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.国際  投稿日:2021/9/21

中国、富裕層への締め付け一層強化


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2020#38」

 2021年2021年9月20-26日

【まとめ】

中国、不動産開発大手「中国恒大集団」の経営危機が話題に。

・同時期に有名芸能人の脱税摘発や大手IT企業への締め付け強化。

・いずれも、習近平政権の新政策「共同富裕」に関連か。

 

 振り返ってみれば、8月中旬以降、様々なことが起きた。アフガニスタンではカブールがあっけなく陥落、8月30日には米軍が完全撤退を完了した。9月に入ると菅首相の総裁選不出馬声明があり、それからというもの、日本のマスコミは自民党の準広報機関のように、総裁選関連報道を連日垂れ流している。

そうしたフィーバーの中で、今週筆者が注目したのは中国内で最近起きている二つの大きなニュースだ。一つは「恒大集団」の破綻という経済現象、もう一方はIT長者や芸能人セレブなどのスキャンダルという政治現象である。これらは一見、相互に関連のない個別の事件に思えるかもしれないが、実は相互に関連しているようだ。

まずは、中国の不動産バブルの行方から。先週、各国市場では、巨額の負債を抱えた中国の不動産開発大手「中国恒大集団(China Evergrande Group)」の経営危機の噂が駆け巡った。負債総額30兆円、債務超過2兆円弱という大型破綻になる可能性があるらしい。投資家や金融業界にとっては重大ニュースだろう。

一方、最近中国では、有名芸能人の摘発やIT企業や学習塾への締め付けなど富裕層を狙ったとみられる当局の動きが目立っている。複数の中国大手IT企業が突然各種慈善事業に巨額の寄付を始めたり、人気俳優がドラマ出演料の脱税容疑で巨額の罰金支払いを命じられた。「共同富裕」と呼ばれる新政策の結果だと噂されている。

これらを如何に読み解くべきか。結論を急げば、筆者はこれら二つの現象が、より巨大な同一現象の一部分に過ぎないと考え始めている。政治と経済が一体化し、純粋の経済活動が存在し得ない不思議な国、中国において「政治的経済現象」を如何に深読みすべきか。詳細は今週の日経ビジネスオンラインをご一読願いたい。

結論の一部を明かせば、習近平の本年8月17日のいわゆる「共同富裕」演説は金融市場の安定化についても詳しく言及しており、IT企業の突然の寄付行為も、芸能人の脱税事件も、中国恒大集団の取り扱いも、全てはその習近平演説を受けたものと考えるのが自然だ、ということだ。

筆者が中国政治の分かるエコノミストであれば、直ちに同演説の原文を再度精読し、 経済原理ではなく、政治的必要性の観点から、中国政府による「恒大集団」問題の処理の行方を占うところだが、生憎、筆者にはその種の能力がない。中国とは、全ての経済活動が政治的意味を持ち、14億人の「政商」が生息する不思議な国なのである。

〇アジア

米英豪がインド太平洋地域を念頭に、AUKUSなる新たな安保の枠組み作り、手始めに米英が豪の原子力潜水艦建造計画を支援するという。それにしても、原潜技術を提供するとは相当の決断だ。豪州は「ルビコンを渡った」というのが筆者の印象である。これを中国が座視する筈はないが、急所を突かれたのではないか。

〇欧州・ロシア

急所といえば、豪原潜計画ではメンツを潰されたフランスが激怒している。それまで進んできた仏製潜水艦計画が御破算となり、完全に梯子を外されたからだ。豪州にも言い分はあるようだが、結局はディーゼルエンジンの潜水艦では、中国海軍に対する抑止力にはならないと米国が腹を括ったのだろう。可哀想なのはフランスだ。

 〇中東

先週アフガニスタン東部でターリバーン関係者を狙った爆破テロが相次ぎ、「イスラム国ホラサーン州」が犯行を認めたという。爆破はジャララバード市内で4件起き、民間人を含め4人が死亡したそうだ。これは単なる序曲に過ぎない。悲しいかな、アフガニスタンでは「テロで笑う者は、テロで泣く」のである。

〇南北アメリカ

中米ハイチ出身の移民希望者が米テキサス州メキシコ国境に大挙押し寄せている。不法移民は過去20年で最多の水準だそうだ。トランプ政権は「壁を作る」政策で厳しく対処したが効果はなく、バイデン政権にも特効薬はない。そりゃそうだろう、メキシコとの国境はあまりに長い。そもそも、物理的に食い止めるのは不可能なのだから。

〇インド亜大陸

特記事項なし。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは来週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:中国共産党​創立100周年祝賀行事で演説する習近平国家主席(2021年7月1日) 出典:Kevin Frayer/Getty Images

 

【訂正】2021年9月22日

本記事(初掲載日2021年9月21日)の本文中2箇所間違いがありました。お詫びして訂正いたします。本文では既に訂正してあります。

誤:結論の一部を明かせば、習近平の本年8月17日のいわゆる「共同富裕」演説は金融市場の安定化についても詳しく言及しており、IT企業の突然の寄付行為も、芸能人の脱税行事も、中国恒大集団の取り扱いも、全てはその習近平演説を受けたものと考えるのが自然だ、ということだ。

正:結論の一部を明かせば、習近平の本年8月17日のいわゆる「共同富裕」演説は金融市場の安定化についても詳しく言及しており、IT企業の突然の寄付行為も、芸能人の脱税事件も、中国恒大集団の取り扱いも、全てはその習近平演説を受けたものと考えるのが自然だ、ということだ。

 

誤:それまで進んできた仏製潜水艦懸隔が御破算となり、完全に梯子を外されたからだ。

正:それまで進んできた仏製潜水艦計画が御破算となり、完全に梯子を外されたからだ。




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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