中国BYD、フラッグシップEVセダン「SEAL」衝撃価格でデビュー
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・中国自動車メーカー、日本で3車種目のフラッグシップセダンを投入。
・戦略的ローンチング価格でシェア拡大を狙う。
・日本のEV市場の起爆剤になるか、注目。
写真)BYD SEALのリアからのビュー
EVブームが一向に来ない日本において、一人気を吐いているのが中国の自動車メーカーBYD。
知らない人もいるかもしれないが、米テスラと匹敵するくらいEVを世界中で売っている新興自動車メーカーだ。
実は去年から日本でEVを販売しており、これまでに2,500台を販売した。(累計登録台数:2024年6月時点)
日本のEV市場は、トヨタが本気を出さないので一向に拡大せず、日産自動車の軽EV「SAKURA」が一人販売を伸ばしているのみ。
そんな日本市場に本格的にEVを投入している海外自動車メーカーは、米テスラとBYDだ。BYDはテスラより参入は遅れたが、去年1月にSUV EV「アットスリー(ATTO 3)」を、9月にコンパクトEV「ドルフィン(DOLPHIN)」を発売した。そして今回満を持して、フラッグシップモデルのセダンEV「SEAL(シール)」を投入した。矢継ぎ早に3車種も投入するとはその本気度を感じさせる。
「SEAL」とは英語でアザラシの意。BYDは、海にちなんだ車名の「海洋シリーズ」と中国歴代王朝の名の「王朝シリーズ」があり、「SEAL」は「海洋シリーズ」になる。
2022年の5月からの販売累計はこれまで全世界で23万台を超える人気モデルだ。
写真)会場の「WeWork アイスバーグ」は集まった報道陣でぎゅうぎゅう。東京都渋谷区神宮前
国内メーカーの新型EVの発表がしばらくない中、久しぶりの新型EVモデルのお披露目とあってメディアの注目度は高く、6月25日の会見場には100名以上からなる報道陣が駆けつけた。
■ スタイリング
まずはスタイリングを見てもらおう。
日本車のようにゴテゴテしていないスリークなスタイリングは、欧州車風な雰囲気をまとう。フロントとリアの膨らみにより、フラッグシップセダンにふさわしいダイナミックでありながら、ソフィスティケーティッドなエクステリアが斬新だ。細く、一直線につながったテールランプが特徴のリアビューは近未来を予感させる。後続車のドライバーからも一目でそれとわかるデザインだ。
会見に臨んだBYD Auto Japan株式会社代表取締役社長の東福寺厚樹氏も、「試乗車を友達の家に乗っていたり、知り合いに見せたりしたときに、もうみんな『おーかっこいいな』って言ってくれる」と話す。
写真)BYD SEAL フロントビュー
写真)BYD SEALのサイドビュー
写真)BYD SEALのリヤビュー
「SEAL」のボディサイズ(全長×全幅×全高)は4,800×1,875×1,460mm、ホイールベースは2,920mm。トヨタ新型「クラウン」のボディサイズは、5,030mmx1,890mmx1,475mm、ホイールベース3,000mmだから、全長はややクラウンより短いが、全幅と全高はほぼ同じだ。
システム最高出力と同最大トルクは、後輪駆動車(リアモーター)が312ps/360Nm、4輪駆動車が529ps/670Nm。筆者はまだ試乗していないので、ドライビングインプレッションは後日。
インテリアも大型の15.6インチのディスプレイが存在感を放つ。
写真)BYD SEALのコクピット
写真)BYD SEALのシフトレバー
写真)大きめのタブレット並の15.6インチディスプレイ
■ 衝撃的なプライス
今回のハイライトはなんといってもその販売価格だ。
SEALのメーカー希望小売価格は2駆で528万円、そして4駆のSEAL AWDは605万円に設定。さらに、1,000台限定の特別価格として、それぞれ、33万円引きの、495万円、572万円とした。政府からのCEV補助金35万円を適用すると、460万円と537万円になる。テスラのモデル3に対して十分すぎる価格競争力だろう。
写真)BYD SEALの小売り価格を発表する東福寺氏
■ 商品戦略
それにしても国内ではセダンより、SUVが圧倒的に人気だ。なぜこのタイミングにEVセダン?そう思って東福寺氏に聞いてみた。
「これはもう、#答えは試乗で(SEALのキャンペーンコピー)、というところですが、世界的に見てセダン自体は王道のスタイルの一つでもあり、どこのマーケットでもフラッグシップになっている車、代表的なモデルにセダンがあるのがラインナップの基本だと思う。確かに、日本のセダンマーケットは昔に比べると、一家に一台でマルチパーパスとなっていく過程で、ミニバンやSUVが一番使い勝手がいいということでマジョリティになっているが、一方でやはりセダンの持つ良さ、特に静粛性や、トランクルームが独立していて中が見えない形で物を運べるとか、基本型としてのセダンは、良いものが出れば注目も上がると期待している。十分商品としては戦える、戦闘力が高い商品が手に入ったと思っています」、と自信をのぞかせた。
BYDが中国で売りまくっているプラグインハイブリッド車の投入については今のところ何も決まっていない、というが、いつでも日本市場への投入は可能だ。まずはSEALの売れ行きをみて判断することになるだろう。
ディーラー網の展開も急ピッチで進んでおり、2024年末には全国で90店舗に拡大する予定だ。
「店頭にいらっしゃるお客様にアンケートで来店の動機を聞くと、4月から流している長澤まさみさんのテレビコマーシャルを見てきたという人が今増えてきている」という。特に女性が多いのだとか。
「目標はズバリ、1000台を早く売り切るのが当面の目標になります」と東福寺氏。
いずれにしても、BYD SEALが、日本のEV市場の起爆剤になるかどうか、まずは夏のボーナス商戦のゆくえをみてみたい。
写真はすべてⒸJapan In-depth編集部