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.政治  投稿日:2021/4/29

政治のリーダーシップが無い国


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・ワクチン接種が進まない中、私たちがやれることは限られている。

・政治家、官僚の不祥事が相次ぎ、国に対する国民の不信は頂点に。

・菅首相がリーダーシップを発揮しないと、与党にとって総選挙は厳しいものに。

 

変異株が猛威を振るっているとメディアは騒いでいるが、ウイルスが変異するのは当たり前であり、我々人類はやるべき事を淡々とやるしかない。この新型コロナウイルス感染症から我が身を守るためには、今のところ密を避けることと、消毒するしかない。

頼みの綱と当初から言われていたワクチンが不足しているのだから、やることは去年と何も変わらない。

法的拘束力が弱い非常事態宣言で人の移動を阻止することが出来ないことは実証済みだ。「まん防」だろうが「非常事態」だろうが、やればやる程人は慣れていき、お上の言うことをどんどん聞かなくなる。

これも「正常性バイアス」だ。自分は大丈夫。まさか感染するわけがない、というわけだ。

千葉県知事選に続く北海道、山梨、広島の衆参3選挙で、自民党は4連敗を喫した。当然だろう。勝てると思っていたのならどんな予測かと思うし、特殊事情でこうなったのだ、などというコメントも与党から聞こえてきたが、それもまた的を外した分析だろう。

最近では菅首相と新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が一緒に会見することが多いが、正直どちらが首相か分からない。菅首相は記者の質問に真正面から答えずはぐらかす。だから一向に私たちの心に響かない。リーダーシップの欠如は明白だ。

▲写真 会見に臨む菅首相と新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長(2021年1月7日) 出典:Kiyoshi Ota – Pool/Getty Images

一方の尾身会長は真っ正面から自分の言葉で国民に警鐘を鳴らすので、メッセージが国民に伝わる。私が官邸の広報だったら同時に2人を出さない。首相のボロが目立つからだ。

自民党が負けるのは当然だ。政治家の不祥事が余りに多すぎる。大臣の収賄や買収など、当たり前のように起きている。銀座クラブ通いどころか、パパ活まであった。酷すぎる。

政府の官僚も国民に自粛しろといっておいて、自分たちは民間から1食7万円の高額接待を受けていたり、大人数で深夜まで宴会やって挙げ句の果てにコロナに感染してみたり、モラルもへったくれもない。誰が今の政府与党を支持しようと思うのか。

自民党支持者も政権交代までは望んでいないかも知れないが、与党支持者があきれるほど今の菅首相の政権運営は後手後手だ。

そして去年から分かっていたのにワクチン接種が全く進まない。医療従事者ですらまだ25%程度しか接種していないのに、75才以上の高齢者の接種が始まっている。本末転倒だ。

▲写真 がん・感染症センター都立駒込病院でワクチンを打つ医療従事者(2021年3月5日) 出典:Yoshikazu Tsuno – Pool/Getty Images

ワクチン担当大臣などというポストを作ってもちっともワクチン輸入は増えなかった。五輪の前に国民の過半数がワクチンが打ち終わるのは不可能だろう。それでも五輪をやろうというのだから、話にならない。自分が海外の選手だったら、そんな国に行きたくない。

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員も、聖火リレーを強行して沿道に密を発生させ、慌てて人に来ないでくれと要請してみたり、そのちぐはぐさは呆れるばかりだ。芸能人も辞退するはずだ。

五輪開催で海外から更に変異株を呼び込んでどうするのか。誰が考えてもこの開催は無理筋だ。「人類がウイルスに打ち勝った証としてやる」と誰かが言ったが、全然、勝っていない。むしろ負けがこんでいる。

政府は突然、自衛隊が首都圏圏で「大規模接種センター」を設置して5月24日から3カ月モデルナ製ワクチンを打つと発表した。何故今突然?出来るなら何故もっと前にやらなかったのか?

度重なる自粛で多くの零細企業の人達、特に飲食で働いていた人達は職を失い、青息吐息どころではない。今わずかに募集があるのは、警備と清掃だけだという。コロナ解雇10万人という報道があったがそんな少ないはずはない。

国民は呆れ、政府の言うことなど聞かなくなっている。路上飲み、越境飲み、持ち込み飲みのオンパレードと、GWの大量民族移動で感染拡大が3度目の非常事態宣言が終わる5月11日までに終息するわけもない。むしろ増え続けるだろう。そうしたら政府はどうするのか?延長するのだろうか?

今のままでは国民の国への不信は募るばかりだ。菅首相がリーダーシップを発揮し、魂のこもったメッセージを発して、国民がそれに耳を貸す日は来るのだろうか。来なければ、今の状態は更に悪化するだろう。そしてそれは与党にとって悪夢になり得る。

トップ写真:菅首相(2021年1月7日) 出典:Kiyoshi Ota – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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