仏、国産家電製品好調のわけ
Ulala(著述家)
「フランスUlalaの視点」
【まとめ】
・フランス製の家電の売り上げが1年間で17%増加した。
・米中貿易戦争やコロナ禍によるコンテナ不足・滞留の影響で、海上運賃が1年間で7倍となった。
・自国民を助けるためにも自国製品を買おうという動きが活発化している。
フランス製の家電市場の売上高が、1年間で17%増加し、記録的な成長が見込まれている。
フランスの家電製造企業ブラントグループのオルレアン工場では、コンロとオーブンを組み立てているが、今年は、55万個の部品が組立ラインから出荷された。これは2020年の生産量の2倍の数であり、この工場では前例のない記録となったという。また現在においても、毎月、組み立て量は増加傾向にあり、今後50人の増員が必要になるというのだ。
グループのCEOシモン・バルボー氏はこの増加の要因をこう説明している。「フランスでも確かに原材料のコストの上昇の影響を受けていますが、海上輸送の価格上昇の影響よりは、はるかに少なく、競争上の優位性となっています。」
フランスの家電市場では、約40%がアジアから輸入されている。しかしながら、現在、在庫が不足したり、海上運賃の高騰の方が影響でアジアからの商品は通常よりも10~30ユーロ割高になっており、この結果、フランス製品との価格差が小さくなった。今までは値段が安いためアジア製が買われることが多かったが、価格が機種によっては50ユーロ程度しか差がなくなるものもあり、その場合、消費者はより長く使えて性能がいいという理由などから、フランス製を選ぶことが多くなっているのだ。
■ 世界的なコンテナ不足と海上運賃の高騰
コンテナ不足などによる、海上運賃の高騰は世界的なものだ。
この問題の最初の始まりは、2018年の春〜夏にかけて勃発した「米中貿易戦争」であった。世界のコンテナの9割以上(96〜98%)が中国で生産されているが、「米中貿易戦争」の影響で、新造コンテナの生産量が、2018年と2019年の2年間で急激に減少し、輸送量が低下したのだ。その上2020年からコロナ禍。その結果、さらに先行きが不透明になり、中国国内の工場の生産能力も低下。
また、コロナ禍の影響はそれだけではない。世界各国での都市封鎖が実施され、感染拡大による港湾作業員の不足のため、コンテナ貨物が港湾に滞留することになった。通常は14日間以内に貨物を取り出し、空のコンテナを返却する必要があるが、海運会社もコンテナ船を減便させたため、空にしたあと1カ月経っても積み上げられたままになっているものもあり、輸送地でコンテナが不足する事態になったという。そんな中、欧米では外出禁止の影響で巣ごもり消費が増加し、欧米向けの輸出が増加。
結果、コンテナ船の運賃が高騰した。アジアからフランスへのコンテナの料金は、以前は1860ユーロだったものの、現在は12560ユーロになっており、1年で価格が7倍になったのだ。
■ アジア製品に対する、消費者の不信感
また、問題はコンテナだけではない。フランスでのアジア製品の人気の低下も理由の一つとなっている。
フランスのテレビLCIのインタヴューでは、「中国から輸入した製品を使ったことがあるが、あまりいいものではなかった。」と答えた購入者もいる。その経験より、今回は、「高齢者のために購入するものなので、何も問題のない製品を買いたい」と、フランス製を選んだそうだ。
また、フランスでは、自国民を助けるためにも自国製品を買おうという動きも活発だ。フランス製品を使うべき、買うべきという認識がとても強い。特に、公的な仕事で使用する製品はもちろんのことで、先日も、「フランス軍の洋服は中国製」という話が流れた際には、大反発が起きた。最終的にフェイクニュースだとされたが、本当であったら大問題になっていただろう。
フランスでは、自国製品を買う事自体が国益になることを理解している国民が多く、予算が許すならばフランス製を買おうとする傾向も強いことも売上高増加の一因とも言える。
写真)サマリテーヌ百貨店の様子(2021年8月24日、フランス・パリ)
出典)Photo by Frédéric Soltan/Corbis via Getty Images
■ 自国製であることが強みとなる
世界的なコンテナの不足、及び運賃の高騰により、アジア電化製品が在庫不足になったり、値段が高騰した結果、フランス製品の注文が増加した。
しかしながら、世界で何が起こっても、自国で製品を作っていれば困ることはない。家電市場のフランス製品の売り上げ増加は、フランスで生産されていることの強みと価値を示したともいえる。
コロナ禍を経て、輸入に問題が生じた場合起こる問題を経験した今、フランスでは自国で生産することの大切さを実感しているところでもあるのだ。
参考リンク
トップ写真:フェリーへ積まれる貨物を乗せたトラック(2021年7月1日、フランス・シェルブールにて)
出典:Photo by Aurelien Meunier/Getty Images
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この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。