヨタの売り上げ高・営業利益推移 出典:gurafu.net

気をよくしたテスラは人気のSUVにも進出。ModelYなる新型車を投入した。2020年3月に米国で納車が始まっている。モーターを前後に搭載しているのが特徴の4WDだ。トップグレードの「パフォーマンス」と「ロングレンジ」の2グレード。「パフォーマンス」は1回の充電での航続距離は315マイル(約507km)。価格は6万0990ドル(約652万円)。ロングレンジ・グレードは1回の充電での航続は316マイル(約509km)、価格は5万2990ドル(約567万円)。300万円台のModel3より大分割高だ。

Model3は販売価格をかなり抑えたので、おそらくほとんど利益は出てない。ModelYで収益性を一気に改善させたいのだろう。自動車メーカーの戦略としては正しい。ただし、ライバル達が黙っていればの話だ。

▲写真 Tesla ModelY 出典:Tesla

 日本勢の反撃:トヨタ

さて日本勢だが、このテスラの猛攻を黙ってみているのだろうか?答えはノーだ。今年に入ってトヨタも日産も攻勢を強めている。

まずはトヨタ。EV化に重い腰をなかなか上げなかったが、流石にかつての盟友テスラがここまで攻めてくるとは、豊田章男社長、夢にも思っていなかったろう。

遅まきながら、まずはレクサスの小型SUVをEV化した。Lexus「UX300e」がそれだ。2020年度内に欧州市場に投入。新開発の54.3kW大容量リチウムイオンバッテリーを搭載、航続距離400km以上を達成したという。

▲写真 Lexus UX300e 出典:LEXUS

実はトヨタはEV開発において、手をこまねいていたわけでは無い。2017年9月には、マツダ、デンソーとEVの新会社「EV C.A. Spirit」(以下、EVCA)を設立している。さらに翌2018年1月にはSUBARU、スズキ、ダイハツ、日野の4社が、同年10月にはいすゞとヤマハ発動機の2社が加わり、合計9社の開発連合となった。EV開発に総力挙げてきたと当時大いに注目された。

▲図 EVCAの体制イメージ 出典:マツダ、トヨタ、デンソープレスリリース

本来自動車メーカーは新規技術は単独開発するのが王道だ。いくら相手が提携メーカーだとて、他社の技術を取り込みながら共同開発していくのは時間もかかるし何より各社の技術者のプライドがぶつかり合い、成果を出しにくい、という側面がある。

しかし、トヨタがプライドをかなぐり捨て自社単独開発より、他社との共同開発に舵を切ったのには理由があると思う。

それは、ハイブリッド技術に世界に先駆けて先鞭をつけ、プリウスを世に出したプライドだ。いや、それより経済合理性の方が大きいだろう。ハイブリッド車開発の膨大な先行投資をようやく回収できる時期に、EV開発の新規投資はそもそも社内で受け入れられるはずもなかった。ボトムアップでは絶対出てこない経営戦略だ。豊田章男社長だからこそ出来た荒技だろう。

そのEVCAだが、2020年6月末で開発を終了し、2021年3月までに会社を清算するという。わずか3年で幅広い車種に対応できる基盤技術が完成したのだろうか?

そのマツダは、2020年後半にEV車「MX-30」の欧州市場投入を決めている。が、このモデルはマツダ単独開発である。

▲写真 マツダMX-30 出典:マツダ

ではEVCAの成果はいつでるのだろうか?

市場に投入されるのはスバルとの共同開発車が先になるようだ。両者は既に1年前、「EV専用プラットフォームおよびSUVモデルのEVを共同開発することに合意」している。プレスリリースは、

・両社が培った技術を持ち寄り、EV専用プラットフォーム(中・大型乗用車向け)を共同で開発

・トヨタの電動化技術と、SUBARUのAWD(全輪駆動)技術を活用

・EV専用プラットフォームをベースに、CセグメントクラスのSUVを共同開発し、両社のブランドで販売

と謳っている。世界的に売れているSUVで攻めていこうというトヨタの戦略が見て取れる。

▲写真 トヨタ・スバル共同開発SUVイメージ図 出典:トヨタ

▲図 スバルとトヨタが共同開発しているCセグメントSUV EVのエクステリアデザインの意匠登録 出典:特許情報プラットフォーム

グループの総力を挙げ、いよいよEVの市場投入に動き出したトヨタ。EV専業のテスラにとって脅威であることは間違いない。

次回は日産の戦略を見る。

に続く)

 

注1)トヨタとテスラは2010年に資本・業務提携。しかし2014年にはトヨタがテスラ株式を一部売却、残りも2016年末までにすべて売却した。

トップ写真:イーロン・マスク テスラCEO 出典:flickr :Steve Jurvetson


この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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