逮捕の観客「自分の愚かさ恥じる」ツール・ド・フランス大転倒事故
Ulala(著述家)
「フランスUlalaの視点」
【まとめ】
・ツール・ド・フランスで大規模クラッシュ。原因は、道にはみ出た女性のプラカード。
・女性が出頭し、主催者は被害届取り下げ。警察は厳しく対処する方針。
・安全確保をめぐり、選手側が主催者側に対して怒りの声も。
日本でも、大きく話題になった、ツール・ド・フランス初日に起こった大規模なクラッシュ。その原因をつくったのは、道からはみ出しながら自分が持っているプラカードをテレビに映してもらおうとしていた観客の女性だ。このプラカードのせいで選手が衝突し落車したが、しかしなんとその女性はクラッシュ後、姿を消したのだ。(参照動画:GlobalCyclingNetwork twitter)
その後、女性の捜索が始まったが、警察が目撃情報を募集したFecebook上に届いた4000件以上のコメントにとどまらず、この非常識な行動をする女性に対して、世界中のSNS上やメディアで非難が大きく広がり各国で話題になった。しかし、最終的には女性が警察に出頭し罪を認め、ツール・ド・フランス主催者側も、執拗な追及を鎮静化させるためにも被害届を撤回するに至った。
■ 大規模なクラッシュを引き起こした観客の女性
事故は26日、ブレストからランデルノーまでの第1ステージで発生した。テレビを通してメッセージを送るためにプラカードをテレビの中継カメラに向けていた女性は、背後から選手の集団が向かってきていることに気が付いていなかったのだ。しかし、固まって走ってきている自転車同士の間隔は、ほぼ詰まった状態であり、道幅ギリギリまで広がって走行しているため、前方に障害物があったとしても選手側がよける手段はない。そのため、先頭付近を走っていたチーム・ユンボ・ビスマのトニー・マルティン(ドイツ)が、道路にはみ出していたプラカードにぶつかって落車。そこからドミノ倒しのように後方の他の選手も次々に転倒したため、大規模な事故に発展したのである。
この大規模クラッシュにより、チームDSMのヤシャ・ズッタリン(ドイツ)をはじめとする、4人の選手が頭部の外傷、肋骨骨折、手と腕の骨折など大けがをし、リタイアを強いられた。また、他にも観客を含めた数十人が負傷。しかし、問題となった女性は、事故後失踪。自ら警察に出頭して罪を認めたのは30日のことで、それは事件から4日も経った後のことだったのだ。
プラカードにはドイツ語で「おばあちゃん、おじいちゃん」と書かれていたことから、この観客はドイツ出身だと考えられていたが、逮捕された女性はフランス国籍をもつ30歳だと判明。プラカードの文字は、祖父母にメッセージを伝えるためだったようだ。現在、彼女は自分がしたことを恥ずかしいとし、深く反省している。
■ 開催側に対して、もっと安全に気を配るように意思表明する選手たち
この事故に対し、メディアやSNS上では、女性を非難する声であふれた。しかしながら、ツール・ド・フランスでは第2・第3ステージでもクラッシュが相次ぎ、各チームから主催者側にも怒りの声が上がった。29日の第4ステージ開始時には、選手側から主催者側に対しての安全を求める抗議として、選手177人がスタート地点から数メートで一分ほど一時停止して表明したのだ。
今回ほどの大規模ではないにせよ、ツール・ド・フランスでは落車やクラッシュは毎年起こっている。その大きな原因は、道の整備の悪さもあるし、今回のように5mもない細い道を通る際に道にはみだした観客が原因になることもある。
▲写真 第108回ツール・ド・フランス2021、第1ステージ(ブレストからランデルノーまで)の様子(2021年6月26日) 出典:Tim de Waele/Getty Images
集団になって走行する際には、前や隣の自転車との距離が30cmも無いところを走ることもある。しかし、それをやりこなすからこそプロでもあり、落車で怪我をしてもよほどの重傷でない限り、すぐに自転車に乗って競技を再開する。時には血を流しながら、並列して走っている車から医者に怪我の治療してもらいながら走っている姿も見られる。ツール・ド・フランスは、それほど過酷で、技術的にも肉体的にも精神的にも強靭さが求められるレースだ。
しかし、今回のように大規模な事故が起これば、技術や精神力だけではどうすることもできず、大けがをしてリタイアせざるを得ない選手もでてくる。落車がないように最大限の安全策が講じられることは、選手にとって一番重要なことなのでもあるのだ。
■ 主催者側は最終的には被害届を取り下げ
迷惑な行動をするごくわずかな人たちのせいで大会を台無しにしないために、主催者側はプラカードを持っていた女性を訴えた。しかし女性が夫に付き添われて警察に出頭し、罪を認めたため、主催者側は被害届を取り下げた。
ツール・ド・フランスのピエール=イヴ・トゥー副ディレクターによれば、ネット上で暴走している人たちもおり、落ち着かせるためにも被害届を取り下げたという。そして、全ての人々の安全を守るために規則を守ることを再度呼びかけている。
■ 悪い例の一つとして役に立つ
最終的に、主催者側からの被害届が取り下げられたとしても、「自発的ではないが、安全及び慎重さを欠いた行為からくる傷害」として罰が科せられるが、選手のケガが完治するまでの長さによって、今後、償う罪も変ってくる。また、現在、知られているだけでもスペインの選手から被害届が出ているということで、最終的にどのような判断が下されるかを知るのは、まだ先になるだろう。
拘束期間は延長され、現時点(7月1日)で女性の取り調べは続いているとみられる。4日間の行方不明期間に対する聞き取りなどが行われる予定だそうだが、警察としては、レースを妨害することは、リスクがあることをテレビを観ている視聴者に知らせるために厳格な対応をするという。それは仮装して選手と一緒に走るような愚か者に対する警告でもあり、警察がこういった事例に激怒していることを強調するためでもある。そして、今後も、そういう輩に対して容赦はしないと断言。今回のこの女性に対する扱いは、ツール・ド・フランスで何か愚かな行為をすればどうなるかという、代表例となるだろうとのことだ。
<参考リンク>
トップ写真:第108回ツール・ド・フランス2021、第1ステージ(ブレストからランデルノーまで)で起きた大規模クラッシュ(2021年6月26日) 出典:Anne-C – Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。