専門家反対でもパラ児童観戦なぜ
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・東京パラリンピックの「学校連携観戦プログラム」が論議を呼んでいる。
・新型コロナウイルス感染症対策分科会尾身茂会長は、児童観戦に慎重な考え示す。
・緊急事態宣言下の児童観戦強行は政府のダブルスタンダードの最たるもの。
後、数時間後には神奈川県横浜市長選の開票結果が判明する。菅首相が支援する自民党衆議院議員小此木八郎候補が当選するかどうかが注目されている。選挙で負け続きの自民党が今回も敗北するとなると、政権に重大な影響を及ぼすのは必至だ。
そして今週24日には東京パラリンピックが開催される。議論になっているのが、児童・生徒が観戦する、いわゆる「学校連携観戦プログラム」だ。スポーツ庁の資料によると、同プログラムは「自治体や学校単位でチケットを購入してもらい、次世代を担う若者に、より多く会場にきてもらうことを目的とした事業」だそうだ。
対象は「東京都、その他会場所在地都道府県、被災地の小学校から高校および特別支援学校をはじめ、全国各地の児童・生徒」となっている。
パラリンピックは既に原則無観客開催が決まっている。それなのに、子ども達の観戦は行う、というのはどう考えても整合性が取れていない。オリンピック開催時より、今の方が新型コロナウイルスの感染状況は悪化しているのだ。
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は19日、参議院内閣委員会で、「学校連携観戦プログラム」について問われ、「オリンピックの開始の時期と、これからパラリンピックの開始の時期を比較すると、今の方が状況がかなり悪くなっているということを踏まえて、いろんなことを決めていただければと思う」とした上で、子どもたちの観戦について、「観客を入れるというのはどういうことかっていうのは、考えて頂ければ、当然の結論になると思います」と断言した。この発言部分はテレビニュースで幾度となく流されたので覚えている人は多いだろう。
▲写真 新型コロナウイルス感染症対策分科会 尾身茂会長 出典:Photo by Issei Kato – Pool/Getty Images
しかし、現時点で競技会場のある埼玉、千葉、東京の3都県が計約十数万人を対象に実施する予定であるという。緊急事態宣言下で人の移動の自粛を求めながら、オリンピック・パラリンピックを実施すること自体矛盾しているが、「学校連携観戦プログラム」の実施も保護者には理解しがたいものだろう。実際、同プログラムへの参加を取りやめた自治体は多い。
そもそもオリンピックの時は自宅でテレビで観戦して下さい、と小池都知事も言っていたではないか。なぜパラリンピックだけは違う対応なのか。教育的価値がある、という説明だけで納得する人はいまい。
テレビで観戦すれば、選手の表情などより近くではっきりと見ることが出来るし、番組内では、選手のこれまでの練習の経緯や人物像、それに他国の選手とのデータ比較など、興味深い解説を見聞きすることが出来る。会場に行かねばならない理由はないだろう。教育的価値を言うなら、会場での観戦ありきではなく、多様性や共生、差別の問題などを普段の授業の中でどう取り入れるかの方が大切だろう。
内閣支持率が下がり続けているのは、こうしたダブルスタンダードとつじつまの合わない自己正当化が目に余るからだ。オリンピックを実施すれば国民も感動に湧いて支持率もアップするはず、と高をくくっていたのだとしたら、それは大いなる勘違いだし、児童観戦の問題も、国民の意思を見誤っていると言う他はない。
トップ写真:東京2020パラリンピックに先立ち、車いすラグビーの練習セッション(チームフランス)東京・代々木スポーツアリーナ、2021年8月22日 出典:Photo by Alex Pantling/Getty Images
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。