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.国際  投稿日:2021/8/6

中国、各地で甚大な洪水被害


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

「澁谷司の東アジアリサーチ」

【まとめ】

・台風6号「インファ」、中国各地で洪水被害。

・鄭州市当局、洪水による死者数の隠蔽を謀った。

・新型コロナ再流行や食糧危機で、習近平政権にダメージか。

今年(2021年)7月から8月にかけて、中国各地で甚大な洪水被害が起きている。最近の大雨と直近の台風6号(「インファ(In-fa)」。中国名「烟花」<「花火」>)による影響である。

7月下旬、我が国では、台風6号が沖縄を通過した。気象庁は同月28日午前3時、中国長江下流付近で熱帯性低気圧になったと発表している。

ところが、その後、「インファ」はゆっくりと華中沿岸部を北上し、8月に入っても、東北三省で猛威を振るった。そのため、同地方はもとより、広東省、浙江省、江蘇省、河南省、湖北省、上海市、天津市、北京市等でも水害が起き、各地で甚大な被害が生じた(7月30日、広州市の地下鉄「神舟路」駅で大量の水が駅構内に流れ込み、ホームまで浸水している)。

被害に遭った省市の中で、河南省鄭州市の状況が一番酷いようなので、ここでは同市をケース・スタディとして取り上げたい。

7月17日、鄭州市では雨が降り始め、昼夜を問わず、4日間降り続けた。そして、20日午後4時から5時にかけて、1時間に200ミリメートル以上の降水量を記録したのである。

同日午後6時50分頃、同市地下鉄5号線の車両が「海灘街」駅を過ぎたところで、突然停止した。午後7時時点で、多数の乗客が車両の中に閉じ込められている。そして、電車内では水位が乗客の首あたりまで迫った。結局、電車内では、14人が死亡している。

その後、「沙口」駅出口付近には、遺族らが献花した。ところが、初七日の同月26日、当局は献花台が見えないようにパネルで封鎖している(いったん、市民によってパネルは取り除かれたが、また封鎖された)。

他方、鄭州市では、京広高速(全長25.2キロメートル)が交通の要である。この京広高速には、3つの不連続のトンネル(4.3キロメートル)がある。その中で1番被害が大きかったのは京広北路トンネル(全長1835メートル、高さ6メートル)だった。

このトンネル内に大量の雨水が浸入し、多数の車がほとんど動けないまま水没した。一説にはおよそ6000人が亡くなったという(『自由時報』「解放軍全面接手!京廣隧道傳已挖出6000遺體 真相恐成『國家機密』」2021年7月24日付)。また、葬儀場には約2万人弱のご遺体が運ばれて来たという未確認情報もある。

けれども、鄭州市当局は、トンネル内死亡者は6人、廃車になった車両は247台だと公表した。無論、トンネル内の犠牲者がたった6人であるはずはない。だが、当局は、死者数の隠蔽を謀ったのである。京広線トンネルの歩道橋には、地下鉄「沙口」駅付近同様、死者を悼んで献花された。

一方、中国共産党は外国人記者に対し、中国の災害状況の取材をしないよう警告した。また、同党は共産主義青年団(「共青団」)を使って、外国人記者に嫌がらせを行っている。ちなみに、北京政府は英国のBBCが“フェイクニュース”を流していると非難した。

8月2日、河南省政府は、水害による死者が302人、行方不明者が50人に達したと発表している。

このような情勢下、被災した地域住民は、東京オリンピック観戦を楽しんでいる場合ではないだろう。生きるか死ぬかの瀬戸際である(一部の養豚農家は水害に遭ってほとんどの豚を失い、生活に困窮している)。

また、中国では食糧危機が迫っているせいか、7月30日、国家発展改革委員会は、国内の一部主要肥料メーカーが一時的に輸出を停止すると発表した。水害で、食糧生産が厳しい状況に陥っている証左ではないか。

実は、現在、10省25都市に「新型コロナ」が再流行している(なお、中国製ワクチンの効果については、世界から疑われている)。「新型コロナ」の再流行は、洪水被害と相まって、習近平政権に大きなダメージを与えているのは間違いないだろう。

▲写真 習近平 出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images

ところで、以前から我々が主張しているように、中国共産党は、同党にとって不都合な数字はほとんどすべて隠蔽する(場合によっては、数字を捏造する)。

なぜ正確な数字を隠すのか。

第1に考えられるのは、同党は正確な数字を公表して、民衆から批判を受けたくないからではないか。共産党による“統治の正当性”が疑われ、揺らぐからだろう。

周知の如く、1949年10月、中国共産党は、中華人民共和国建国以降、町や村などの基層選挙以外、それより広域である省市等の地域代表、および全国代表の「両会」(全国人民代表大会代表と政治協商会議全国委員会委員)などを選ぶ“普通選挙”を行った事が一度もない。そのため、同党の“統治の正当性”が疑問視されている。

第2に考えられるのは、中国人特有の“面子”の問題ではないか。統治者として、正確な数字(特に、死者数の如く大きな数字)を出すのは恥ずかしいので、発表しないのかもしれない。

第3に考えられるのは、『孫子』の教えに従い、敵(自国民や諸外国)を混乱させようとして、デタラメな数字を公布している可能性も否定できないだろう。

トップ写真:昨年、洪水により町を破壊された中国四川省犍為県の様子(2020年8月19日) 出典:Photo by TPG/Getty Images


この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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