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.国際  投稿日:2021/7/14

インドネシア、コロナ感染危機的状況


大塚智彦

【まとめ】

・インドネシアがコロナ感染拡大により、医療崩壊の瀬戸際に立たされている。

・中国製ワクチンの有効性、安全性に疑問符が投げかけられている。

・現地日本大使館関係者「危機的な状況にある」と深刻な懸念

 

 

東南アジア諸国連合(ASEAN)の大国インドネシアがコロナ感染拡大により、医療崩壊の瀬戸際に立たされている。

世界第4位の約2億7000万人の人口を擁するインドネシアは人口の母数が多いこともあるが、ASEAN加盟国内でコロナ感染者数、感染死者数が圧倒的に多く、最悪の数字を記録し続けている。

7月12日には1日の感染者数が4万人を超えて過去最高を記録。これまでの感染者数は12日時点で256万7630人、感染死者数は6万7355人とASEAN域内で2番目のフィリピンの感染者数約150万人、感染死者約2万5000人以上をはるかに凌ぐ最悪の数字となっている。

インドネシア赤十字関係者は「大参事の瀬戸際」と現在の状況を表現、危機感を募らせている。

このような危機的状況のコロナ禍の中でインドネシアのジョコウィ大統領は首都ジャカルタなどに7月3日から以前より一段と厳しい「緊急大衆活動制限(PPKM Darurat)」なる社会制限に踏み切った。

その内容は主要な基幹分野を除く全ての企業、事務所、工場の在宅ワーク率を100%とし、全てのショッピングモール、飲食店などの営業停止(飲食店はテイクアウトのみ許可)、主要道路への乗用車、バイクの乗り入れ規制、学校の授業全てのオンライン化、宗教施設の閉鎖、国内を空路、水路、陸路で他州などへ移動するインドネシア人は陰性証明書と同時にワクチン接種済証明書の携帯と提示、職場に出勤する人は「就業登録証明(STRP)」の携帯・提示が必要などの内容になっている。

こうした厳しい内容だが、ジャカルタでは7月12日に一日の感染者数が1万4619人となるなど実質的な効果は今のところ見えてきていない。

★中国製ワクチンに疑問の声

 インドネシアのワクチンで主流を占める中国製「シノバック・バイオテック社製」のワクチンを接種した医療関係者600人以上がコロナに感染し、入院や死亡する例も出ている、という衝撃的な報道があった。

写真)医療従事者による大量ドライブスルーワクチン接種プログラム中 2021年4月5日ジョグジャカルタ

出典) Photo by Ulet Ifansasti/Getty Images

 

 インドネシアは2020年3月の初のインドネシア人感染者以来、中国が「一帯一路」構想に基づく「人道支援」として提供した「シノバック」ワクチンを医療関係者には優先して接種してきた経緯がある。

 しかしここへきて、ワクチンを接種したにも関わらず感染するケースが目立ち、中国製ワクチンの有効性、安全性に疑問符が投げかけられているのだ。

 しかしジョコウィ政権は「政府が進めるコロナ対策を信用するように」「中国製以外のワクチン接種も可能である」などとして、中国製ワクチンへの国民の疑問を解消することに躍起となっている。

 中国から早い段階で提供され、医療関係者のみならず、ジョコウィ大統領自身をはじめとする政府要人、国会議員、宗教指導者、軍や警察といった治安当局者へ優先して接種を進めた経緯があり、「いまさらその効果や安全性に疑問を呈することはできない」との思惑が背景にあるとされている。

 中国製ワクチンの導入に際してはインドネシアが独自に臨床検査で、有効率は65%といわれたが必要性から緊急使用許可を出した経緯がある。

 さらに衝撃的なニュースはこの中国製ワクチンの臨床検査の責任者だった国立製薬会社「ビオ・ファルマ社」のノビリア博士が7月7日にコロナに感染して死亡したことを伝えた。こうしたことからインドネシアでは中国製ワクチンは「中身は水ではないか」との疑惑も流れている。

★在留邦人社会にも危機感

 こうしたインドネシアの厳しい状況を現地日本大使館関係者も「危機的な状況にある」と深刻な懸念を示している。さらに在留邦人の間でも7月12日までに日本人の感染者300人以上、感染死者14人となっている事態に不安が拡大、相当の危機感が流れているという。

 日本外務省は8月1日から在外邦人のために成田空港などでワクチン接種が可能になるよう準備を進めているというが、インドネシアの在留邦人は「日本に向かう航空便の予約が困難」という問題に直面している。

 日本への一時帰国が叶わない場合、インドネシアに留まってワクチン接種を受けることになるが「中国製ワクチンへの疑問」を理由に「躊躇」する人も多い。

 さらに発熱や感染が疑われる症状が出ても地元の病院が満床で医療用酸素なども不足していることから入院も容易ではない状況が続いている。

 こうした逼迫した状況に日本大使館は「重症者は海外旅行保険に入っていると思われるのでそれを利用して飛行機で帰国して、日本で治療を受けて下さい」と応答していると在留邦人は話している。

 その「突き離したような回答からは在留邦人の生命を守るという姿勢が感じられない」と不満が高まっている。

 「帰りたいが帰れない」「ワクチン接種を受けたいが中国製ワクチンは嫌だ」「体調不良で診察を受けたいが医療機関事態での感染が怖い」「入院など満床を理由に断られている」などインドネシア在留邦人の間からは不満と不安の声が沸き起こっている。

★インドネシア政府の消極的対策

 インドネシア政府はジャカルタなどに「緊急大衆活動制限(PPKMDarurat)」を敷いて感染防止対策を強化している。

 しかしタイ政府が7月12日から首都バンコクなどを対象に「ロックダウン(都市封鎖)」を布告し、夜間外出禁止令(午後9時から翌日の午前4時まで)を含む厳しい措置に乗り出しているが、インドネシア政府や州政府は「経済活動への影響が大きい」として本格的な「ロックダウン」「夜間外出禁止令」などの発令にはこれまで通り消極的な姿勢に留まっている。

 中国製ワクチンの有効性への国民の疑惑が高まる中、そして在留邦人をはじめとする外国人の不安、不満を背景にジョコ・ウィドド大統領が今後どのような有効でかつ緊急性があり、実効性を伴ったコロナ感染防止対策を打ち出せるか、国民も在外邦人も命の危険を感じながら見守っている。

写真)新型コロナウイルスで死亡したと思われる人を埋葬する特別警察隊 2021年7月13日ジャカルタ

出典)Photo by Ed Wray/Getty Images




この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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