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.国際  投稿日:2021/1/25

仏で「近親相姦」告発本出版


Ulala(ライター・ブロガー)

フランスUlala の視点」

【まとめ】

・仏で、著名人の過去の近親相姦を告発する本が出版された。

・マクロン大統領夫妻らが「勇気ある告発」と発言。

・未成年者に対する性被害を防ぐ法整備の声高まる。

現在フランスでは、未成年者に対する性的犯罪を法制化する声が高まっている。

きっかけは1月7日に出版された『La Familia Grande』という本だ。そこには著名なテレビ解説者である義父によって行われた弟への性的暴行が告発されている。本が出版されるやいなや、ハッシュタグ#MeetooIncesteと共に近親相姦(そうかん)の被害を訴えるツイートが続々と投稿された。

■ 勇気ある告発

『La familia Grande』は、元外相のベルナール・クシュネル氏の娘であるカミーユ・クシュネル氏が、7日に出版した自伝だ。そこには著者の双子の弟が、母親の再婚相手の著名なテレビ解説者である義父オリビエ・デュハメル氏により、13〜15歳の期間、性的暴行を受けていた事実が告発されている。

カミーユ・クシュネル氏は14歳の時に、すでに弟からその事実を聞かされていた。しかし、思春期真っただ中であったその時は、複雑な感情と思考が混ざり合うだけで何もできなかった。行為そのものについての知識もなかった。だが、心の中には最悪なことが起こっているという認識はあった。だとしても、友達の輪を壊せない年代であるため幸福な毎日を装うことも大切なことだったのだ。

弟は成人し、ようやく母親にその事実を伝えたが、それにもかかわらず母親は義父と一緒に住むことをやめなかったという。反対に平穏を乱した自分の息子を恨んだ。養父との近親相関の事実は、現状を維持したい母親を傷つけることになる。そんな状況の中で葛藤もしてきたが、しかしようやく告白する決心をしたのだ。それはすでに事が起こってから30年もの年月が流れた後だった。

この告発が公にでると、ツイッターでは共鳴する声であふれた。元男女平等担当副大臣であるマルレーヌ・シアパ氏も、すぐさま賛同を示したのだ。シアパ氏は、このように未成年時に起こった犯罪はその心の痛みや家族との関係の影響で、長い間告発できないケースが以前から問題になっていたことを受け、未成年に対する性犯罪の時効を20年から30年に変えることに尽力を尽くした人物でもある。2018年に制定されたその法律は、シアパ法とも呼ばれている。

また、ブリジット大統領夫人も出演したテレビ番組で「こういった勇気のある告発は黙認されてはいけない」と発言。その後、マクロン大統領も「勇気に感謝する」とツイッターに動画でコメントし、この告発は正式に受け止められることとなった。

▲写真 マルレーヌ・シアパ元男女平等担当副大臣(左)とブリジット・マクロン大統領夫人(右) 出典:Aurelien Meunier/Getty Images

カミーユ・クシュネル氏によって発表された書籍はすでに30万部以上印刷されており、出版後、告発されたオリビエ・デュハメル氏は、1週間もたたずに全ての職を解任された。

■ 以前からあった、未成年に対する性的暴行

フランスの未成年に対する性的暴行問題は、近年出てきた問題ではない。以前よりあったものが最近になりようやく表面化するようになっただけだ。未成年に対する性的暴行問題の一つであるカトリックの聖職者による問題は、近年になって次々と報告されたことも記憶に新しい。

フランス・カトリックの調査によると、被害を受けた、または目撃したとする通報が17か月間で6500件寄せられ、その被害者の90%が未成年であり、約94%は2010年以前に起こったことであった。

長年タブー扱いされてきた未成年に対する性的暴行であるが、実は、実際起こるのは家庭外よりも家庭内の方が多いと言われており、四分の三は身内により引き起こされていると推測されている。しかし身内による犯罪になると、なおさら口を固く閉ざす被害者が多くなり、実態が分かりにくいのが実情だ。

フランスで初めてテレビなどメディアに、顔にモザイクをかけないで近親相関の被害者が登場したのは1986年のことだった。当時44歳だったエヴァ・トーマさんは、テレビや雑誌に15歳の時に父親にされた性的虐待を告発した。しかし、そこで返ってくる反応は耐え難いものであった。

出演した番組内では、視聴者からの手紙が読み上げられた。手紙にはこう記されていたのである。「私は養子に迎えた娘を愛しています。家族も容認しています。みんな納得しているのです。なぜその絆を壊そうとするのですか。」「私は13歳の娘と毎日の関係を持っています。あなたは、なぜ人々が幸せになるのを妨げようとするのですか。」告発することで、共感や、同情の言葉が返ってくると思いきや、今では考えられないぐらいに容赦なくエヴァさんを非難する言葉が投げつけられたのだ。

それでも、エヴァさんは、一定の理解を示した。「この時代は親の言うことを聞くことが当然だった。子供たちはなんらかの暴力を受けていてもそれに従うのが当然と思われていたはのはしかたがない」と。しかし、そんな彼女に対して、コメンテーターとして出演していた婦人科医が言い放った言葉は、この番組で一番打撃を与える言葉となった。「ほとんどの近親相関は暴力を受けながら行われているわけではなく、音楽を流しながらのロマンティックな環境におくなど、穏やかであり、愛情をもって行われています。」

現在78歳のエヴァさんは、今この発言を聞いても憤りを感じ、全てを一緒くたにしていると訴える。「確かに父親と娘の間に愛情は存在するでしょ。でも性的行為を大人が未成年に行うのは愛情とは呼ばないんです。それは犯罪です。」

しかし、いくらテレビで告発しても1986年当時は何も変わらなかった。その後も、長い間未成年に対する犯罪は無視され続けたのだ。今でこそ未成年に対する淫行の罪を償わなかったことで大きな問題となっており、政府関係者からも非難の声があがる映画監督ロマン・ポランスキー氏についても、2009年に淫行容疑に関連してスイスで逮捕された時には、フランス政府も全面的にポランスキー氏を擁護した。当時の外相であり、『La Familia Grande』で明かされた性的虐待の受けた被害者の実の父親でもあるベルナール・クシュネル氏にしても、逮捕は「悪意に満ちている」とまで述べていたのだ。

■ #metoo運動で変わった意識

しかし、そういった意識は今現在変わりつつある。そして、#metoo運動でさらに大きく変わっていった。近親相関の被害者の意識も変わっていった。世論調査によれば、近親相関の被害者であると答えた人の割合は、2009年は、3%(Ipsosによる調査)、2015年は、6%(Harrisによる調査)であり、2020年には10%(Ipsosによる調査)と増加してきている。これは、被害の件数が増加したというよりも、今までタブーであった近親相関の問題を、もう隠さなくてもいいという認識が広がってきた表れではないだろうか。

このように、昔よりは、問題を告発しやすい環境になりつつあるのは間違いない。しかしながら、まだまだ未成年者が被害を受けている時点で誰かに訴えることも依然難しく、大人になることで告発の決心がついても、長い時間がたった後では証拠を提示するのは難しい場合が多い。その結果、強要されたのではなく、「同意があった」と判断されれば立件もできなくなるなど、様々な問題が数多く残っている。

そのため、こういった実情を踏まえた上での法整備が行われていくことが望まれてきたのだ。そして、今回のカミーユ・クシュネル氏の告発本を受け、ようやく政府による改革へ向けた検討が始まろうとしている。

参考リンク:


https://www.francetvinfo.fr/societe/harcelement-sexuel/video-inceste-le-combat-d-eva_4265601.html

https://facealinceste.fr/upload/media/documents/0001/02/9b09b6479dc5cc783ff3ebfb07769e5911e173b8.pdf

教会の性的虐待ホットラインに通報6500件 被害者の9割が未成年 フランス

トップ写真:オリヴィエ・デュハメル氏 2019年3月 出典:Eric Fougere/Corbis via Getty Images




この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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