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.社会  投稿日:2021/3/10

緊急避妊薬へのアクセスの実態 対面・オンライン診療の現状と課題


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・緊急避妊薬の対面・オンライン診療のあり方や、処方箋なしの薬局での入手に向けた課題について考える集会が3月3日院内で開催。

・国会議員、関連省庁、メディア、オンライン参加者ら約300名出席。

・必要な人に迅速に緊急避妊薬が届く仕組み構築が急務。OTC化の実現も検討を。

 

最近よく耳にする「緊急避妊薬」。海外では、「モーニングアフターピル」というが、略して「アフターピル」とか「モーニングピル」などとも呼ばれることもある。性被害にあったり、コンドームが破れるなど、避妊に失敗したときに、緊急避難的に妊娠を防ぐ避妊薬だ。

11万筆を超える署名が集まり市民の声を受けて第5次男女共同参画基本計画に処方箋がなくても薬局で入手できるよう検討が盛り込まれた。

今回、国際女性デー(3月8日)を迎えるにあたり、約1万人に聞いたウェブアンケート結果をもとに、各ステークホルダーが連携し、当事者の目線に立った緊急避妊薬の対面・オンライン診療のあり方や、処方箋なしの薬局での入手に向けた課題について考える集会が3月3日、衆議院内で開催された。主催は、緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト。

国会議員、内閣府や厚労省など関連省庁、メディア、オンライン参加者含め約300名が出席した。

冒頭、この問題に取り組んでいる木村やよい衆議院議員は、「女性の健康支援をしっかりやっていくことが重要だ。我が国の持続可能性にとってもそうだ。アフターピルへのアクセスが改善し、女性がいきいきと生きることができる社会にしよう」と呼びかけた。

内閣府男女共同参画局局長林伴子氏は、日本の年間中絶件数が15.6万件あること、その半数が10代、20代であることを紹介、緊急避妊薬をフォローアップしていくと述べた。そのうえで、「性に対する教育がポイントだ。内閣府と文科省で、生命の安全教育を検討している。政府は女性の健康を守ることを重要と考えている。厚労省に働きかける」と述べた。

まず、NPO法人ピルコンの染矢明日香理事長がプレゼンテーションを行った。筆者は染矢氏が大学生時代からの旧知だ。当時はまだ性の問題を取り上げるNPOはほとんど無かったが、地道に活動を続けてきた。こうしてロビーイングを行うようになるまでピルコンを育ててきたことには頭が下がる。

染矢氏は、2020年6月、「#緊急避妊薬を薬局で」プロジェクトを立場の違う2人と立ち上げ、産婦人科医の遠見才希子氏と、#なんでないのプロジェクト福田和子氏と共に、共同代表となった。

緊急避妊薬の適切で安心・安全なアクセスの実現に向けて~周知の課題と展望~」と題するプレゼンテーションで染矢氏は、プロジェクトの活動として、2020年7月自見厚生労働大臣政務官(当時)に要望書を提出したのに続き、関係各所に働きかけたことを紹介した。その後、第5次男女共同参画基本計画において緊急避妊薬を薬局で処方箋なしで入手できるよう検討する方針が明記されたことは周知だ。

染矢氏は、緊急避妊薬の薬局での適切な運用のために、緊急避妊薬の現行診療における課題の解決と、その為の制度設計が必要であると強調した。

そして、当事者の声をふまえた緊急避妊薬のアクセス改善の提言や、関連学会へ現行の診療体制の強化・周知を含めた提言 、緊急避妊薬のスイッチOTC化(注2)への要望を関係各所に申請していくと述べた。そのうえで、意図しない妊娠のリスクを抱えたすべての女性が安心して、適切かつ安全に、緊急避妊薬にアクセスできる社会にしたい、との考えを示した。

次に、なんでないのプロジェクト 福田和子氏が「緊急避妊薬のアクセス改善と制度について ウェブアンケート1万人の声から」(注1)の結果を紹介した。

それによると、緊急避妊薬の認知度は、男性で78%、女性で86.2%の人が「知っている」と答えた。認知度はかなり高まっているようだ。

緊急避妊薬を入手法については、対面診療が1239人、オンライン診療が50名だった。対面診療では産婦人科医による診療が95.2%を占め、その際、内診が5.1%あったことに福田氏は疑問を呈した。

対面診療のケースの回答では、「医療者から低用量ピルやIUD、IUSによる 避妊を勧められたことはありますか?」という問いに対して、33.7%の人が「はい」と答え、「緊急避妊薬服用をきっかけに、低用量ピルや IUD、IUSによる避妊を始めましたか?」との質問には35.0%の人が「はい」と答えた。なお、低用量ピル等による避妊を始めたと答えた人の約半数は、医療者からの勧めではなく、自分から始めたと答えた。

受診前でも患者のプライバシーへの配慮は欠かせない。人前で「緊急避妊薬」と言ったり、患者の名前を呼んだりしなくてよい仕組みが必要だ。また、医師が患者に説教的な態度をとったり、面前服用を求めたりすることを避けることや、診断後避妊法について丁寧に説明することなどが必要だろう。診断後に「いつでもきてください」という声かけがあるだけで、どれだけ患者は安心を得られるだろうか。絶えず患者に寄り添う姿勢が必要だと思う。

一方、オンライン診療を通して緊急避妊薬を入手した50人の回答で、緊急避妊薬の入手法では、産婦人科医によるオンライン診療から自宅に郵送された人が93.9%を占めた。

オンライン診療そのものの認知度は、女性25.8%、男性26.7%と、思ったより低かった。

こちらでも、「医療者から低用量ピルや IUD、IUSによる避妊を勧められたことはありますか?」との質問に「はい」と答えた人は32.0%、「緊急避妊薬服用をきっかけに、低用量ピルや IUD、IUSによる避妊を始めましたか?」という質問に「はい」が26.5%だった。オンライン診療においても、避妊を始めたと答えた人の約半数は、医療者からの勧めではなく、自分から始めたと答えた。

緊急避妊薬を薬局で処方箋無しで入手出来ることについて「賛成」の人は、女性で97.8%、男性で94.2%だった。

また、「面前内服」については、女性の56.8%、男性の60.8%が反対だった。

▲写真 ⓒJapan In-depth編集部

次に、遠見才希子医師が、「緊急避妊薬 オンライン診療の実際 ~薬局・薬剤師と医師の連携」と題してプレゼンテーションした。

まず遠見氏はWHOの「意図しない妊娠のリスクを抱えた全ての女性に緊急 避妊にアクセスする権利がある」との勧告を紹介し、「緊急避妊薬は女性の権利」だと述べた。

次に、緊急避妊薬のアクセスの課題として、「入手のハードルの高さ」を上げた。すなわち、①金銭的ハードル(約6000~2万円) ②物理的ハードル(受診が必要だが取り扱い機関は少ない)③心理的ハードル(特に若年者、性暴力被害者など)があるというのだ。

もう一つの課題は「性教育が先」ではないか、と言う議論だ。しかし、遠見氏はその考え方では「遅すぎる」とし、なにより、緊急避妊薬は重要なバックアップであり、性教育と、緊急避妊薬へのアクセス改善は「両輪」で行うべきだ、との考えを示した。

また、緊急避妊薬の正しい知識が重要だとし、「安全性が高く、早く飲むほど効果が高いこと」と、「内診が不要で産婦人科医以外でも処方が可能なこと」を挙げた。妊娠阻止率が約85%であり、重大な副作用はないと述べた。また、問診(最終月経、セックス日時、避妊状況など)のみでいいことや、本人・保護者の同意書は必須ではないことも強調した。

先のアンケートでは、対面診療で内診したケースが5.1%あったが、不要なのであれば、患者の精神的負担は軽減されると感じた。また、産婦人科以外でも処方出来ることや、保護者の同意書が必須ではなく、医療機関ごとの方針によるものであることなども広く周知すべきことだろう。

遠見氏は、服用後に妊娠しやすい時期が来る可能性があることを指摘、継続的な避妊希望があれば低用量ピル開始も可能だと強調した。こちらについても、対面診療のケースの回答で、「医療者から低用量ピルやIUD、IUSによる 避妊を勧められたことはありますか?」という問いに対して、66.3%の人が「いいえ」と答えたが、医師が患者の意向を確認し、適切な避妊のアドバイスをする必要性があると感じた。

オンライン診療の適切な実施に関する 指針の見直しに関する検討会は、2019年7月に「条件付き」でオンライン診療を解禁とした。その要件とは、「避妊成否の確認のため約3週間後の産婦人科対面受診を確実に約束」することと、「転売など組織的な犯罪に使用されるのを防ぐため薬剤師の面前で内服」することの2つだ。

2020年4月からは、新型コロナ特例措置として、これらの要件を満たさずとも医師の判断でオンライン診療、薬の宅配、処方箋FAXなど可能になってはいるが、遠見氏は対面受診要件を「避妊成否の確認」ではなく、「避妊法の相談や性感染症検査、子宮頸がん検診などのため、産婦人科対面受診を推奨する」ことに変えることや、「面前服用」は「セックスから早く飲むほど効果が高いため、希望者には、薬局で服用できるようにサポートする」形にすることを推奨した。要件を患者にとってネガティブなものからポジティブなものに変える必要性を訴えたもので、これも大切な提言だと思う。

次に緊急避妊薬をどこで手に入れることができるのか、という問題について遠見氏は、緊急避妊薬の在庫があり、服薬指導ができる薬剤師がいる薬局が一覧できる、「NPO法人 HAP 緊急避妊薬コンシェルジェ薬局 」と、緊急避妊薬全店舗在庫配置している「なの花薬局」を紹介した。

オンライン診療の課題として遠見氏は、オンライン診療解禁はアクセスに風穴をあけたとしながらも、「オンライン診療にも高いハードルがある」と指摘した。また、対面診療・オンライン診療だけでなく、「OTC化という選択肢は常に必要である」ことを強調した。

そのうえで、「選択肢を増やし、(緊急避妊薬を)必要とする女性が安心してアクセスできる社会に」すべきであることと、「当事者目線」の必要性を訴えた。

最後に遠見氏は、1994年に国際人口開発会議で提唱された、「性と生殖に関する健康と権利(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ :SRHR」について触れた。SRHRは、「 性や子どもを産むことに関わる全てにおいて、身体的にも精神的にも社会的にも良好な状態であり、自分の意思が尊重され自分の体のことを自分で決められること」とされ、「 人々は、他人の権利を尊重しつつ、 安全で満足できる性生活をもてる。子どもを産むかどうか、産むとすれば、 いつ、何人産むかを決定する自由をもつ。 適切な情報とサービスを受ける権利がある」としている。

そのうえで、遠見氏は以下の4点を挙げた。

・性と生殖に関するヘルスケアは科学的根拠に基づき、権利の枠組みのなかで提供されるものである。

・個人の価値観や性教育の遅れ、低用量ピルは普及していないことなどを理由に、緊急避妊薬へのアクセスは制限されてはならない。

 • 緊急避妊薬は本来、医師にしか扱えない危険な薬ではなく、世界中で薬局薬剤師によって提供されている安全な薬である。

 • 「女性を管理下におき指導する」といったパターナリズムから脱却し、SRHRを尊重することが重要である。

今回のセミナーに出席して、緊急避妊薬の普及には様々なハードルがあることがわかった。本当に必要な人に迅速に緊急避妊薬が届く仕組みを1日も早く構築しなければならない。OTC化もその次の実現に向け、検討が進むことを望む。

***関連記事「緊急避妊薬を手に入れやすく

 

(注1)緊急避妊薬の薬局での適切な運用のためのウェブアンケート

【目的】政府が緊急避妊薬 (通称アフターピル)の薬局販売の検討を始めたことを受け、①緊急避妊薬に対する世論、また ②緊急避妊薬の処方、受診時の現状と③当事者のニーズを調査するため。

【対象】誰でも回答可能。

【概要】実施期間:2020年12月4日-12月20日23:59     

実施者:#なんでないのプロジェクト、 NPO法人ピルコン

お問い合わせ先: nandenainohinin@gmail.com

 

(注2)スイッチOTC

医療用医薬品として用いられた成分が、OTC(Over The Counter)医薬品に転換(スイッチ)された医薬品。

修正:以下の部分を書き換えました。本文上から3行目。(2021年3月10日22時50分)

旧:望まぬ妊娠をしたときに服用することで

新:コンドームが破れるなど、避妊に失敗したときに

トップ写真:NPO法人ピルコン染矢明日香理事長(左)、遠見才希子医師(右) ⓒJapan In-depth編集部




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト、産業能率大学客員教授。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。


1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。


1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。


2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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