サステナブルな社会・地域の魅力を考える一歩「マナベルマルシェ」とは
Japan In-depth編集部(磯部里帆)
【まとめ】
・「学び」と「マルシェ」の融合で食をより楽しむことをコンセプトにした「マナベルマルシェ」がオープンする。
・背景には、環境省による「地域循環共生圏」の推進がある。
・持続可能な社会の実現の一歩として、サスティナビリティを理解するため、身近な「食」から知ることができるこうしたイベントは意義がある。
大手デベロッパーが、地方の特産品を期間限定で東京・銀座の商業施設に集め、子ども記者に取材してもらった内容を展示するという、一風変わったイベントがあったので行ってみた。「マナベルマルシェ~子どもたちが取材した生産のプロセス展~」と題されたこのイベントを取材したので紹介する。
■ マナベルマルシェと開催の背景
東急不動産が主催したこのイベント、生産のプロセスに対する「学び」と「マルシェ」の一体化をコンセプトとしたものだ。
会場は「マナベルゾーン」(子ども記者による生産者への取材内容や自治体のアート展示)と「マルシェゾーン」(産地直送の特産物が楽しめるアンテナショップ)に分かれている。
「マルシェゾーン」には、茨城県行方(なめがた)市のイチゴ、北海道釧路町の昆布、北海道松前町の雲丹などの特産品の販売が行われる。
▲写真 マナベルマルシェ マルシェゾーン(北海道・釧路町の特産品) ⒸJapan In-depth編集部(2021年11月29日)
「マナベルゾーン」では、生産に携わっている方々の想いについての「学び」と再生可能エネルギーを活用し持続可能な社会の実現のために努力する自治体の特産物を提供している。
「学び」に関しては、東京大学先端科学技術研究センター中邑賢龍教授が監修し取材プログラムを履修した子ども記者が、行方市、釧路町、松前町の特産物生産者に対して生産に携わる想いや苦労など、子どもならではの視点で取材を行った。
その様子がマナベルゾーンに展示されたり、やり取りが商品購入時の包装紙に掲載されることで参加者に楽しみながら持続可能な社会に向けての取り組みや農山漁村と都市の互助に関心をもってもらうようになっている。
▲写真 マナベルマルシェ マナベルゾーン、写真中のモニターで子ども記者による取材の様子(音声)を聞くことができる。 ⒸJapan In-depth編集部(2021年11月29日)
さらに、マナベルマルシェ開催期間中にはトイレットペーパーリサイクルに関するイベントやSDGsを学ぶことのできるセミナーも企画されている。
■ マルシェ開催の背景
なぜ、デベロッパーがこのようなイベントを開催したのか。主催した東急不動産取締役常務執行役員の池内敬さんは、「(当社は)政府の掲げる脱炭素社会に向けて、再生可能エネルギー事業を重点施策として展開しており、SDGs(持続可能な開発目標)にも繋がる」と述べた。
背景には近年企業に求められているSDGsへの取り組みがある。それにしても、なぜ「マルシェ」なのだろうか?
その答えのヒントは、環境省の推進する「地域循環共生圏」にあった。地域循環共生圏とは、SDGsやパリ協定の採択等で国際的に大きな転換点を迎える中で、各地域の特有の資源等を活用する等、特性を生かして自立・分散型の社会の形成を目指し、その特性を互いに補完し、支え合う社会を目指すこととされている。
このような国内外の変化の中で、企業もまた、持続可能な社会の実現に向けた社会貢献活動が求められるようになった。単純に良い商品やサービスを提供し、利潤を追求するだけでは消費者の理解を得られない時代となったのだ。
■ マナベルマルシェの意義
マナベルマルシェ開催の意義とは何だろうか。
まず、主催する企業は、自治体からの物産の販売の委託で利益を得ることができる。そして、地域発展・サスティナビリティに関する社会貢献を行い、消費者にアピールすることで企業のイメージ向上にも繋がる。
一方、自治体は、マナベルマルシェを通した宣伝効果で知名度が向上する。東京・銀座で多くの人の目に触れ、特産品の購入を通して魅力を知ってもらう機会を得られるという点においてメリットがあるだろう。ふるさと納税やIターン者の獲得も期待できるかもしれない。なにより生産者にとっては、自身の生産物を評価してもらえる良い機会となる。
消費者はどうか。マナベルマルシェは各地域からの出展であることから、自分たちの食は様々な地域から支えられていることを実感することできる。特に、実際に生産者の方々へ取材を行い、自分たちが主体となって食卓に並ぶまでの生産の過程・ストーリーを知ることで、食材の生産を支える環境や生産者へ意識が向くようになる。
東急不動産都市事業ユニットスマートシティ推進部課長補佐の瀬志本藍さんも、「地方は都市に依存していると思われがちだが、そうではなく、地方の自然の恵みが生み出すエネルギー・水・食料・人材は地方から供給されており、都市と地方のつながりの大切さに目を向けることができる」と話す。
また、子どもが主体的に関わることで大人の気付かない視点を得ることができる点も大きい。
実際、子どもたちは生産者の方々へ「漁師さんという仕事に就くために頑張ったことはありますか」「大根は1本何秒で抜くことができるのですか」など、子どもだからこそ聞くことのできる質問を投げかけていたようである。
▲写真 子ども記者と生産者のやり取りが印刷された商品購入時の包装 ⒸJapan In-depth編集部(2021年11月29日)
■ 企業の社会貢献活動の課題
こうしたサステナビリティをテーマにした社会貢献活動に取り組む企業は今後ますます増えるだろう。持続可能な社会の実現と経済活動の両立が企業に求められるからだ。
しかし、企業にとって社会貢献活動は一定のコストがかかるため、コロナ禍で生き残りに必死な企業には、そこまでの余裕がないということもあろう。そうした企業も、今回のイベントを1つのロールモデルとして、持続可能な社会貢献の仕組みを考えることが求められていくと思われる。
「マナベルマルシェ ~子どもたちが取材した生産のプロセス展~」
期間:2021年11月30日(火)~12月28日(火)
時間:11:00~20:00 ※東急プラザ銀座営業時間に準ずる
場所:東急プラザ銀座B1階
内容:・子ども記者による生産者への取材(「声」の展示)
・地域の産地直送の特産物の販売
・カフェカウンターでの各地域の地酒やビール、ジュース等の試飲
【参加自治体】茨城県行方市、北海道釧路町、北海道松前町
協力:株式会社atacLab、中邑 賢龍氏(東京大学先端科学技術研究センター 教授/取材プログラム監修)
料金:入場無料 ※特産物等の購入は有料
トップ画像:マナベルマルシェのPRを行うタレントの鈴木奈々さん(左)と東急不動産取締役常務執行役員の池内敬さん(右) ⒸJapan In-depth編集部(2021年11月29日)